表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/48

かたいぜっ

「え~と、どちらさまですか?」

 自分は大きな声を出した男性に聞いた。

 フラフラと機体に乗りかけていたところを助けてくれたのだ。

 多分この機体に乗ったら、なにか取り返しのつかないことになるような気がする。


「ふんっ、ミツルギ・インダストリーの開発チームの主任チーフ、サクラギだっ」

 白衣でやせぎすの男性だ。

 眼鏡。


「ミツルギ・インダストリーって言ったら大企業じゃないですかっ」

「軍の現行の機体はミツルギ製ですよねっ」

 自分は興奮して言った。


「ふふん、そのとおりだっ」

 チャキリ

 眼鏡を上げる。


 ()()ミツルギのブースは隣である。

 両腕にブースターシールドをつけたスマートな機体が、四角くて大きい機体の横に並んで立っていた。

 ――たしか、”シルフィード”だったっけ。細身でスマートな可変機。かっこいい。試乗したいなあ。


「はっはあああ~~ん」

「そんなちっちゃくて細い機体モノで私を満足させられてえ?」

 お姉さんが白衣の男性の下半身をちらりと見た後、馬鹿にしたようにふっと鼻で笑った。 

 確かに細身ではある。 


「ぐぬぬぬぬ」

 白衣の男性が顔を真っ赤にして怒っている。


「それに比べて、見てこのどっしりとした大きさ」

 益荒男ますらおの前で両手をひろげながらお姉さんが言う。

「うふふふう、硬いわよおおう」

「五重の積層装甲で、戦艦の主砲を一発くらいなら余裕で耐えちゃうっ」

 お姉さんは満面の笑みだ。


 ――って、ったっ。戦艦の主砲の一撃を耐えるのか。


「くそおおう、決闘だあっ」

「明日の試乗会でエキシビションマッチを申し込むっ」

 白衣の男性が叫んだ。

 いわば宣伝を兼ねた模擬戦である。

 普通は他社とはしないけど。


「あらあら、残念ねえ」

 お姉さんが肩をすくめる。


「なんだっ」


益荒男ますらおは、複座よおう」

 二人乗りだ。

 ベースが重機だから、戦闘用AIを乗せていないようである。

「パイロットが一人足りない……」


 じ~~~~


 ――ん?お姉さんがこちらを見ているぞ。


「ねえ貴方、お名前は?」


「……サカイだ、サカイ・イチロー」

 

「確か傭兵マークスよねえ」


「……ああ……」

 何か嫌な予感。


「というわけで決闘を受けるわっ」

「彼と一緒にねっ」

 お姉さんが、自分の腕に柔らかいものを押し付けながら言った。


「えっ、嫌ですっ」

 即答だ。


「分かったあ、明日逃げるなよお」

 白衣の男性が、お姉さんと自分をものすごい目で睨みながら言った。


「だから嫌ですってばっ」

 ――聞いてくださいっ


「けちょんけちょんにしてやるっ」


「はっ。 そんな、タン〇、ホー〇イな機体モノでっ?」

「出来るものならやってみなさいな」

 お姉さんが自分の腕を持ったまま、馬鹿にしたように言う。


「くうう」

 キッ

「サカイと言ったな、顔と名前を覚えたぞっ」

 白衣の男性が怒りながら隣のブースに帰って行った。


「ち、ちがうんです……」

 ――聞いて


にらまれちゃったわね」 

 仕事を依頼されてお金をもらう傭兵マークス

 傭兵マークスは評判が大事。

 大手のミツルギににらまれると。


「仕事が来なくなっちゃうじゃないですかっ」


 コンペ会場には新機体の勉強もあるが、自分自身を売り込みに来ているのだ。


「あはは、パパに言っといてあげるわっ」


「パパ?」


「あら、私の名前は、芋洗坂いもあらいざか・マリア」

芋洗坂いもあらいざかはパパの会社よ」


 お姉さんは、芋洗坂いもあらいざかの社長令嬢でした。


「とりあえず、うちと仮契約ね」

 お姉さん改め、芋洗坂いもあらいざか・マリアがにっこりと笑った。

 ――に、逃げられなかった

 大きくて四角い機体をそっと見上げたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ