かえるぜっ
コンペティションが終了した。
模擬戦闘の様子はコンペの期間中メインスクリーンで流されている。
宇宙動画サイトにも投稿されることだろう。
「では、帰りましょうか」
益荒男の補助席に座った、”芋洗坂・マリア”が言った。
後席には、”サカイ・イチロー。
前席には、”レイカ・バレイショー”。
後席の横に補助シートが出されていた。
益荒男の広い操縦席は、余裕で横に座れるのである。
「了解」
サカイがゆっくりと益荒男を前進させる。
宇宙空母、”エンタープライズ”の資材搬入口から機体を出す。
益荒男の後ろには、益荒男より一回り大きい宇宙船がついて来た。
武骨で四角い船体。
所々に黒と黄色の縞模様。
”質実剛健”という言葉を体現したようだ。
「……かっこいいですヮ……」
360度、アラウンドビュー
レイカが、後ろを振り返りながら、熱い息を吐いた。
船体の前に輝く銀色の、”サツマイモと直角三角形”のエンブレム。
宇宙のトラックと呼ばれる、芋洗い坂製貨物宇宙船、”スペースエルフ”である。
後ろの四角い貨物コンテナには、コンペに使われた資材が乗せられている。
スペースエルフの操縦席は、耐宇宙用ガラスばりである。(トラックのように)
グッ
”大きくて丸いハンドル”を持ったガチムキ執事、”アーノルド”が、”スペースエルフ”の操縦席から親指を上げた。
「どっちに飛ばせばいいの」
サカイがマリアに聞いた。
「ああ、駐船場、”エリア88”へ飛んでちょうだい」
コンペティションの会場の周辺宙域に、ソノブイで駐船スペースが作られている。
点滅するライト(ソノブイ)で区切られていた場所に、各企業の宇宙船が並んでいた。
サカイは、”エリア88“のスペースに益荒男を飛ばす。
「あれよ」
マリアが指さす先には……。
「まああっ」
レイカの悦びの声だ。
その宇宙船は、大きく四角く武骨だった。
大きな直方体の上に小さな直方体を重ねたような船体。
小さな直方体の前面にある平型艦橋(フェリーみたいな感じ)。
船体後部、左右にある独立した二対の四角いエンジンユニット。
そして、
船体の真ん中にある円形のリング。
そのリングの上に巨大な大砲(←船体の三分の一くらい)。
リングに沿ってクルリと船の周りをまわるように出来ている。
「なっ」
サカイが絶句する。
「……48サンチ陽電子衝撃砲三連装……」(三つ砲身が出ている)
「……宇宙戦艦大和型主砲を一門搭載……」
「……これが、益荒男の母艦……」
「宇宙戦艦、”やまとん”……よっ!!」
マリアが、豊かな胸を反らせながら大声で言った。
「う、うわあ」
サカイが何とも言えない顔をした。
「……やまとん……っ」
「かっこいいですヮアアア」
レイカが叫んだ。
宇宙戦艦?、”やまとん”。
芋洗い坂製重機輸送船、通称、”タコ部屋”に、多目的ウエポンラッチ(輪っか)をつけ、”宇宙戦艦大和型主砲”を一門、強引に乗せた代物であった。
フッフ――――ン
マリアが勝ち誇ったように胸を張る。
大きい方の直方体の後ろが大きく下に開く。
(重機用の)格納庫だ。
サカイは、ミシン目の様な誘導ビーコンの光に沿って、益荒男を、”やまとん”に着艦させる。
巨大な益荒男と、これまた大きな、”スペースエルフ”が余裕で着艦できた。
一旦艦橋に向かう。
「おかえり、マリア嬢」
艦長帽を着た、白髪白いひげの初老の男性だ。
「ただいま」
「こちらが、”やまとん”の艦長、”海野・九三”艦長よっ」
マリアが紹介した。
「は、はじめまして」
「よろしくお願いします……ヮ」
サカイとレイカがあいさつした。
「うむ、よろしく頼む」
”海野・九三”艦長が言う。
――十三じゃないんだ……
サカイがメタなことを考えていた。