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勇田さんと空を飛ぶっぽい

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

『高山くん、これが私の勇者の力』


 眼前に巨大なドラゴンの顔、鋭いキバと燃えるような瞳、そんな突然の非現実を受け入れられるほど、僕の心は準備できていなかった。

 あまりの驚きに腰を抜かして後ろに倒れ込む、尻からドスンといったが、驚きが痛みを凌駕していた。


『ああ、ごめん、びっくりさせちゃって、大丈夫?』

「あ、え?いや、ちょっとまって、ちょっとだけ」


 落ち着け、動揺するな、状況を整理しろ僕!!!


 ドラゴニアの力の話→それを見せて→目を閉じたらなんかすごい音→目を開けたらドラゴン→勇田さんは見当たらない→ドラゴンから勇田さんの声→ドラゴンが僕の心配してくれる。

 【つまり、目の前のドラゴンは勇田がドラゴニアの力で変身した姿】ってことでいいのかな?


「勇田さんなの?」


 脳内で構築した言葉の半分も声にならなかった。


『うん、そうだよ、これが私の力の一つ』

「本当だったんだね」

『うん、私はドラゴニアの勇者、世界を救う勇者として異世界で戦っていました』

「本当にドラゴニアの勇者なんだね」

『うん』

「そうなんだ」

『いきなりこの姿は怖いよね』


 少しだけ悲しそうな勇田さんの言葉を聞き、僕は立ち上がる、尻についた土埃を払い、眼前の勇田さんをしっかりと見据える。


「……いや」


 怖い?驚きはしたが、怖いは違う、そんな感情じゃない、勇田さんのドラゴンの姿に対して僕はまったく違う感情を抱いていた。


「すごい!!!!!」


 素直にそんな言葉しか浮かばなかった。


『すごい?』

「うん、だめだ、語彙が死んでる、すごい!!!すごいよ勇田さん!!!!!すごい!!!!」


 興奮して言葉が止まらない、だめだ、自分の目の前に夢の様な光景が広がっている、僕の脳を焼いてしまうには十分すぎる状況なんだ。ごめん勇田さん、すごいしか言えなくてごめん!


『あ、あぁぁ、そんな、高山くん、言い過ぎ……だよ』

「ごめん、もっといい言葉を、捻りだすから」

『違うの、違うの、そうじゃなくてぇ……褒められ……なれてなくて』


 勇田さん(ドラゴン)の体表が赤くなる。ドラゴンは照れたりすると身体ごと赤くなるんだ!?


「あぁごめん、すごいを止めるよ、すごいストップね」

『すいません、私、この姿でそんな事言われた事なくて、だいたいこの姿を見たら皆怖がったり、逃げたり、畏怖されることがほとんどだったから』


 そう言いながら勇田さんは顔を逸らす。


「そりゃ、いきなり勇田さんがドラゴンに変身したら驚くよ」


 驚くに決まってるけど、怖いってのは感覚の違いか、自分の頭がおかしいのか、理解できなかった。


「でも声は勇田さんだし、言葉使いは丁寧なままだし、勇田さんは勇田さんなわけで」

『うん』

「だから怖いわけないじゃないか!」


 断言すると、勇田さんはゆっくりと逸らしていた顔を僕のほうに向けてくれた。ドラゴンの姿でもその瞳はキラキラと碧く輝く瞳のままで、いつだって僕を魅了するその瞳はに心は吸い込まれてしまっている。


『……やっぱり』

「?」

『高山くんに話して良かった……』

「勇田さん」


 勇田さんのは涙を浮かべ、僕に話して良かったと言葉を漏らした。


「あ……」


 その姿と言葉に、僕は胸が痛むのを感じた。感じてしまった。

 勇田さんは、僕がドラゴニアを信じていると思って本当の事を話してくれた。


「それなのに僕は」


 信じていなかった、勇田さんと話せる嬉しさだけで、空想の話だと決めつけて話を合わせていた。小説の話だと思って話に乗っていた。

 「勇田さんと仲良くなれるから」っていう下心で、本当に信じて話してくれていた勇田さんの気持ちを利用してしまった。


「勇田さん、ごめんなさい」

『どうして高山くんが謝るの?』

「僕、本当はドラゴニアの話は勇田さんが書いてる小説の話だと思ってた」


 正直に話そう、勇田さんが正直に話してくれたんだ、僕はそれに応えなきゃかっこわるすぎる。


「勇田さんの角はコスプレだと思ってた、異世界の事も小説でよくある話だから知ったかぶりで話してただけで、アニメや小説が好きな僕には、勇田さんと共通の話題が話せるって単純にそう思って話をしてた、オタクな話題を勇田さんとできることが楽しくて、異世界の話が、ドラゴニアの話が面白くて、勇田さんが本気で話してくれてたのに……僕は本気でその話を聞いていなかった」


 本気をちゃんと受け止めてなかった、声にすればするほど申し訳なくて、憧れの勇田さんとの距離が縮まった事にはしゃいでいた自分が恥ずかしかった。


「僕を信用して、勇田さんが本気をぶつけてくれていたのに、僕は勇田さんとの会話を楽しんでただけで、全然勇田さんの力になれて無くて、本当にごめん!ごめん!!!」


 きっと軽蔑される、楽しいなんて浅はかな感情で、勇田さんの一大決心を軽んじて受け止めていた自分なんか。きっともうこれからはドラゴニアの話だったり、おススメの本や動画の話なんかできなくなる、そんな事を思うと急に胸に穴が空いたような、辛い感情が沸きあがった。


『高山くん……』

「だからもう」

『そんなの知ってたよ』

「え?」


 勇田さんから予想してない言葉が返ってきた。


「知ってたってどういう事?」

『高山くんがドラゴニアの事を信じてないってのは、お話ししてて分かってた、普通にそんな話信じる人いないって、私も馬鹿じゃないから分かるよ』

「だったらなんで」

『同じだったから』

「同じ?」

『私もね、高山くんと話すのが楽しかったの』


 勇田さんは笑顔でそう言った、ドラゴンの表情が笑顔なのかどうかは判断できないけど、僕はそう思った。


『学校で、誰にも言えない私の話を楽しそうに聞いてくれる、異世界から帰ってきてそんな事初めてだったから、高山くんが信じていようがいまいが関係なかったの』

「それって」

『私も自分が楽しいから、高山くんとお話ししてた、だから私たち同じなんだよ、自分勝手に楽しんでた仲間』

「は、はは……」

『本当はドラゴニアの事話しちゃいけないって、異世界保安機構って所から釘をさされてるんだけど、高山くんならいいかなって』

「なんかやばそうな名前出てきたけど、いいのそれ?」


 僕、消されたりしない?


『うん、ドラゴニアの話を聞いてくれる高山くんは本当に楽しそうで、私はそれで「あぁ、この人になら話しても大丈夫だろうな」って思ったの』

「そうなの?」

『高山くんはこの姿を見てなんて言ってくれた?』

「すごい」

『ね?大丈夫だったでしょ?』


 そうだけど、そうだけど、僕はドラゴンの勇田さんから少しも目を離せなくなっていた。ありがたいって気持ちと、嬉しいって気持ちと、勇田さんをもっと知りたいって気持ちと、全部がごちゃまぜで、勇田さんへの感情は完全にバーストしていた。


「僕、これからもドラゴニアの話を聞きたいって思ってるけど、勇田さんは話してくれる?」

『もちろん!!!!』


 食い気味の返事は咆哮の如く、僕の鼓膜を揺らした。


『あ、ごめんなさい……』

「ねえ、勇田さん」

『なに?』


 僕と勇田さんの関係は変わる事なく続いていくのか、はっきりとは分かってないけど、今の僕はドラゴンの勇田さんにどうしてもお願いしたい事があった。


 それは。


「ああああああああああああああああああああああああああああすごおおおおおおおおおおおおお」

『しっかり掴まっててね!!!』

「はやすぎるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」


 【ドラゴンの背に乗って空を飛ぶ】だ。


「これで死んでもおおおおおお後悔ないよおおおおおおおおおおおお」

『ええええ、死んだらだめだよぉ!!』

「それくらい!嬉しいんだよぉぉぉ!!!!!!!」

『よおおおし、じゃあ、もっと飛ばすよぉぉぉ』

「え?嘘、もっと?いやいやいやいや!!!!!!!」


 勇田さんは嬉しそうに僕を乗せ、音速を越える、普通なら風圧に人体は耐えられないらしいが、勇田さんの力でそうならないよう守られているらしい。らしいって連呼してるのが、本当にファンタジーを感じる。守られてはいるけど、ジェットコースターの500倍は迫力のある人生体験をしている気がする。しかしながら「ドラゴンの背に乗って空を飛びたい」なんて興味本位でも言うもんじゃないと、僕は反省した。


 だけど。


「ありがとうね、勇田さん」


 陽が沈む雲海を眺めながら、改めて僕は勇田さんにお礼を言う。


『こっちこそ』

「これからもよろしくって言っていいのかな?」

『嫌でも私たち席が隣なんだから』

「そうだね」

『毎日よろしくって言うよ!』

「ははっ」

『これからもよろしくね、高山くん!』

「よろしく、勇田さん!」


 勇田さんと飛んだこの日を僕は忘れないだろう、勇田さんの背中から見たこの景色を僕は忘れないだろう、人生の変わったこの日を―――


 僕は忘れないだろう。

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