放課後、勇田さんに告白されるっぽい
「休み時間に話した事の続き……なんだけど」
「ドラゴニアの話?」
勇田さんは異世界ドラゴニアの話を始める、すごく真面目な表情で、丁寧な口調で
「うん、あの時、高山くん聞いたよね、私が世界を救ったのか?って」
「う、うん」
勇田さんの脳内ストーリーだ、普通に考えれば世界は救われてめでたしめでたし、だろう……けど。
どうもそんな雰囲気ではない。
あれ?
「結論から言うと、救えたのかどうか、私には解らないの……」
「解らない?」
「ドラゴニアの運命がかかった最後の戦いの最中、私はドラゴニアから元の世界に戻ってしまったの」
「そう、なんだ……」
「だから、解らない、あの戦いでヘルドラゴンを倒せたのか、ハッキリしてなくて」
あれあれ?
トキメキモードだった雰囲気は霧散し、僕は勇田さんの話す物語に耳を傾ける。
「現に、私の中の勇者の力は消えていない、ヘルドラゴンを倒して世界を救えば、勇者の力は消えるはずなのに、それがまだ残ってるって事は、ドラゴニアは救われていないんじゃないかって!」
そういう設定であれば、それは確かにそうなのだけど……どうにも勇田さんのストーリーは単純ではなく、迷いが見える。今後の展開に悩んでるのか??なるほど、それで自分に相談という訳か。
あれれ?
なんだろう、そういうイベントじゃない感じ……かな?
「整え、俺の心」
「整え?」
「こっちの話、話を整理しよう!勇田さんはそのヘルドラゴン?を倒した手応えはあったの?」
「うん……多分」
「でも勇者の力は残ったままで、本当に倒したのかハッキリしないと」
「うん……ずっとモヤモヤしてる」
「なるほど」
「私、どうしたらいいのかな?」
勇田さんの悩みは理解できた。つまりは「このまま勇者が再びドラゴニアを訪れる続編を考えるべきか」「ハッピーエンドでまとめるか」という話が決めきれず、異世界転生系の小説に詳しい僕にその答えを求めている……と。
それをまんまと素敵なイベントと勘違いして、ウッキウキでココに来た自分、なんだろう、すごく恥ずかしい。
「高山くん?」
「ごめん、少し考えてて」
「高山くん詳しそうだから、もしかしたらなにか知ってるかなって……」
「何か……」
勇田さんはすがるような表情で僕を見る。初めて見る彼女のその真剣な表情に対して、僕は何を思ったのか少しだけいじわるな問いかけをする。
「じゃあ、勇田さんのその、まだ残ってる勇者の力を見せてくれる?」
「え?」
「具体的にどんな力なのかをしっかり理解しておきたいんだ、それを見れば何かいいアイディアを出せるかもしれないし」
設定に出てきた7つのエンシェントドラゴンの力と代償の話、そこらへんをしっかりと聞いておこう、ちゃんと設定してなかったら、そのあたりから突っ込んでいこうと思う。
勇田さんは驚いた後、少しだけ悩み黙ってしまう。無茶ぶりが過ぎたかもしれない……。
「あ、ごめん勇田さん、無茶ぶりだったよね」
「わかった」
「え?」
提案を取り消そうと謝罪の途中で、勇田さんは意を決したように瞳を輝かせながら僕にそう言った。
「高山くん……目を閉じてくれる?」
「目を?」
「うん、恥ずかしいから……」
目を閉じて?恥ずかしい?なんだ?もしかして着替えたりするって事なのかな?角とか?色々思いを馳せながら僕は目を閉じた。
「閉じたよ」
「いいって言うまで絶対に目を閉じててね」
勇田さんが緊張しているのが、目を閉じていてもつたわってくる。
「わ、わかった」
「……ドラゴニア……フォーム」
勇田さんが呪文のように呟くと、瞼の向こう、勇田さんの位置から、バキバキと大きめの物音がする、なんだ?何をしているんだ?目を閉じているが、想像しているよりスケールの大きな事が行われている気配がする。
「い、勇田さん、何?大丈夫?」
『……いいよ高山くん』
勇田さんの声色に違和感を感じる、いつもの透き通るような声でなく、なんというか低音混じりの力強いというか。
『目を開けて』
暗転していた瞼を開く、瞳に入る光が眩しく、僕は開いた目を少しすぼめる。
「勇田さん?」
薄く開いた視界にうっすら見えるそのシルエットは見覚えのあるものだった。
ただそれは、確実に勇田さんのシルエットでは無かった。
「あ、あ……あ……あ……」
目の前に現れたシルエットの正体は、異世界小説でよく見る巨大な【ドラゴン】だった。