勇田さんが旧校舎裏で待ってるっぽい
「放課後……時間ある?」
「あのね……見てほしいものがあって」
「《《高山くんにだけみせたいの》》」
今日一日この言葉がリピート再生され続け、なんにも話が頭に入ってこなかった。
放課後を待つ僕の心臓はすでにオーバーヒートしていた。いつぶっ倒れて担架で運ばれてもおかしくない、隣に座る美しい美少女の誘いに、妄想せざるを得なかった。
『だってしかたないじゃん!!!』
しかたないだろ?イベントだって期待するでしょ?僕はどこにでもいる一般的なノーマル学生、勇田さんと話をできているだけで十分満足なんだ、そんな僕だが。
「《《高山くんにだけみせたいの》》」
なんて言われたら、それは期待するでしょ?
♪キンコンカンコン♪
放課後のチャイムに僕はビクッと反応し、ついにその時が訪れる。
勇田さんは僕に目配せをして、手紙を渡してきた。ニコっと微笑むと、照れ臭そうに教室を後にする。
足早に教室を去った勇田さんの手紙には
『旧校舎の裏に来て』
と書いてあった。
時が来たのだ、僕の運命が変わる時が。
覚悟を決めて、僕は旧校舎へと向かう。思えば随分と速足だったかもしれない。
「どした?まこっち、そんな慌ててう〇こか?」
「違うよ冬也くん、う〇こじゃないよ、じゃあまた明日!」
「おうー」
すれ違う冬也くんを適当にあしらい、ゴールを目指す。
しかしどうした事か階段を下りたあたりから急激に足が重くなる。
「あれれ、ど、どうしたぁ?僕の足ぃ」
旧校舎へ行くことが怖いとでもいうのか?期待を裏切られて恥をかくのではないのか?どっきりを仕掛けられ、おめーなんかに告白するわけなーだろ、と笑い物にされたりするのではないのか?いや、勇田さんに限ってそれはない!!無いが、足が沈む、床が泥のようだ。全然床タイルなのに泥のように足が動かないっ!!!
「うごけぇうごけぇ」
太ももをパンパンと叩く僕に、帰宅部たちの嘲笑の視線が刺さる。
ああ、笑うがいいさ、それでも僕は進まなきゃいけないのだから!!
「うぉぉ!!!!!!!!!!!」
泥から足を引き抜き、僕は勇田さんの待つ旧校舎へ足を進める。
「(まってて勇田さん!今行くから!!!)」
僕は心の中で叫ぶと、駆け出した。がむしゃらに、勇田さんの元に行くために。
校舎から旧校舎までの500Mほどを、全力で走った。
息が続かない、たった500Mがこんなにも遠くに感じるなんて!旧校舎遠すぎでは?実際500Mって遠い、だから人が来ないんだけど。
肩で息をしながら、僕はやっとの思いで、辿り着く。
旧校舎裏
そこには、美しい少女が立っていた。
「高山くん……」
「勇田さん……」
旧校舎裏を夕陽が照らす、その陽に照らされた勇田さんは本当にこの世の物ではないように思えた。僕の目の錯覚だが、キラキラと宝石のような煌めきが見える。
「あ、その、あの」
やばい、心臓の音が尋常じゃない、聞こえるんじゃないか?ってくらい鳴ってる、警報に近い心音が、僕の語彙力を低下させる。
「どうも」
これが限界まで絞り出し、絞り出しすぎた故出てきた最初の言葉だった。
「来てくれてありがとう」
「あ、いや、それはそうで」
言葉が落ち着かない、だめだ、絶対顔に出てる!!
「うんっ!!!」
落ち着くために胸をドンドンと叩いて心臓に圧をかける。
「どうかした?」
「いや、うん、気にしないで」
整え俺、俺の全身、細胞、心臓、脳みそ、筋肉、髪の毛の一本まで、整え、整え。
「話したい事って?」
「驚かないで聞いてほしい……」
「驚くかもしれないけど、聞くよ」
勇田さんが神妙な面持ちで僕に語りだす。