勇田さんと秘密を共有したっぽい
あの日以来、僕の勇田さん観察は過熱の一途を辿った。
授業中も。
昼休みも。
掃除時間も。
放課後も。
隙あらば彼女を眺めていた。その結果得た成果は……
【やっぱりかわいい】
という結論だった。
ただ、それだけではない。
毎日見つめ続けたのが功を奏したのかは知らないが。
「あれ、コスプレだからね!」
あの日から勇田さんは、僕こと高山誠に毎朝あの角の件について説明してくれるようになった。
聞いてもないのに。
否応なしにあの一件を意識せざるを得ない状況に、僕は戸惑いつつも、勇田さんとの距離が縮まった気がしていた。うん、そうだね、僕は単純なのだ。
「大丈夫だよ、あの事は内緒にしておくから、バレたらまずいもんね」
僕は意地悪にそういうと、勇田さんは。
「え?それって」
と目を丸くして、僕を見る。翠色の瞳がまっすぐに僕の瞳を捉える、僕は急に気恥ずかしくなり目を逸らす。
「そのままの意味だよ、誰にも言わない(コスプレが趣味だってことは)」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだよ、言わないだってプライベートな話だし(コスプレが趣味だってことは)」
「高山君ってやっぱりいい人なんだね」
「いや、いい人なんかじゃないよ、当たり前の気配りレベルの話だよ」
「へぇ……当たり前……なんだ」
「あ、でもやっぱりってどういう意味?」
「あ、いや、なんでもない、いい人、高山君は、とってもいい人、知ってた!」
「あはは……そんないい人じゃないってば」
勇田さんに褒められると心底嬉しいが、反応に困ってしまう。
だけど、確実にこの会話をきっかけに勇田さんから僕に話しかけてくれることが増えていく。
「今日何食べた?」
「家で何してるの?」
「好きな食べ物は?本は?映画は?」
「私はご飯なら何でも好き!」
食べることが好きなのか、ご飯の話題が多いが、趣味の話なんかもするようになり、どんな本を読むのか?と聞かれ、ライトノベルしか読んでいない普通のオタクな僕は「異世界転移系を少々」と意識が低い読書趣味を披露するが。
「異世界転移……」
勇田さんは引くことなく、僕の趣味に耳を傾けてくれた。早口にその魅力を伝えると、勇田さんは「そうなんだ」「おもしろい」「ちょっと違うかも」なんて反応をしてくれるのだ。楽しそうに会話をしてくれる勇田さん。
あぁ、だめだ、キラキラと話す勇田さんは、清楚な優等生とは程遠く、明るい笑顔の似合う女の子で……僕は、僕はそんな勇田さんに。
【憧れ以上の感情を意識し始めていた】
僕だって男子高校生の端くれだ、恋くらいするさ、恋と断定するには早いかもしれないが、たまたま隣の席で話しかけてくれる女子ってだけでそう意識しちゃうくらいには僕はちょろい奴なんだ。女性と会話をしない系男子だった自分には高嶺の花だろうが、その笑顔をみたら、イチコロなんだ。
自分と楽しそうに話しているように《《見える》》勇田さん、もしかしたら自分の勘違いでそう見えているだけで、気を使ってくれているのかもしれない、でも、目の前の勇田さんとの時間は僕にとっては真実で、だからこれは決して不自然な事じゃなく、たまたま角を見てしまったからとかじゃなく、必然だったんだ。
そう意識し始めたからなのか、僕は今まで気が付かなかった勇田さんの特徴に気付いた。
相変わらずたまにしか目を合わせてくれないが、しっかりと目を見るようになって、わかった事がいくつかある。
勇田さんには三つの『普通の人と違った違和感がある』
一つ目【眼の色が日によって違う】
日によって勇田さんの目の色が違う事に気が付いた、基本は緑なんだが、数日に1度、青みがかって見える時がある。おそらく相当勇田さんの眼を見ないと気が付かないレベルだが、僕は気が付いた、そう、気が付いたのだ。
カラーコンタクトをこっそりつけているのか、コスプレをする人はカラコンとか、わりと当たり前らしいし、慣れるために学校でつけているのかな?でも見つかったら先生に注意されるかもしれないから、今度教えてあげよう。
二つ目【歯の形が普通の人と違って鋭く見える時がある】
そんなところまで見るとかキモイけど、笑った時に見える歯の形が日によって違って見える気がするんだ。でも、最近のコスプレは歯までこだわってると聞いた事がある、きっとそれだろう、コスプレに対する勇田さんの勤勉さには頭が下がる。
そして、最後にもう一つ【やっぱりたまに角が生えてる】
偶然見てしまったあの日から、ふと気が付くとたまに角が生えている事がある。
「コスプレ好きなのかな」
勇田さんが好きなコスプレを僕は心の底から応援しようと思って、ある日
「勇田さんのたまに着けてくる角って、すごくかっこいいよね」
なんて、すごく気持ち悪い事を伝えてみた。
「かっこいい?」
「あ、いや、ほら、たまに角付けてるの見るとさ、勇田さん好きなのかなって思って」
「え?あ、たまに???出てるの角?」
「あぁ、うん、付いてる時あるよ」
「うぅぅぅあああぁ、そうなんだぁ……」
「あと、目の色もたまに違うよね!」
「え????ほんとに?」
「ちゃんと気が付いてるよ、隣の席を舐めてもらっちゃ困る、たまに青くしてるよね」
「う……うん……そうなんだけど、わぁぁぁ……」
ワタワタと自分の眼を鏡で見るが、今日は緑の日だ。
「あと」
「まだあるの?」
「歯、たまに鋭く尖ってる事がある」
「うそ……そこまで気にしてなかった」
「笑ってるときの顔が好きだから、嫌でも印象に……」
しまった、きもい事言った。
「すっごい、見てるんだ……ね」
「まぁ、隣の席だから」
「そっか、高山くんは全部気が付いてたんだ……」
「勇田さん?」
なんだか悔しそうにしてる勇田さんを励まそうかと、勇田さんの角を褒め称えてみることにする。
「あのさ!自分もそういうの(コスプレ)好きだから、気持ちわかるっていうか、角、いいよね!好きだな僕は!(コスプレ)」
「……」
そういうと勇田さんは顔を真っ赤にして、顔ごと僕から逸らす。
しまった……まずい事を言ったかもしれない、コスプレ趣味とかデリケートな話……さすがに気持ち悪過ぎたかも……。
「あ、その、そんな深い意味じゃなくて、単純に、かっこよくてその僕は好きだから、たまに勇田さんの変化が見れると、今日はいい日だなって、勇田さんも角とか好きなのかって、思って、その、あの」
苦しい言い訳でバタバタしている僕に、勇田さんは顔を逸らしたまま。
「好き……だよ」
確かにそう言った。
それは僕に向けられたものでは無いことくらい理解している、しているが、その言葉の破壊力はそりゃあもう、凄まじくて、僕はその語感だけで体温が3度は上昇した気がした。
「高山君は……全部気が付いてたんだね」
「あ、うん、ごめん、気が付いてた」
「……」
「でも、前も言ったけど、僕はこの事を誰かに話したり、馬鹿になんか絶対しない、勇田さんの個性はすごく素敵だって思ってる、少しもおかしくないし、むしろ自分はそれを知れて少し嬉しいって思ってるくらいで」
「高山くん……」
「つまり何が言いたいかって結論は……僕は口が堅い!」
「っふ……」
真顔で言ったその言葉に勇田さんは笑みを見せる。キモイの許されたか?必死のフォローに体温が上がっている事に気が付くが。
「高山くん」
その体温の上昇は、勇田さんの続く一言で更に上がる事になる。
「私が異世界転移してたって言ったら信じる?」
僕はとっても耳を疑った。
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