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それぞれの想い

◇骸骨王妃のモノローグ◇


 私は高い塔の上の自室に戻る。

 この塔は、幽閉せざるを得ない王族向けの建物である。

 冤罪で幽閉された者もいた部屋らしく、古い本棚には手記や日記が残されていた。


 おかげで王族しか知り得ない情報を得ることも出来た。

 何よりもこの部屋からは海が見える。


 それが一番嬉しい。


 残された手記の一つには、海洋国家としてオキアヌス国が名を馳せていった過程が綴られていた。

 更に、九年に一度、不漁が訪れることも記してある。


 なるほど。今年がその年なのだろう。

 わざわざ海神に贄を捧げるというのは、よほど魚が獲れなくなっているはずだ。


 では九年前はどうだったか、私は詳しく覚えてはいない。

 ただ、王宮でしばらく、起き上がれない日々を送っていたのが確かその年だ。

 そして前国王が崩御されたのも、ベッド上で聞いた。


 今年の不漁の原因は、おそらくプテーリー家が交易船で不法投棄を行って、海が汚れたからだ。

 私が国王に嫁ぐ前から、父はこっそり行っている。


 もっとも海を汚したことで、海神の怒りを買ったのは確かなことかもしれない。


 お付きの侍女サーラが運んで来た夕食は、いつもより豪華だった。

 生家にいた頃よりも栄養状況は改善され、私の身体は少しずつ脂肪を溜めておけるようになっている。


 だが、迂闊に美しさを誇示すれば、国王は王宮に呼び戻すだろう。

 せっかくここまで白い結婚を貫いてきたのだから、解放されるまで「骸骨妃」のままでいよう。

 不思議なことに、贄となったことに恐怖はない。

 海に身を捧げることは、決して嫌ではないのだ。


 それに……。



 窓から夜の海を眺めると、彼方に青い光が点滅している。

 私も身に付けている鱗を手に取り、海に向かって振った。





◇国王◇


 国王フィービーは側妃パセリアと共に寝室にいた。


 ようやく、あの骸骨正妃を追い出せる。

 見た目以外、問題のない正妃なので離縁は難しいと言われていた。


 今年、不漁が続くと、王宮に何回か密告があった。

 正妃の実家、プテーリー侯爵家が海に不法投棄を行っている、と。

 投棄されたものの中には、鉱山からの毒性のある廃棄物があるのだ。


 プテーリー侯爵に問いただすと、投棄したことは認めたものの、不漁の原因になるようなものはないと言い切った。


「海神様に、何か捧げるとよろしいのではないでしょうか。……例えば、生贄とか」


 侯爵は目を細めて言う。


「不用な物は、捨てるに限りますよ、陛下」


 なるほど、とフィービーは思う。

 離縁が無理なら、捨てれば良いのだ、と。


 しかも国難の危機を救うという役割を与えれば、王太后とて文句は言うまい。

 念のため、王大后が他国へ行っている間に、贄の儀式を終わらせようと国王フィービーは画策した。

 それが今日の公卿会議だった。

 会議の冒頭では、反対する大臣もいた。人命を賭すことへの忌避感である。


「反対する者の一族には、我が国の港の使用を禁じる」


 そう言うと皆、不承不承国王に従ったのだ。


 フィービーは隣のパセリアを抱きしめる。

 胸は勿論、それ以外の部位も柔らかい。


「リア。君をようやく正妃にしてあげられるよ」

「嬉しい! 大好きよ、フィー」


 十三夜の月光下、彼らの嬌声はいつまでも続いた。





 贄の儀式の日が来た。

 マリーヌにはお付きの侍女の他に、五人の侍女やメイドが恭しく仕えている。


 マリーヌはお付きの侍女サーラに言う。


「今日はいつもの化粧ではなくていいわ」


 お付きの侍女も頷く。


「本来の妃殿下のお美しさを、存分にお出ししますね」



 骸骨のイメージを壊さないように、マリーヌが国王フィービーと会う時は、落ちくぼんだ眼窩と、こけた頬を強調するような化粧を施していた。


「前から妃殿下の美しさをご存知だったなら、陛下も斯様なご命令を出されなかったでしょうに……」


 化粧をしながらサーラは涙ぐむ。


「泣かないで、サーラ。選ばれたことは光栄だから。……そうだわ」


 マリーヌは今日も身に着けている鱗の端を、ほんの少し折る。


「あなたにはお世話になったわ。だから……これを持っていて。絶対、手放さないでね」


 マリーヌは他の者たちにも、出来る限り、今夜はこの塔にいるようにと伝えた。



 陽は沈み、月が昇る。


 マリーヌは豪華な馬車で、岬まで送られた。


 岬では篝火が焚かれ、国王と側妃、大臣とプテーリー侯爵夫妻、そして神官が待っていた。


 馬車から降りたマリーヌは、国王らの前で礼を執る。

 その姿に、一同は息を呑む。


 そこに立つのは骸骨と呼ばれ、国王から見捨てられていた王妃ではなく、豊かな白金色の髪をなびかせた、女神のような女性であった。

ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます!!

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