僕とお姉さん
今日もひとりで街を探検しながら目的の場所を目指して進む。
気をつけないと、いつもすぐに邪魔が入るんだ。
僕は周囲に気をつけながら細い路地裏を歩いていく。
しばらく気分良く歩いていると、大きな犬が道を塞ぐように眠ってる。
ちょっと怖いな。別の道を進むしかないか。
僕はこの道を通るのを諦めて、脇道へと歩みを進める。
いくつもの曲がり角を曲がっていくたび、どんどん方向感覚が麻痺してきたぞ。
あれあれ?
ここはどこだろうか、ひょっとすると迷ちゃったかな。
あたりを見渡すも、どこも見覚えのない建物ばかりだ。
不安になって佇んでいると、突然声を掛けられた。
「やっと見つけたわ。」
うわ、いつものお姉さんだ。
でも、寂しかったので今日はちょっぴりだけど安心したよ。
「一人で結構遠くまで来たものね。」
お姉さんは少し困った顔しながらも、僕にやさしく問いかける。
「今日はどこまで出かけるのかな?」
(それは内緒だよお姉さん。)
「教えてくれないのかな?」
(仕方がないな。お魚屋さんへ行くところだよ。)
お姉さんはニコニコしながら僕をそっと抱きかかえる。
「お姉さんと一緒にでかけましょう。」
(いやいや、僕は一人でも平気だよ。)
そう言ってお姉さんの腕の中でジタバタしてみるが、しっかり抱きかかえられているため逃げ出すことはできないようだ。
(わかった、わかりましたよ。僕の負けだよ、一緒に行けば良いのでしょう?)
「ふふふ、どうやら観念したみたいね。じゃあ、さっそく行きましょうか。」
お姉さんは僕を抱きかかえたまま歩き出す。
大きな通りに出てくれたので、見慣れた風景に安堵した。
ここまで来れば、ほんとは一人でも平気だったけど今日は捕まってしまったので、お姉さんと一緒に魚屋さんへと向かう。
(あれ?お姉さん道間違っているよ。)
お姉さんは僕の意見に耳を傾けず、お構いなしに歩いていこうとする。
仕方ないので、ジタバタしてみる。
「ん?どうしたの?こっちじゃなかった?」
(そうそう。お姉さんてばあわてんぼうなのだから。道が違っているよ。)
「じゃあ、こっちの道であってる?」
僕はジタバタするのを止めて、こっちが正しい道だよと自慢げに頷く。
商店街までやってきた。
ようやく辿り着いたのに、お魚屋さんを素通りするお姉さん。
(ちょっと、ちょっとまたなの?ちゃんと僕の話を聞いていたの?)
声をかけるもお姉さんの耳には届いていない。
仕方ないので再びジタバタして、ここが目的地だとアピールする。
「あ、ごめん、ごめん。今日は、お魚屋さんが目的地だったのね。」
(そうだよ、ちゃんとはじめに言ったよね?忘れちゃったの?)
「じゃあ、どの魚を買っていこうか?」
(そうだね、今日はサケが食べたい気分だよ。)
「あ、カンパチが安いみたいだよ。どうかな?」
(違うよ、お姉さん、サケだよ。サケ。)
「あらら違うの?じゃあタイはどう?」
(違うったら。もー、僕の意見を無視しないでよ。)
「ごめん、ごめん。これも違うのね。じゃあサケかな?」
(そうそうやっと正解したね。)
僕の笑顔に気がついて、やっと正解したと喜ぶお姉さん。
早速サケを購入して足どりも軽くお姉さんの家へと向かう。
結局、最後まで抱きかかえられて自分で歩けなかったよ。
家に戻るとサケの切り身を僕専用のお皿に盛り付けてくれる。
お姉さんも自分用にサケのマリネを手早く作って一緒にごはんだ。
「にゃー(いただきます。)」
と一声掛けてから、二人でサケをおいしく頬張った。