閑話 秘めたる決意
──アル──
私のためじゃなく、私のせいでこんなことになった。ずっと心の中で引っかかっている思いです。
夕日が街を照らす時、いつも視界を覆っている闇の中でも一筋の光がある事を知らせてくれる太陽の光が私は好きです。
ただ、今だけはその光は希望の光では無く絶望光でしかありません。目が見えないからこそ周囲の気配に対して敏感になった私ですがいくら路地裏とはいえ、街の中だと言うのに不自然なほど人の気配がありません。
ただそれでも感じる、感じてしまうのはノエルさんが押されているという現状。何も出来ない私では存在しているだけで足でまといでしかありません。不甲斐ないです、目が見えてれば何て思わない訳では無いですが、それ以上に甘えてばかりで目が見えなくても良いんだなんて思ってた自分が不愉快です。
「井の中の蛙大海を知らずって言う言葉を知ってるかい?君対して強くないよ」
「知らない、ね!」
「単調、これだから子供は」
近くから声が聞こえました。ノエルさんの声と見ず知らずの人の声。切羽詰まっているノエルさんと余裕そうな声を聞けばたとえ目が見えなくてもどちらが優位かなんて分かってしまいます。
軽い口調で、やれやれとため息を吐くその人に私は初めて感じたことの無い気持ちを抱きました。苛立ちを超えて悲しみを辿り果ては怒りなのか哀しみなのかすら私には分かりません。
「なっ!?」
「ノエルさん!!」
そんな揺れ動く心の中の私なんて置いていかれ事態は進んでしまいます。突然ピリピリと空気が痺れたかと思ったら、次の瞬間にバキッと言う木が折れる音に、壁に何かがぶつかる音が聞こえました。
それは近くの出来事なのか大迫力の音に急に吹き付ける強風に対して私の体は堪えることができず座り込んでしまいました。
「どう僕の本気? 次からはちゃんと頭下げるんだよ」
(やば、やり過ぎた死んでたらどうしよ)
聞こえてきたのは軽い口調の男の子の声。座り込ん出しまった私の上から聞こえる絶望の声。立つことはおろか引き止めることさえできず、その足音が少しずつ去っていくのを聞くことしかできなかった。
「、、、まて」
その声にはホッとするよりも先に出したことも無い大声を出してしまった。お母様に知られたらはしたないと叱られてしまうような叫び声。
「ノエルさんやめてください!!」
ああ、頬を伝う何もかも全てが私ではノエルさんには届いてくれない。見えなくても分かってしまう、感じてしまう、今きっとノエルさんには彼しか映っていない。ノエルさんの意識の中には彼しかいないんでしょう。でも私もそう簡単に諦められる訳もなく醜態を晒し叫んでしまう。
「倒す!」
「おいおい、冗談じゃないって」
不思議とノエルさんの行動が手に取るようにわかった気がしました。見えていないはずなのに理解できる、暗闇の中で朧気に感じる。
ああ、彼は1歩を踏み出してまた立ち向かってしまうんだと、今ボロボロであるはずの姿で諦めたりはしないんだと、また更に頬をなにかが伝う感覚に目元を擦ると、前方からコトンと何かが地面に落ちる音が聞こえました。
それが何か私には理解できませんでした、けど次のバタンと倒れた音が誰の者なのかはいやでも理解させられました。
「ふぅ〜。男なら右に3歩後は真っ直ぐに四足歩行すればいるよ、じゃ」
聞きたくもないその声を聞くまでもなくどちらが倒れたかなんて分かっていました、がその声を実際に聞いたら脳が理解するのを拒否するように頭に痛みが広がっていきました。
それでもその足音が遠ざかっていくのを待たずして私はその言葉通り地面に膝を着き四足歩行でノエルさんの方まで移動しました。
「ノエル、、さん」
息はある、ただ服はボロボロで穴が空いてる箇所まである。触っただけでも生傷がかなりあり、頭からは温かく鉄臭い液体が少し流れているのか指に付着しました。
「起きて、ください」
私には抱きしめることしか出来ませんでした。服が汚れるなんて思考回路もなく、ただ抱きしめて言葉をかけることしか出来ずにいました。
「起きてください、、お願いします」
その後は私はどうやったのか気がついたらお母様やエリサ様と一緒にいました。日はまだ沈んでいないのか、薄らと眩しいその光に私は感じたことの無い感情に胸の中がぐしゃぐしゃになりそうでした。
その日感じた気持ちは何なのか、今の私には分かりません。ただきっといつか理解させられる日が来ることは確信していたのかもしれません。
ただ、今も隣で魔力を操っているノエルさんと笑い合える日常がいつまでも、どこまでも続けばいいのにと、願い祈っています。そのためにノエルさんの役に立てるような魔法が1つでも増えてくれればと思います。
こんな私でもいつか重荷じゃなく隣で支えられるような女性になれればなんて欲張り過ぎる想いを心に秘めて、アナタと笑い合えるかけがえのない日々を大事にしていきたいです。
3日空きます。