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また歩み始める〜貴族なのに国で1番苦労する地位  作者: ハネハル
0章 幼少の戦い
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王都にて

 晴れ渡る青色。雲ひとつなく揺られる馬車の中は案外気持ちの良いものだった。馬車3台に護衛が10人。


 パーティーの1週間前には王都に入るという貴族間での暗黙の了解があるためノエルは領地を一ヶ月前にでなければならいない。

 メトラー家と合流し、一緒に王都に向かうのだが道中は何事も無かったため馬を走らせ15日ほどで着いた。

 ノエルの父イレスによるイタズラによって、ノエルとアルは2人きりで同じ馬車に乗ることになったが後半は喋ることも無くずっと2人で寄り添って寝ていた。そしてそれを見た親馬鹿の暴走により宿でも同じ部屋だったがこれにはエリサも心の中ではグッジョブと言っていた。



 王女殿下の5歳の誕生日。

 これの意味はとても大きかった。魔法は5歳になったら神殿に行き魔力を神から授けられ、相性と魔力量がわかると言われ使えるようになるのだが。国王に子が産まれるとその子と同世代の者たちはその子供よりも先に神殿に行ってはいけないと決まりがあった。それほどまでに王族という肩書きは大きく重かった。

 もちろん他の国は違うがこの国ではそれが当たり前だった。


 そのため平民は王女が5歳になるまで神殿に行くことは叶わず、貴族に至ってはパーティーを開くため、同世代に子供を持つ貴族以外も王都に集まらなければいけなかった。




 明日は王女殿下の誕生日パーティー。なのに今ノエルは王都の外で剣を振るっていた。予定より早く到着したため、やることも無く暇だからという理由で5日ほど前から街の外れで剣の修行をしたいとノエルが言い出したのがきっかけだった。

 エリサも仕方ないなと苦笑いを浮かべていたが流石に前日はダメと昨日言いつけられていたのだが、イレスとアルと買い物をしているときイレスから新品の木剣を買ってもらったため剣が振りたくて仕方なくなってしまったのだ。


「の、ノエル少しだけどからな。アルちゃんも後でお菓子買ってあげるからエリサには内緒にね」

「うん!少しね!」

「はい。楽しみにしてます」


 バレた時を想像したのかふるえる声で告げるイレスに、ノエルは元気に、アルはクスクスと口元を手で隠し楽しそうに返事をした。

 イレスは買い物に剣を持っているわけないが、ノエルを素手で圧倒することは造作もなかった。いつも通り指示をしていき、それをノエルが調整し成長していくのはイレスの楽しみの一つでもあった。


 そしてどんどん白熱していき、少しはあっという間に2時間に変わり、かすり傷が増え、地面に横たわっているノエルを見てイレスは頭を抱えた。


「ノエルさんお疲れ様でした、楽しかったですか?」

「うん!楽しかった!アルちゃんはつまんなかったしょごめんね?」

「いえ、私も楽しくはあったので全然気にしないでください」

「あぁ、あぁぁ、プ、プレゼントだ何か、何かいい物を」


 街から少し外れただけで自然を感じられるここはとても気持ちよく、ノエルとアルはほのぼのとした気持ちになりながら話すが、一人地面に蹲りブツブツと呟くイレスにものんびりすればいいのにと思うノエルだった。


「ノエル!アルちゃん!近くまで送るから先に帰ってもらってもいいかい!?」

「う、うん。お父さんは?」

「僕は少し忘れ物をしてしまってね。それを買いに行ってくるよ」

「わかった」

「わかりました」





「それじゃあ、ここを真っ直ぐ行ったら泊まっているところだから!エリサには、、何かいい感じに伝えといて!!」

「はーい」

「気おつけてください」


 大通りで取り残された2人は、イレスが走っていきその背中が見えなくなったのを確認したら言われた通り真っ直ぐ歩き始めた。


 ノエルたちが泊まっている所は4階建ての石造りの宿屋だった。それがちょうど見えてきた頃、大通りから少し外れた裏路地から同い年くらいの子供がでてきた。


「女の方の身なりを見る感じ貴族様か?男も貴族様っぽいがそんなボロボロの姿して、平民の方がマシな格好してるぞ田舎貴族様」

「な、──「誰でしょうか?」」


 路地裏から出てきたのは、癖のある黒髪を無造作にして赤い色の瞳が特徴的な少年だった。敬意の欠けらも無く、敵意にすら近いその物言いにノエルが驚きの声をあげると同時にアルが前に出た。

 ノエルたちは確かに田舎者だが、あくまで貴族だ。初対面で馬鹿にされ、見えなくても言葉の端々から敵意を向けているのが分かる。もし貴族だったとしても、喧嘩を売れば大事になりかねない。


「不快です。貴方がどの様な立場なのかは分かりませんが私たちは貴族です。マナーというものをご存知ないのですか」

「ふふ、そっちの動けないでいる男よりもよっぽど勇気があるんだね女。君、目壊れてるのによく立ち向かえたね、僕も貴族って言ったらどうするつもりだい?」

「関係ありませんね。貴方のような人が『同じ』貴族だと言うなら恥ずかしい限りです。そして口の利き方も分からないような人に敬意を払う必要がありません」


 いつも優しい空気を纏っている彼女がここまで怒っているのを初めて見たノエルは少年とあった以上に驚いていた。鋭く針のようなアルの言葉に少年は口元を大きく歪ませ大声で笑った。


「あっはっはっは!!笑いすぎて死にそうだよ。『同じ』だなんて、4等級以下なんて存在価値もないのに?まぁそんな僕も『一様』4等級なんだけどさ。なぁ女、目が見えないってどんな気持ちだ?その縛られた()は──うん?」

「それ以上はダメだ」

「ノエルさん?」

「アルちゃんもう3歩下がってて」

「お飾りだと思って放っておいたら、木とはいえ僕に剣を向けるのかい?正当防衛って知ってるかな!」

「ここで引くなら見逃す」


 右手に持っていた木剣を構えたノエルは静かに告げた。少年も腰に指していた木剣を構え口を不満げに歪め鋭く睨みつける。


「それは、逃げるなら見逃すってことかい?」

「そうだ」

「逆だろ?そうだなぁ頭を地面に擦り付け許しを乞うなら見逃してあげるよ」

「じゃあいいよ、ハァ!」

「流石に剣を持ってるだけの事はあるね」


 ノエルの垂直切りは少年にいとも簡単に受け止められた。ノエルは全力を出した訳では無いがそれでもここまで簡単に止められるとは思っていなかった。


「井の中の蛙大海を知らずって言う言葉を知ってるかい?君対して強くないよ」

「知らない、ね!」

「単調、これだから子供は」


 強いとか弱いとかじゃなく。勝負にすらない。左右どちらから振るっても、下からすくい上げてもその全部をノエルが振り切る前に阻止されてしまう。未来予知にも近いガードにノエルが冷や汗を流すと、ため息を吐いた少年は一呼吸置き目を瞑った。次の瞬間、その赤い瞳が更に深く染まり、纏う雰囲気に重みが増した。


 気の所為だとは思えない、初めての少年からの攻撃。それはノエルが最初にした攻撃と同じ垂直切りだった。


「なっ!?」

「ノエルさん!!」


 ガードしたはずの木剣が歪み嫌な音を立て折れる。少年の垂直切りはノエルには当たらなかったが『何か得体の知れない』衝撃がノエルを襲いその身体ごと壁まで飛ばされた。


「どう僕の本気? 次からはちゃんと頭下げるんだよ」

(やば、やり過ぎた死んでたらどうしよ)


 聞こえてるか、聞こえてないかは分からないが逃げるために背中を向けた少年に声がかかった。


「、、、まて」


 よかったとホッとした顔を作った少年だったが、ノエルに体を向けた瞬間剣を構えた。


「ノエルさんやめてください!!」


 アルの声はノエルには届かなかった。張り裂けそうな喉も知らぬまま流れる涙もノエルの目には映らない。

 悲しいかな、アルにはそれ以上できることは無かった。泣き叫ぶことでしか止める方法を知らなかった。

 衝撃に驚き膝から崩れたアルに立ち上がることは出来ず、ノエルが無事か無事じゃないかも分からない。


「倒す!」

「おいおい、冗談じゃないって」


 ノエルの瞳には何が映っているのか、色褪せる景色、モノトーンの世界で全てが緩やかに流れる視界の中ただ一つ輝いて見えたのは少年の瞳だった。

 深い赤。白黒の世界でそれだけに色がある。意図的か無意識か、ただそれは目印のようで自分が倒すべき存在が何かハッキリとわかった。


 が出した一歩は地面を踏めず、半分になってもまだ握る両手からは木剣が落ち、身体は地面に沈んだ。緩かな世界が通常の速度になり、意識が無くなるのそれからすぐだった。


「ふぅ〜。男なら右に3歩後は真っ直ぐに四足歩行すればいるよ、じゃ」




 少年はすぐさま裏路地に消えていった。頬に滴る汗を拭い一人呟く。


「やばかったなぁ」

「完勝ですわね」

「いやぁギリギリだね」

「ふ〜ん」

 いつの間にか隣に並んでいた少女に男は無表情で返す。それを謙遜と受け取ったのか少女は興味なさげに返した。


 少年だけは知っている。


 あの瞳を。あの場でただ一人その片鱗を見てしまった。

 完璧ではない不完全だがそれでも自分と同じ瞳。


 青色の瞳の中で渦をまく灰色の粒が自身に届き得る可能性があるものだと。


 ただ予感のようなものを感じていた。


 将来自分とは別の道を歩むであろう英雄の器に楽しみと後悔を残して。




だいぶ駆け足ですいません。もっと丁寧にかける気がしたんですけど次から頑張るます。

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