81話.エルフの森へ
私は、週一投稿すらできないカスです。
「エルフの村ですか?」
我が帝国が、皇帝陛下が、世界の大半を取り込み、その全てを飲み込むまで秒読みとなった頃。
突如として、戦場からの異動を命ぜられた私は、その内容に比べ必要以上に驚いていた。
少し前まで人を切る事に躊躇うことは無かったが、強烈な違和感を感じていたはずなのだが。
今では陛下と共に戦場へ行くことを喜びとし、そこから離れる事に動揺するとは。
我がことながら、変わってしまったものだと痛感する。
「そうだ。余が目指すは『平定』。攻め落とした事で、その後で、その地に平穏をもたらさねばならん。種族の意見は世代を変えるごとに声を小さく、その論理すら破綻させて行く。余の武力に屈した以上、余の威光が届く間はどの種族も声は上げられないだろう。故に問題は余が死した後。」
エルフのような長い命を持つ種族達が、声を上げ始めることを未然に防ぐ、と。
ジッとこちらを見つめる陛下へ、そう理解したと頷き返す。
「巨人族や、ドワーフはどうなされるのですか。」
長命の種族はエルフだけでは無い。
竜人族なんかは力を尊ぶため、総力戦で人間に負けた以上、刃向かうことは無いだろうが。
反抗意思と言う意味では、エルフよりも早急に対応すべき種族は居る気がした。
「当然そちらにも数名遣わせる。エルフ達には「植物魔法」の使える貴様が適任であると判断しただけだ。」
確かに、「植物魔法」とエルフは関係がある気がする。
「植物ですか?」
気はするが、それが決め手と言われても微妙に納得がいかない。
「そうだ。奴らは植物を、森の木々たちを神聖視する。それも『木』の神はエルフより産まれた分、必然とも言えるが。奴らは木々を神聖視するが故に、それを侵す「植物魔法」が使えない。」
以前戦った宗教国家でも視られたが、信仰によって魔法の威力を底上げしたりするのは、この世界ではよくあることらしい。
それでも、彼らの魔法が私の魔法に比べ出力が低いのは、彼らが神を信じる心より、私が前世より調整し続けた魔法への自らを信じる心の方が強いからだ。
それ以上に、「師匠」から学んだ魔法技術の差が有るのは当然だが。
「だったら、私の存在はその神聖な物を捻じ曲げる悪魔に映るのでは?」
信仰、要は意識によって魔法を強化する事は、行き過ぎれば魔法そのものを手の届かない場所まで押し上げてしまうと言う事だろう。
「悪魔だの邪神だのは解釈の仕方次第だ。神の御使もまた同じ。」
つまり、良い様にも悪い様にも取られる可能性はあるということ。
陛下の返答は問題を解決する様なものではない。
「神の御使と思われる様、願えと?」
それは国を、実質的に人類の代表として以前に、交渉の席に着こうとする者として、初手からあまりに杜撰だ。
「いいや。エルフ族には長寿、魔法、弓以外にも他と違う特徴がある。それも最近できた特徴がな。」
ナゾナゾの様に、回りくどい物言いだ。
いや、実際陛下はそのつもりなのだろう。
ニヤニヤと笑いながら、私の回答を待たれても期待には沿えられない。
今エルフについて話しているのも、前世までの勝手な想像と、今世でたまに目にしたエルフの印象でしかない。
私の知るエルフについての情報なんて、そこらに居る民と同じか、少ない可能性すらあるのに、分かるわけがない。
そう結論づけた私は。
「なんですか。」
ただ、娯楽の答え合わせでは無く、業務連絡の催促をした。
それは私の予想通り、ご希望に応えるには程遠かったようで。
つまらなそうに一度、明後日の方向を一瞥した陛下は再び口を開いた。
「これまで征服した国や種族と違い、奴らと我が軍は戦闘を行っていないのだ。」
戦闘を行っていない?
それはつまり
「戦争していないのですか?」
素直に捉えるならそうなる筈だ。
(陛下が?外交だけで?それこそありえない。)
内心ではそんな考えはすぐに否定していた。
根拠はないが、なんとなく確信があった。
「いや、互いに宣戦布告も行い、戦争は正しく始まった。ただ、なぁ。」
そこで、陛下は口籠った。
僅かに忌々しげで、なにか事情を感じさせる表情ではあるが、こちらとしてはさっさと話して欲しいところだ。
チラリと私を見たかと思うと、すぐに視線を外す。
まるで、察せるか、とでも言いたげな…。
…。
…。
…。
「いや、無理ですよ。早く言ってください。」
はぁ。
聞こえる程度の溜め息を吐く陛下へ、ほんのちょっとイラッとする。
ほんのちょっと。
同時に、何十年も「こんなの」の相手をしていたのかと、宰相のディゼルに同情してしまう。
「迷いの大森林。エルフが住む場所は、今やそう呼ばれている。」
やはり溜め息一つ、その後にやっと陛下はナゾナゾの核心を伝える気になったようだ。
(それにしても、迷いの大森林か。)
ますます、想像通りのエルフだ。
「元々、出不精な種族ではあったが。戦争開始時に、何らかの魔法を使ったのだろう。あの森の中では少なくとも、余を含め人間は奴らと会うことすら叶わない。気が付けば森に入ったあたりから出てくるか、酷いところでは反対側に抜け出ている者まであった。」
会う事も出来ない、か。
陛下の言葉の中で気になることはあった。
ただ、それ以上に気になったのは。
(余を含め…か。やっぱり、陛下も行軍に参加したのか。)
ある意味エルフ以上に想像通りな陛下に、私は吹き出しそうになるのを堪えた。
「何を笑っている。」
…、堪えきれて居なかったらしい。
「いえ。それで接触も戦闘も無しにどうやって、勝ったんですか?」
話を聞く限りエルフ達の使っている拠点は、さながら無敵の要塞のように思える。
「ふんっ!時間はかかったが、奴らの森を囲うように村を作り、ありとあらゆる供給を絶ったらすぐに音を上げたぞ。」
兵糧攻めということか。
食料に限らず、娯楽でも、今まで当たり前にあったものが無くなったときの心の負荷は大きい。
陛下の下で学んだ事の中の一つに、何か突出した能力を持つ者が強いと言うものがある。
それは、争いであっても、商売であってもだ。
例え種族だろうと、国だろうと、街だろうと、村だろうと、個人だろうと。
同じ格のモノに対抗しようとした時、自分に強みが無ければ勝ち方が見えず、それを探す間に相手の土俵に引きずり込まれる。
無論例外はある。
種族という単位では、人間がそうで在るように。
世界最高とは言えずとも、全てを高品質に持つ者も存在する。
「それで、結局その降参が何の意味を持つんですか。」
戦えなかった事を思い出したのか、憤った様子の陛下はまた一つ大きな溜め息を吐いた。
「はぁ…。フランクゥ…。貴様は何故そう妙な所で感が悪いのか。要は、エルフはこの国に抗おうとする強硬派と、従順であろうとする穏健派が存在すると言う事だ。両者は相対し、互いに対となる意見を持とうとする。真意はどうあれ、最初はそう言う態度を取りたがる。貴様の存在に対してもな。」
組織と言うのは何処も内部で対立するらしい。
そして、対立者同士で反対意見を持つのなら。
「悪魔と神の御使。どちらかではなく、その両方と取られる可能性が高いと言うことですか。」
エルフと言う種族の意見は分かれ、私を神の使いとする方と協力する。
なるほど確かに、武闘派と呼べる者たちの数や発言力が残っていると言うのは、他の種族には無い特徴と言えるだろう。
「ふんっ!ようやく理解したか。理解したならば、良し!余の命を成して見せよ。」
王命は下った。
「しかと、拝命いたしました。」
ならば、騎士として忠義を示そう。
他の種族に比べて難度は高いだろう。
だが必ず、陛下の期待に応えてみせる。
そう、思っていたのだが…。
3日後。
「身体強化」を全力で使い、迷いの大森林へと辿り着いた私は。
「いや、どうすんだよこれ。」
エルフたちの「結界魔法」に頭を抱えていた。




