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78話.覚悟無き者

病め病め。へへへ。


元々第三世界はもっと暗い展開を書きたかったですし、第二世界は底抜けに明るい展開にしたかったんですよね。

今回はそこそこに上手く行ったと思ったんですけど、どうでしょうか。

「彼らは勇ましく戦った!!」


 遠征の後、凱旋。

 後日、戦った騎士達への褒賞や戦死した者への追悼など。

 戦の後に王に課せられる業務は多い。


 我も、騎士達も、互いに早く帰って床に着きたいと思いながらする、凱旋後の演説も。

 最早届かぬが故に無意に終わる追悼も。


 そんなことをする暇があれば、一度でも渾身の素振りをすべきだと何故解らぬのか。

 我とて、素振りの一度や二度で何かが変わるとら思ってはいない。

 だが、千、二千と積み重ねればそれは確かな技量へと変わり、戦さで生き抜く術になる。


 それは我がフランクに言った、「自分を救う」ということに他ならず。

 それが出来るからこそ、「誰かを救う権利」が生まれるのだと、我は考える。


 追悼の意をツラツラと述べ連ねながら、涙を流す騎士達を、内心冷めた目で見る。

 友人か、世話になった恩師か、或いは目を掛けていた部下か。

 皆そのどれかを無くしたのだろう。


 だが、そこで涙を流す理由はなんだ。

 過去の自分の不足を呪っているのであれば分かる。

 しかし、現実は違う。


 多くの者がただ亡くなったことを嘆いているのだ。

 理解の及ばぬ不条理に巻き込まれたわけではなく、騎士として覚悟して、理解して居なければならない、していたはずのことに対して嘆いているのだ。


 そんな暇も余力も無いだろうと言うのに。


 その事を最も理解していないのは、帝国貴族達だ。

 いつも誰かの足を引っ張る事を成果だと勘違いしている連中。

 行動を起こす者を、挑戦する者を叩き、己が欲望の為に帝国の未来を閉さんとする連中。


 まあ、奴等はそこまで考えてはいない。

 自分が生きている間、自分が裕福に暮らせればそれでいいのだ。


 不要と考える追悼を形だけでも行うのは、そんな奴らに対する防衛策に過ぎん。


 「やる事はやっているぞ。」、と。


 そんな陰鬱とした戦後処理で我が好む事が幾つかある。


 その一つが、目立った功績を上げた者への勲章授与。


「大義であった!」


 本来一介の騎士ごときが入ることの出来ぬ、謁見の間で行われるそれは。

 彼らが価値ある、栄誉ある騎士であるとその運を含めた力によって証明することで参加する権利を勝ち取ったものだ。


 まだ、芽を出したばかりの若葉達だが、今後帝国を支える大樹となり得るかも知れない者達。

 此処に立った者達の名を、我は全て記憶している。


「ほぉ、あの者は良いかも知れませんな。」


 脇に並ぶ帝国貴族達の囁きが鬱陶しい。

 それは、我に向けてではなく、己が派閥の者達への囁きだ。

 この場に置いて、唯一の価値なき者達。


 されど、その害虫達の甘言に腐らされた若葉は多い。


 今回活躍が認められたのは、三名。

 授与はその功績順に行われ、フランクは三番目に授与が行われる。

 先の二名は、既にどこぞの派閥に目をつけられてしまったようだが…。


「此度の戦。貴様の戦いぶりは、まさに獅子奮迅であった。今後も精進せよ!」


 簡素な賛辞ではあるが、前二人よりも正直な気持ちであった。

 本音を言うなら、前の二人の戦いぶりはほとんど知らない。

 遠目から見て一人一人の優勢劣勢など、特定の者を探さなければわからない。


 にも関わらず、あの戦場に居た者のすべてが、フランクの居場所は探さずとも誰もが理解していた。

 それほどにフランクの戦い方は苛烈で、壮観だったのだ。

 我の戦いを見た他の者達は、こういった感情を持っていたのかもしれない。

 そう思えるほどだった。


「はっ…。」


 だが、その当の本人にはあまりにも覇気が見られなかった。

 恭しく、騎士らしく、頭を垂れる姿は、「やる事はやっている。」そう言っているように我には見えた。

 事実未だ少年だが、奴の容姿からは子供が拗ねていると言う印象をどうしても受けてしまう。


 不満を感じるのも理解は出来る。

 途中参加ながら敵兵を戦闘不能にした数であれば、フランクが一番のはず。

 それでも、功績では三番と評価されているのだから、面白くないと感じるのも当然と言える。


「陛下のお気に入りも、あれではな…。」


 路傍の石どもが、あえて我に届く様にそう呟く声が聞こえる。

 まあ、今回フランクが三番にされたのは途中参加という部分が大きい。

 他にも、その活躍が大局に影響しなかったことや、我のお墨付きが一番ではない、と言う事実や印象を作りたい者達が他を推挙したことが理由だ。


「これにて、授与式を終了とする。」


 隣に控えていたディゼルが式の終わりを告げた。

 これまで以上に楽しみにしていた式が、過去類を見ない程の興ざめに終わってしまった。


「フランク…。何を悩んでいる。」


 納得のいかない我は、フランクを私室に呼び出し、直接聞きだすことにした。


「…。悩み…ではないですが…。人を切った時、陛下は何をお考えになりますか…。」


 質問を重ねられたが、フランクのこの頃の覇気のなさ、その原因は分かった。

 そして、同時にどう応えるべきか迷った。


「何も考えてなどおらん。」


 迷った結果、心に正直に応えてやることにした。

 そもそも、誰かに気を使うことなど我はしてこなかったのだから、今ここでやれと言われても無理な物が無理だ。


 だが、それにフランクは僅かに瞳を揺らした。

 そこに宿る感情は驚きか、怒りか。


「何も、ですか?」


 そう、何も。

 我が駆けるは戦場であるが故、次をその次を見据えねばならぬのだから。

 切った後の者のことなど考えてはいない。


「なんだ…。貴様とて、戦場に出る前から人を切ったことはあるだろう。」


 自分から呼び出しておいてなんだが、煩わしくなってきた。

 フランクがアフロンテの村で教会の道化共を切ったことは調査済みだ。


「それは…。相手から襲ってきて…。そういう時は仕方ないって、割り切ったんです。」


 そう言うには、フランクの顔はあまりにも苦痛に満ちていた。

 分かっている。

 フランクが、誰かの命を守る為であれば、誰かを切り捨てられるのだと。


 村の時はノエルが、戦場では同期の騎士が、命の危機に瀕していたから動けた。


 だが、そこで苦痛を感じることに矛盾を、ありていに言えばチグハグさを感じてしまう。


 他人の命を尊ぶべきと、フランクがそう理解しているから、他人を殺すこと事を躊躇うのであれば。

 生の対が、死であると理解しているはずだ。

 殺すことの対が、生かすことであると、他人にそれを強要する以上どちらも同等の覚悟や、或いは他人の意思を無視する奔放さが必要であると理解しているはずなのだ。


 なのに、フランクはそのどちらも持ち合わせず、行動を起こす。

 人は助けるべきであると。

 過程を飛ばして結論だけを言い聞かせられたような、その在り方が腹立たしくも思える。

 誰が、どこで、何故、その様に曲げた。


 あるとすれば、ドウェインか。

 自身の揺り籠たるノエルを守らせるために、そう言った。

 その可能性も否定しきれないが、そんな事せずともフランクはノエルを守っていたはずだ。


 なら、別の誰かか。

 しかし、問題はそこではない。


 その結果、フランクがどう変化してしまったか、だ。


「フランク!以前から貴様はどうにも自我が足りん!」


 意識せずとも声に怒気が宿った。

 あまりにも希薄な行動原理に腹が立つ。

 自分は消えてしまっても良いと、そういう考えがありとあらゆる行動から透けて見えるのだ。


「我は言ったはずだ!他人を救いたくば、まず自分を救えと!自分が一番で良いのだ!その上で!誰かを助けたいのならそうすれば良い!」


 気付けば、我はフランクの胸倉を掴んでいた。

 生きる為に、ありとあらゆる者から奪う、それは生命として悪ではなく、正義なのだから。

 自分の身を切り分けて他人に与えるなど、腹のぜい肉分だけで良い。


「我が言いたいことが全て伝わったとは思わん!それが全てだとも言わん!だが、フランク。自分なりに考え、飲み込むことが今の貴様には必要だ!」


 そもそも、ありとあらゆる総合的な力で、産まれた時から親兄弟親戚も含めたその全てで、最も秀でることでしか安寧を手にできない王族では恐らく理解できない悩みだ。

 理解できない以上、解答を与えてやることなど我には出来ぬ。


 或いは、我がフランクと同じ年頃であれば、互いに切磋琢磨しあえたのかもしれん。

 我はつくづく、産まれた時に隣にフランクが居なかったことを悔いた。


 手のかかる子を持つ親はこういう気持ちなのかもしれない。


「…。わかりました。」


 本来の口調でそう告げた、フランクが退出していくのを見送った後。

 我は、これからどうしたものかと、頭を抱えた。

読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。


星1でもいいので評価していただければ幸いです。


ブックマークをして頂ければさらに喜びます。




何卒、何卒ぉ

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