71話.友となり、友のために。
疲れたので前書きはなしで。
ブックマークと評価してくださった方が増えました。
ありがとうございます。
それだけは伝えておかないとですよね。
寝ます、おやすみなさい。
三年。
人類、いや、神達を含めたこの世界の生物の到達点とも言える存在『現人神』が現れて、それだけの期間が経過した。
『再誕』の神ドウェイン・マクスウェル。
…今は『再誕と死』の神と名乗っていたか。
「どう思う。ディゼル。」
我は眼下に広がる『再誕祭』と名を改められたその祭りを見て、腹心と言える男に問うた。
「…ふっ。盛況かと。」
何やら皮肉を含んだように聞こえるその声色に、我も笑みを深める。
ディゼルがどう思っているかなど、その真意は知り得ないが。
ディゼルの言葉どおり、以前より盛況になったように見える祭りを再び眺める。
『再誕と死』。
その言葉通り、神となった者の「再誕」は生命の法則すら捻じ曲げる物だったらしい。
「いよいよメインですな。」
一切の期待を持っていないと言った風のディゼルの言葉通り、大通りにあの時の神輿が現れたのを目にした民衆は声を上げた。
三年前との違いは、その神輿に乗る者。
三年前と一切違わない、姿を持つ二人。
肉体を持った神となったドウェインと、『神の母』と崇められるようになったノエルの姿があると言う事だ。
ドウェイン同様、我もあれには期待していない。
だが、民。
いや、貴族ですら期待の、媚びすら含んだ瞳でそれを見る。
「あの者はもうダメだな。」
我はノエルを見て、なんてことのない、ただただ事実を述べた。
『再誕祭』のメインともいえる、ドウェインの神としての『再誕』をノエルに「再誕」を使用することで再現する行事。
一からその者の人生を再現し、傷を受けた経験を排除する回復魔法としての「再誕」は、神に使用されることで、ありとあらゆる経験に対してその排除を行えるようになったようだ。
つまり、この一年の老いや成長を肉体から排除することで事実上の不死を実現できるらしい。
それが、多くの者が『再誕』の神を崇める理由であり、奴が自身を『再誕と死』の神と名乗る理由だろう。
だがそれは、一部。
得に、その寵愛を一身に受けたノエルにとっては限りない絶望の証明にしかならなかった。
身にまとう白い装束は、天衣のような輝きと柔らかさを遠目にも感じさせる。
一切の淀みなく長く腰まで髪が伸びたことで、その見た目はより女性らしく見えるその姿は確かに『神の母』と言われても不思議ではないのかもしれにない。
その相貌に似合わなかった、鍛え上げられた体や、荒れた手はその経験を排除され、今やまるで生まれたばかりの赤子のような艶を持っている。
一切の努力を認められず。
ただ神たるドウェインの望んだ姿のまま、終わる事すらなく、『再誕』させられ続けることを理解した彼の表情も、その双眸にも光はもはやなかった。
「あぁ、あの者はダメですね。」
その意思なき、力なき、希望なき姿にディゼルが我の言葉を復唱した。
だが、その姿は多くの者には見えていない。
その身の美しさと、その身に施される神の奇跡に、ただただ拍手喝采するのみ。
人間は愚かで、賢い生き物なのだ。
『過去への断罪』を逃れた者と、神に従う教主でありながらそれを手助けした者として、今まで一切の疑いもなく非難していた者達に縋っているのだ。
自身が崇める者の本質を理解せず、それでも、おもねるべき者はしっかりと見極める。
「フランクの方はどうだ。」
賢くも取るに足らない、民の話題から。
愚かしくも、信頼に足る者の話題へ。
我にとっての本命に話題を移す。
「報告によれば、本人に異常はないそうです。大陸の半分を支配した今であれば…。ただ、私にはあの者にそれほどの価値があるとは思えないのですが。」
三年前のあの一件以来、神に背いた者の名は、ドウェインとノエルから、フランクを指す言葉へと変わって行った。
ドウェインが神に至ったことで、その結果でもってして、その為にあれは必要なことであったのだと、民衆に広まった。
それは、ドウェインの持つ力が、力なき民にとっても、権力を持つ者達にとっても、果てしなく有益なものだったからだろうが。
その行いは許されたものとなった。
神ならざる人の意思によって。
対して、フランクは違った。
友の腹を貫いて出てきたドウェインに対して混乱しながらも、友を傷つけたことに怒り狂った奴は、神を幾度も斬りつけた。
常人であれば、否。
ドウェインが近くに居なければ確かに、ノエルはあの場で死んでいただろう。
だが、その行動はフランクの自信の現れであり、同時に自信のなさを示していた。
即ち、戦闘力に置いての絶対的な自信と、それ以外の力における自信のなさを。
もし、フランクが王族や貴族であれば、ドウェインが国益を損なう存在であると民に触れ回れたかもしれない。
もし、フランクが豪商であれば、民がドウェインに求める益を自身の財を持って肩代わりすることで、その権威を多少なりとも落とせたかもしれない。
もし、フランクが高位の聖職者であれば、ドウェインは邪神であると、その信用に傷をつけられたかもしれない。
「では、行くぞ。」
フランクの事になると判断の鈍る腹心を、少し笑いながら場所を移す。
帝都から僅か数時間の場所に。
「久しいな。」
ジメジメとした土蔵を思わせる牢獄の内にとらわれたフランクに、なんてことないとない日常の会話の様に声を掛ける。
ダンジョンから出土した物品によって、内部での魔法の使用を封じられ、物理的に壊れないようにされた土の牢獄。
その内部に居ながら、三年前より成長した体躯に、牢獄の中とは思えぬほど鍛えられた肉体を見るに、その意思は失われていないことを悟る。
「何の用ですか。」
返って来たのはとても、王に向ける言葉でも、視線でもない。
だがそれが我には、声色も、視線も、年相応の13の童が世の中の不条理に拗ねた姿に見えた。
注意深く、我とディゼルを観察する視線は、発した言葉よりも乱暴に、「何しに来た。」と問いかけてきている。
「クククッ。あぁ、望むのであるならさっさと本題に入ってやる。フランク。ノエルに会いたくはないか?」
神に背いた存在であろうと、この男は、フランクは我の役に立つ。
ディゼルが疑問視したのは、それが教会と生きた神であるドウェインに逆らってまで手に入れる物ではないと言う点だ。
「…。俺は何をしたらいいんですか。」
我の言葉に驚いたのは一瞬。
こちらの提案を全て飲み込む覚悟を持った視線が、その鋭い意思が我を貫く。
「ここにディゼルを連れてきた意味がなくなってしまったな。フランクよ。我が友となれ。我が騎士となれ。」
この男は、我の役に立つ。
それを臣下に加えるために、この三年で領土を倍にしてみせた。
人には不可能な『偉業』を為して見せた。
これで、我が神になることはほぼ確かだ。
神になるために、神に背くことを許容した民たちには、最早我を否定することは出来なくなった。
その言葉にフランクは再度、しかしやはり一瞬だけ。
瞳を大きく見開いた後、逡巡すら挟まず。
「わかりました。」
そう口にした。




