70話.『再誕』の神。
今回表現として神輿と言う言葉を使いましたが、仏教的なものではなく。
神様の乗り物としての単語が他に思いつかなかったので、それを使った次第です。
なので、イメージとしては校長先生が話す謎の台(朝礼台?)を魔法で動くようにして、デカくして、白く塗って、上に椅子を一つドンって感じのイメージでお願いします。
人によっては気持ち悪いと感じるかもしれない表現があります。
お気を付けください。
「大儀であった。」
寿命を直接減らすものと判明した呪いの解呪の済んだ王は、その言葉を主にフランクに対し残した後。
宰相のディゼルと、呪いを掛けた本人と、それに指示を出したであろう貴族の特定を行うため、王城へと帰って行った。
どうやら王は、フランクが残した刻印魔術に一定以上の興味を持った様だった。
それは即ち、フランクに対する一定以上の興味であり。
実質的に王の命を救った功績と合わせて、二人 に 王との謁見に対して求めていた成果は達成したと言えるだろう。
これで、二人は王都に来た目的の半分を達成したと言ってもいい。
もう半分。
即ち、創造神教の教主の誕生を祝う『誕生祭』。
それを待つ日々は二人にとって、雌伏の時だった。
ただ、朝起き、身支度をして、二人で食事を取り、稽古をする。
時には、街を歩くことを楽しみ、髪を切り合い、互いの服を見繕い合い。
時たま、生活のために王都近くのダンジョンに潜る。
しかし、それはまさしく二人の、特にフランクの望んでいた友と笑い合い過ごす幸せな日常だっただろう。
当然、その幸せな日々の中にも小さな問題は有った。
ノエルの身体から時折、『回復魔法』の魔力が溢れるのだ。
それは決して、意図してノエルが使用したものではない。
王都へ向かう馬車内でノエルの内から魔法が溢れ出した時の様に。
それが、ノエル自身の魔力であると判断したフランクは、ノエルが無意識化で魔法を使ってしまっていると判断した。
そして同時に、それはノエルの成長であると判断してしまった。
しかし、その結果としてノエルの健康な生活を繋ぎ留めるための処置。
その、月に一度現れる副作用。
自身以外の臓器に対する拒絶反応が、明らかに強まった。
だが、それも月に一度。
強まる腹部の痛みと、吐き気、頭痛や、それに伴う汗。
そのどれもを、ノエル自身が問題ないと判断した以上、フランクも深くは追及しなかった。
問題と言えばそれぐらいで、その泥の様にゆっくりと身を飲み込んでいくような幸せな感覚に、二人は浸っていった。
『誕生祭』。
それを乗り越えさえすれば、この日々が再び返ってくる。
そんな、在り得ない妄想を、確信しながら。
疑いもせず、ただ緩慢とした約半年を二人は過ごした。
「この祭りで、『何か』が起こってー、それをどうにかこうにかすると、計画は完了って。最後の部分がはっきりしないよな。」
どこかの出店で買った、串焼きを頬張りながら、どこか緩んだ振る舞いのフランクにノエルは苦笑する。
これでも、帝都で取った宿を出るまでは引き締まった表情をしていた筈なのだが。
「うーん。それは『先生』も分からないって言ってたけど。計画が完了するってことは、教会の勢力の縮小とほぼ同義だと思うから。それ関連だと思うけど…。」
計画の完了とは、ノエルが望んだ賜呪地に住む人間に対する、忌避の感情の払拭。
または、その足掛かりとなるものを二人で掴むことだ。
賜呪地の忌避感を教会が先導しているのは明らかで、そこから考えるなら、ノエルの発言は間違ってはいない。
「でも、その『何か』が起こるまでは楽しもうよ。今日は僕とフランクの誕生日でもあるんだし。」
もし、このノエルの笑みを正面から受け止められるのは、或いはフランクだけかもしれない。
「俺のはお前と『先生』のついでに合わせられただけだろ。…?なんだあれ。」
賜呪地に産まれたフランクの誕生日は分からなかったのだ。
ノエルがフランクと同じように串焼きを頬張ろうとした時、大通りの奥を見ながらフランクがそう呟いた。
フランクの声から単なる興味と判断したノエルは、食す手を止めることなくゆっくりと事態を理解してから返答した。
「あぁ。まだ、出て来てるのか…。あれは、本来はこの祭りの主役が乗る筈の物だよ。」
フランクの視線を追った先にあったのは、周囲を信徒に囲まれた、主なき神輿。
本来、神を乗せるはずのそれには、明らかに人が座るための椅子が一つ用意されていた。
故に、ノエルの言葉の主役とは、本来の主役である創造神の事ではなく。
この祭りを私物化した、創造神教の教主のことだ。
そして、その神輿こそ五年前、神によるノエルへの『過去への断罪』の実行の道具とされた物。
ノエルを救う者が居なければ、その命を奪っていた物に他ならない。
「主役?取り囲んでるのは教会の人間か…。なら、本来あそこに座るのは神様か、宗教のお偉いさんって感じか?」
徐々に近づくその神輿は、大通りの人の群れを自然と割って行く。
「うん。本来あそこには…。ッグ!」
フランクの疑問に答えようとしたノエルの言葉を、強烈な痛みが遮った。
それは、間違いなく今まで幾度となく耐え抜いた、処置による副作用の痛み。
だが、その痛みは今まで経験したものからは、明らかに一線を画すものだった。
思わずその場に崩れ落ち、そのまま倒れそうになる体を何とか手で支える。
同時に、今まで波の様に徐々に強まっていたはずの痛みが、頂点から始まったことにノエルは激しく動揺していた。
だが、その痛みの原因は明白だ。
ノエルから溢れ出す、圧倒的と言えるほどまで増した「回復魔法」。
無意識下で行っている、どころか意識したところでこれほどの魔法は自分には扱えない。
そんな、無意味な自問を数度繰り返した後、ノエルは不自然なことに気が付いた。
こんな状態になっている自分に、フランクが駆け寄ってこない。
白ばむ視界と意識を総動員して、何とかフランクを探す。
探してみれば、確かにフランクが自分を呼ぶ声は聞こえるが、ノエルにはそれがまるで洞窟の中で無限に反響した声が聞こえた時の様に、霞みのかかった物としてしか理解できなかった。
遅々として進まない状況把握に焦りを覚えながらも、ノエルが最初に理解できたのは既視の光景だった。
五年前と同じ。
神輿を避けようとした人ごみに呑まれ、道の真ん中で転んだノエルの目の前に、神輿が迫ってきている光景。
それは、五年前と同じようにノエルに明確な生命の終わりを想起させた。
だが、その終わりは訪れない。
一度目は救いの手によって、二度目は神輿そのものが止まる事によって。
「あぁ…。ぁ…?」
安堵、疑問。
それぞれの順番でノエルの口から吐き出されたのは、ただの音に過ぎない物だった。
何故、神輿が止まるのか。
ゆっくりと、周りを見回すと神輿を取り囲んでいたはずの信徒が、今はノエルを中心に立っていることがわかる。
「あぁ。」
納得。
フランクは周りの警戒をしているから、自分に声を掛けるだけに留まっているのだと。
先生の言っていた、『何か』はこれなのだと。
辺りを取り囲むのは人数こそ違えど、アフロンテの村で自分達を、ノエルの命を狙ってきた白装束達だ。
人を救うことを目的としているはずの教会が有する、粛清とは名ばかりの暗殺部隊。
それの存在が露見してしまえば、教会の権威は確かに低迷する。
そして同時に、ここで自分達が敗れてしまえば、神の決定に逆らった愚者を粛清したと言う、体裁が整ってしまう。
後から、その部隊の存在があたかも正しいかのように発言することを許してしまう。
それ即ち、更なる教会の権威に繋がると言う事だ。
「…!………!!!」
何事か、白装束の一人が周囲の人間に、民衆に聞こえる様に宣言をしているが、ノエルには最早それを理解することは出来なかった。
だが大方、ノエルが『過去への断罪』を逃れた者であることや、ここで争う正当性を周囲に伝えているのだろうとは予想が付いた。
ノエルはこの正念場であり、土壇場に動けぬことを悔いた。
圧倒的な速度で動くフランクを、無力化されていく白装束達を通してようやく理解する。
それでも、数の有利は覆らない。
白装束の物とは考えられない血液が、フランクの負傷を遅れて知らせる。
そしてノエルは後悔とは別に、痛みを感じるその場所から、感じたことのない異物感に必死に抵抗していた。
まるで、肉体の内側から何かが膨らんでいるような感覚。
ノエルが内心そんな訳が無いと否定するその感覚は、事実の物だ。
確かに、ノエルに移植されたその一部は膨らんでいるのだ。
ノエルの体内で光の球となり、ゆっくりと人の形を取って行っているのだから。
腹が膨らんだ頃には、その感覚が正しかったのだと理解しても。
それを抑えようと手で必死に腹を押そうとも。
何もかも無駄なことだ。
突如、ノエルの腹から腕が生えた。
周囲の人間からはそう見えたことだろう。
その腕を起点に、ゆっくりとノエルの腹の内から私が産まれる。
「ぁぁ…?せ…んせ…い…?」
最早、その体内に意識を持たない私には、ノエルのその言葉の真意は窺い知れない。
何よりも、その様な些事。
ありとあらゆる神のなし得なかった、生きた神として『再誕』した全能感に比べればどうでもよい物だった。
創造神にのみ許された、神を生む『再誕』。
それを人の技術として、正確に再現した偉業と同時に。
それをノエルの身体に埋め込んだ、私自身に掛けることで初めての、『現人神』として私は顕現した。
『再誕』の神として。
この日、この時をもって。
『賜呪地より』、私が『再誕』した。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




