67話.仕合。
まぁまぁまぁ、って感じです。
朝五時はもう起きる時間ですけど。
悪くないんじゃないかって感じなんでまぁまぁまぁです。
「これはなぁ。余が17の時に手に入れた15番目の出土品でなぁ。」
王はロバートと呼ばれた騎士が持ってきた、黒い片刃の大剣を受け取ると懐かしむようにそう言った。
身の丈以上大剣を二度三度、具合を確かめるかのように片手で振り回している。
その鋭さは、決して片手のものとは思えない。
「魔導具だ…。」
ノエルがそれに気が付けたのは。
剣を振る度、尾を引くように伸びる赤い光。
それが、フランクの弓が暗い森の中で、僅かに光る紫色それを見たことがあるからだ。
『全身全霊の剣』。
学者達がそう呼ぶ大剣は、大気中のエネルギーを、フランクの言うマナを蓄え続けることで、剣が振られた時に使用者の渾身の一撃の威力を再現する。
如何に力を抜こうと、如何に疲弊した状態であろうと、それを最強の一撃とするのだ。
「故に、余はこれを『全開剣』!そう呼ぶ。他に無粋な呼び方をする奴もいるがな。」
長々と大剣の歴史と特性、独特の感性で名付けられたそれを誇らしげに掲げ、見る。
その瞳にはどこか、少年のような光が宿っていた。
「フランク…。」
ノエルがそう呟くのは、王の武器を見たことで自身のパートナーを心配したからではない。
植物魔法「断塊剣」。
如何にノエルが全力で挑もうと、稽古の内は出すことのなかったそれを、フランクが生成したからだ。
フランクは『全身全霊の剣』、王がそれを振るう姿や、それに伴った音を聞いて、即座に魔法を展開を開始した。
王のそれと違い、こちらは全力でなければ振るう事すら出来ない、重量と密度の原始的一撃を繰り出す代物だ。
「なんだそれは…。木、?か。ありとあらゆる場所から集まってくるせいで。地面がぼこぼこでは…。ふむ。」
場を乱した苦言を呈そうとした王は、フランクのその表情、そしてその手に持つ「断塊剣」、それが地面に触れた瞬間に言葉を止めた。
王の持つ大剣とほぼ同じ大きさまで圧縮されたそれの先端がゆっくりと、本当にゆっくりと触れた地面を軽く割ったのだ。
それだけで「断塊剣」の重量を推し量り。
それを軽々と持ち上げていた、フランクの膂力を知ったのだろう。
ニィッ!っと口角を釣り上げた王は静かに腰を落としていく。
駆けだすための前準備、さりとてそれは人のそれではなく、浮かべる表情と纏う覇気のせいで獅子に見えた。
今度の突撃は音が無かった。
否。
音が届くより早く、王の攻撃を受け止めたフランクを認識した。
王が踏み込んだ音は、確かにその後にノエルの耳に届いた。
「王が圧し負けるというのですか…!?」
オーウェンの驚きは事実の指摘でもあった。
剣を打ちあった瞬間には確かに、フランクが打ち負けていた。
それでも、交えた剣は確かに、王の方へと傾き始めていた。
取り返しのつかぬ程押し込まれる前に、王は自ら剣を引く。
振りのための溜めを僅かでも作るためだろう。
「クッククハハ!貴様!最早モンスター、のような!怪力!よなぁ!」
圧していたフランクの剣を手首の振りのみの一撃で弾き飛ばした後、細やかな一撃を含んだ連撃によってフランクの体勢を僅かに、けれど確かに崩していく。
王の剣が大気を切り進む鋭い音が、フランクの剣が大気を押し割り進む鈍い音が、それらがぶつかることで生じる音が、場を支配していた。
「王の攻撃で砕かれないあの剣はすごいですね!」
興奮した様子のオーウェンは、今度はフランクの「断塊剣」を絶賛する。
末席と言ってはいたが、このオーウェンも近衛であるのなら、王と打ち合った経験はあるはずだ。
それ故に、王が砕くことの出来ない武器を短時間で、どこでも、用意できる魔法に昂るのだろう。
そして、補足するのであれば、あれは砕かれていないわけではなく、小さな欠けが生じた先から木々が「再生」しているのだ。
時間、場所を選ばず、自己再生する剣を作るなど、確かに、利点だけを見るのであれば驚くべき魔法だろう。
だが、この騎士が実際にあの剣を持とうものなら、その重量に二つの意味で腰を抜かすことだろう。
あれは「身体強化」というイカサマありきで、更には圧倒的な魔力を有するフランクが、燃費を度外視することでようやく成立する代物なのだから。
「妙な、感覚!だなぁ!剣戟では、確かに!押しているはずだが!一撃ごとに!貴様の力が、増しているように!思えて!なぁ!」
力で負けたフランクは、「身体強化」の出力を高めることで、主導権を握ろうとしているようだ。
賜呪地で魔物に力負けをした場合も、フランクはよくそうしていた。
だが、あそこまで高めた出力であれば、調節を間違えれば或いは、四肢が吹き飛ぶ可能性すらある。
動きを止め、攻撃の合間を縫って魔法の調節に専念する。
一合ごとに、微妙な調節が為され、力が増すそれは、確かに相対すれば妙な感覚になるものだろう。
そう言った魔導具を相手している気にもなるかもしれない。
事実、手首で振るっただけとは思えないほどの圧を伴うそれは違和感を生む。
魔導具に相対したフランクは力で拮抗し始めた関わらず、苦々しい表情のままだ。
「これなら、どうだ!」
王の言葉と同時に放たれる、左からの切上。
それは同時に、硬く踏み固められた仕合場の土の一部を切り裂き、フランクの顔面へ投げつけた。
幼き頃、まだ剣神悪童と呼ばれていた頃の、当時は殿下であった王が、大人に力負けした時によく使ったとされる技とも呼べぬ単純な目つぶしだ。
「きたねぇ!」
後ろへ飛びのきながら、フランクが初めて声を上げた。
目を鈍らせたまま戦うのは危険と判断したのだろう。
出力を上げた「身体強化」は、フランクの速度も向上させる。
それを知らなかった王の剣は、間合いを見誤り空を切った。
「フン!戦いに汚いもなにも…っ!」
僅か。
言葉と同時に、小さな休憩を交えようとした王に、今度はフランクが前に出た。
その姿勢。
その速度。
傍目から見ても王のそれを真似たと理解、いや、傍目からではそのものであるとすら思ってしまう程の突撃。
当然の様に受け止められたそれは、さりとて王を一歩退かし得た。
正確には、王にそう判断させた。
「ッ!」
それを引き止めたのは、王の足に巻き付くようにして成長した木。
声にならない驚きは、その魔法以上に王の動きを阻害した。
その一瞬の隙に、フランクは呼吸すら忘れていると思えるほど、間髪入れぬ連撃を加える。
一切の溜めの余地を残さぬそれに、王は剣を振るう事を封じられていた。
圧倒的重量の「断塊剣」で連撃を行う場合、回転を利用せざる終えない。
必然的に攻撃は回転方向により限定された、左右どちらかの、袈裟、薙、切上、そして刺突に限られる。
来る方向が分かっている攻撃であれば、防ぐことは容易い。
しかし、それは反撃に転じられると同義ではない。
魔法を使ったフランクの攻撃は、徐々に加速していく。
常人であれば、このまま圧し負けることを覚悟するだろう。
しかし、王は常人ではない。
いずれ来るであろう横薙、それのみを待ち望んでいたのだろう。
それにのみに意識を集中していたのだ。
「ッグ!」
回避のために、屈めたままのその姿勢で放たれた突きは、それでも最高の威力を保っていた。
だが、フランクはそれすらも回避して見せた。
回転の力を蓄えた剣を地面に叩きつけることで、錐揉み回転をしながら跳んで見せたのだ。
「これで!」
フランクの叫びを伴った上方から一撃を、王は上体を逸らすことで回避してみせた。
土をまき散らし、勢いを大きく減らしながら、それでもフランクは更なる回転でもって、二撃目を放って見せた。
「「オオオ!!」」
王とフランク。
二人の雄叫びを交えたその剣戟。
それは、フランクの剣が吹き飛ばされることで、この仕合の終了を告げた。
吹き飛ばされたフランクの剣は、深々とその身を地に沈めた後、ボロボロと形を崩していった。
「あぁ…。すみません。魔力が尽きました。」
剣と同様吹き飛ばされたフランクが二度三度転がり、起き上がった後そう言った。
その表情からは落胆と、申し訳なさが読み取れる。
「ハッハッハ!何を言う。久方ぶりに、それこそ目的を忘れるぐらいには楽しかったから、残念ではあるがな。」
先程までの闘志を忘れたかのように、快活に笑う王に仕合を見ていた騎士達も興奮を収めていく。
「それは、俺も…。自分?あーいや。私もです。」
一人称に悩むフランクを王は少し笑い、審判に目配せをした。
「この仕合!王の勝利であると宣言します!」
審判の宣言と、騎士たちの歓声を持ってこの仕合は、真に終わりを迎えた。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




