62話.出発と思い出と
皇帝を王と言うのかどうかわかんなかったですけど、まぁ許してください。
修整による誤差です。
「王がお二人に興味を持たれたようです。」
二人がロゼットからそう告げられたのは、白装束の者達を撃退してから、三週間後の事だった。
「興味…。って言われても、どうすれば?」
ノエルは思わず綻びそうになる表情を引き締め、困惑した表情を作った。
尤も、その表情はすぐに本物の困惑と入り交ざることになった。
「…こちらを。後半は読まなくても大丈夫です…。」
ロゼットが短く、渡した一枚の封書によって。
封書と言ってもその封は既に切られており、ロゼットが内容を確認したことは伺えた。
二人が困惑したのは、その内容だった。
―――――――――――――――――――――
フランクとノエル、二名のBランク昇格の件を把握した。
僅か、半年程度でBランクとは驚愕の一言に尽きる。
端的に言えば、面白い。
是非とも、その二人に会ってみたいものだ。
二人に帝都へ来るように促せ。
話は変わるがロゼット、貴女は変わらず美しい文章を書く。
望むのであれば、帝都での席を用意する。
………
第3代皇帝 ゼルデ・バルト
―――――――――――――――――――――
その後はロゼットへの勧誘の分が延々と続いており、最後に皇帝の名が記されている事を確認して封書を戻した。
「これ僕達より、ロゼットのほうが本題になってない?」
ノエルが当然ともいえる声を上げた。
辺境への物とは言え、公的文書にこのように砕けた口調。
本題であるはずの二人より、ロゼットへの文が長く、丁寧な文言が見受けられる。
「俺達へのは命令、逆らう事すら許されていないんだろ。」
それに答えたのは、意外なことにフランクだった。
ノエルはこれまで賜呪地から出たことのなかったはずのフランクが、貴族社会から遠いこの地で貴族的な解釈を理解していることに驚愕した。
フランクの言ったことは恐らく正しく、二人への命令の後に書かれたロゼットへの文章はあくまで勧誘であり、ロゼットの意思が尊重されていると解釈できる。
「恐らく、その認識が正しいかと。逆らえば他国からの間者であるとして、処罰される可能性もあるかと…。」
ロゼットは首肯と共に、フランクの言葉を後押しした。
「どうする?」
『計画』の一部である王への謁見。
断る選択肢は、どの方向から見ても無い。
それでも、ノエルはフランクへそう尋ねた。
「行くしかねぇだろ。」
フランクは渋々と言った様子でそう答える。
ノエルにはこのフランクの反応は、演技ではなく事実として気が向かない様に思えた。
「あの…。これは個人的な意見ですが、何かあるのでしたら逃げてしまう事も手かと…。」
ロゼットにしては珍しくその声色は、事務的でも、自身に満ちたものでもなく、物憂げなものだった。
この村の住人で二人に最も関わった時間の多い人間だ。
二人の人となりと同じように、どこから来たのか、おおよその想像がついているのだろう。
半年も過ごせば、二人が隣町から来たというには違和感を感じることなど一度や二度ではないはずだ。
「あぁ、いや、大丈夫。元々帝都には行くつもりだったから、ね!フランク。」
ロゼットに無用な心配を掛けたくない、ノエルは慌ててフランクに同意を求めた。
相手の人となりを理解しているのは、ノエル達も同じだ。
秘密にしたことこそ多いが、感謝の心は当然あるのだ。
ノエルの言葉に頷いたフランクは、ロゼットから帝都までの移動手段を訪ねた。
「ねえ!これが本当に一番安全な移動方法なの!?」
激しく揺れる馬車の中、早くも自身の臀部の限界を感じたノエルは、御者を務めるフランクに届くように大きな声で尋ねた。
その揺れは、車輪にかかった負荷がそのまま突き上げるような形で、ノエルの身体を縦に揺らしていた。
「しゃーねーだろ。歩いて行くには時間が掛かりすぎるし、どっかの誰かと一緒にって訳にもいかなかったんだから。」
ロゼットが帝都への移動手段として、挙げたのは3つ。
1つ.二人の馬車を購入してしまう事。
Bランクに昇格するまで大きな出費と言えば装備面の物だけで、収入の大部分を貯蓄に当てた二人であれば、そこいらの貧乏貴族が乗る程度の馬車なら可能ではあった。
加えて、御者を一人雇うことで二人の負担を金銭のみに抑える提案をロゼットはしていた。
2つ.商人の移動に追従する。
賜呪地のように魔物が現れない、外であっても、商人の馬車を襲おうとする動物や、人間はいる。
その護衛を兼ねる代わりに、幾ばくかの金銭と帝都への移動を馬車で保証される形。
フランクはいざ知らず、ノエルは常に万全の状態を維持することは不可能だ。
契約を履行できない可能性や、それを見られることをフランクが良しとしなかった。
3つ.徒歩での移動。
これは、王からの手紙に期限が書いていなかった事での抜け道に近い。
確かに、時間が掛かろうとも辿り着けば、命に逆らったわけではないと示せるだろうが、無事帝都に辿り着き王が許そうとも、貴族共は喜んでそこを叩く。
それに加え、二人の特にノエルの身体面への負荷を考えるなら、在り得ない選択肢だった。
「それにお前の体調のこともあるんだから。」
ノエルは月に一度、極端な不調に陥る。
腹部に切り裂くような痛みが走り、顔には大きな雨粒のような汗が滲みだす。
それらを、必死に「回復魔法」で何とかやり過ごすだけの日が唐突に訪れるのだ。
注意しなければ聞き取れないほどに、声量を落としたフランクの心配は的中していた。
慣れぬ環境か、質の悪い馬車のせいか、はたまたただ周期的な物か。
ノエルはその不調に襲われ始めていた。
歯を食いしばり、痛みをこらえながら「回復魔法」を腹部に掛ける。
先程までは、せいぜい不快程度だった馬車の揺れも、うだるような熱感と、激しい頭痛と吐き気を増す有害な刺激になる。
フランクに助けを求めるべきか、その逡巡をノエルは後に深く反省することになるだろう。
一時のプライドを捨てて助けを求めようとしたときには、ノエルの喉は大きく叫ぶようなことは出来なくなっていた。
「ぁっ…。かっ…。」
その喉からは、空気が擦れるようなか細い音だけが、漏れ出るだけだった。
絶望を感じた最中。
鋭い痛みの中心から、暖かな癒しが溢れ出てくる。
今までこのようなことはなかった。
そんな、疑問すら抱くことの出来ないほどノエルの余裕はなかった。
ただ、その癒しがかつて自分が受けた癒しの温もりであることに、安心するだけだった。
「先…生…。」
懐かしき呼び名を呼ぶ。
朦朧とする意識の中、蘇るその記憶は或いは走馬灯か。
「んー、本当にこの王との謁見てのは必要なのか?」
二年前、『計画』の完成を聞いたフランクはそう尋ねた。
「あぁ。これから二人が行うのは解釈次第では、小規模な革命と取られてもおかしくない。その時に、王からの覚えが良いかどうかで、その後の大衆の意見と言うのは大きく変わるはずだ。」
子供に言い聞かすようにゆっくりと、それでも威厳と親しみやすさを合わせた声の『先生』をノエルは見上げた。
「これで、『先生』とフランク達の誤解も解けるんだよね!」
ノエルは、子供らしくその足元で軽く跳ねる様にしながら、そう尋ねた。
『先生』はそれに、慈愛の笑みで返す。
「あぁ。愛しい子に嘘は付かないさ。」
そう言って、ノエルの頭を撫でるその腕は、賜呪の証が刻まれていた。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
星1でもいいので評価していただければ幸いです。
ブックマークをして頂ければさらに喜びます。
何卒、何卒ぉ




