58話.散髪と懐かしさ
今回の散髪の話は元から、書きたいなと思っていた部分なんですけど。
でも、違うんですよね。
モヤモヤするぅ
探索者としてダンジョンに潜る毎日を過ごす中、当然人間として必要な行為をする時間もある。
食事や睡眠、買い物など。
その一つが、散髪だ。
ノエルとフランクは互いの髪を、月に一度切りあう。
これは、賜呪地にいる頃からの習慣だ。
探索者の登録をしてから三か月、二人からすれば順調に、周囲から見れば異常な速度で、二人はダンジョンを攻略していった。
明日、四十層のボスに挑み、Bランクへ昇格する。
そう決めた二人は、万全の体調で挑むために、今日は探索を休むことにした。
「フランクはあんまり手入れしてない割に、髪の毛は綺麗だよね。」
椅子に腰かけたフランクに、布を掛けたノエルは軽くフランクの後ろ髪を持ち上げながら、毎度思うことを口にした。
二人はこの三か月で、これまでとは比べ物にならない程の生活を手に入れた。
小さいながら、住居を手に入れ、不自由ない生活を送ることが出来るようになった。
少なくない貯金も出来るようになっていた。
ノエルの髪や肌は、毎日入念に行った手入れのおかげか、光の当たり方によってはそれ自体が発光しているかのような輝きを見せかもしれない。
同様に、フランクのそれも食事や睡眠環境の改善故か、健康的なものになっている。
「これぐらいは、普通だろ。」
いったい何を基準にしているのか分からないフランクの言葉は、誤りだ。
この村は辺境であるが故に、そこに住む者達の身なりは特にみすぼらしい。
そんな中で容姿に気を使う二人は、明らかに浮いていた。
「なあ、本当に帝都に行く必要なんてあるか。」
髪を切られながら、フランクがノエルに聞く。
フランクが聞いたのは、彼ら旅の目的、賜呪地に対する負の印象を払拭するための計画の中断の提案ですらあった。
「…。」
それにノエルは手を止めることはなかったが、答えることを躊躇った。
事実として、この村での…いや、フランクとの生活にノエルは充実を感じ、自分自身でもそう考えたことはあったからだ。
Cランクに上がるその少し前の時期から、収入は支出を圧倒的に上回り始めた。
村にいる探索者…村に残っている探索者達がCランクで止まることは、それが原因だと気が付いた。
そこまで辿り着けない者は、フランク達がこの村に来る途中に出会った盗賊や、モンスターとの戦闘で命を落とすか、引退した者だ。
そこまで辿り着いた者は、今の生活を維持さえしてしまえば、安いとは言え趣向品を楽しむ余裕を持って、生きていけるのだ。
特別な目的、才能を持たない人間は、わざわざ強いモンスターと戦う理由をそこで失ってしまう。
「いや…やっぱり、先生の言った計画を実行しないと、僕達が来た場所を疑う声は消えない。」
ノエルは暫くの思案の後、フランクの提案を否定した。
フランクの「友と笑って生きる。」という目標のためにも、否定した。
本来であれば、僅か三か月でBランクに手を掛けようという、優秀な探索者と距離を置こうとする者は少ない。
だが、二人にはおよそ友人と呼べる者はいなかった。
本人達の耳にも届くほど、二人が「曝呪地から来た。」と言う噂が広がっているからだ。
二人が最低限以上の会話が出来る人間は、探索者ギルドの受付嬢ロゼットと、それをナンパしていた赤髪のエルフのみ…。
赤髪のエルフはチェスター・ヴァージスと名乗り、二人と言うよりフランクに纏わりつき、聞いてもいないことをベラベラと話す存在になっていた。
「そうか…。」
そう呟くフランクの表情は、後ろから髪を切っているノエルにはうかがい知れない。
だが、その声色にノエルは落胆か諦めのようなものを感じた。
「まったく…。僕の方がお兄さんなんだぞ。変な気は使わなくていいんだよ。」
ノエルは切り終えた髪を払い落とす意味でも、ほんの少し強めにフランクの髪を撫でた。
フランクは、それ振り払うように強く首を横に振り立ち上がった。
散髪を終えたフランクの髪は、ほんの少しだけ雑さを感じさせる髪型だった。
それはノエル持つ、フランクの男性的な印象の表出だった。
「ほら、次はお前の番だろ。早く座れって。」
ノエルが時々口にする、自分の方が年上であることを主張は毎度、フランクに複雑な表情をさせる。
ノエルはフランクの髪を切る時、ザックリと大きく切る。
逆に、フランクがノエルの髪を切る時は、その綺麗な髪を傷つけないようにほんの少し、一か月の内で伸びた分だけを切る様に小さく小さく、髪を切って行く。
「あれ?何か、魔法を使ってる?」
探索者としての勘とも呼べる物が、フランクが髪を切る最中、小規模の魔法を使っていることを気付かせた。
「ん?あぁ、回復と再生の魔法をちょっとずつな。気を付けてはいるけど、それでも髪に傷は残るしな。」
ノエルの疑問にフランクは切り終えた、ノエルの髪の切り口に魔法を使っていると言った。
今まで何度も髪を切りあったが、いったいいつから魔法を使っていたのか見当もつかない。
「そんなところにまで、魔法を使ってるの?ていうか、フランクの髪が意外と綺麗なのってそれじゃないの!?」
今まで、自分が様々な道具を使って髪の手入れをしているのを目撃しているくせに、何故教えてくれなかったのかと、ノエルは憤りすら覚えた。
「いや、髪の毛のイメージって俺も絵と言うか、そういうものでしか見たことが無いから教えられないんだよ。」
フランクが使っていた「再生魔法」は、生物が持つ機能を強化するための物で、それほど明確なイメージを要求されない。
しかし、「回復魔法」は生物の器官を無から作る物で、生成する物への理解がその魔法の速度や強さを決める。
理解が一定に満たなければ、魔法は発動すらしない。
「それでも、こういう方法が有るよって、教えてくれても良かったんじゃない?」
ノエルは、思いつかなかった自分にも少し落胆しながら、フランクに文句を言う。
「だって、教えたらお前。俺に毎日、魔法を使えって言ってくるだろ。それは…、めんどくさいし。」
フランクの推測に、自分でもそうなっただろうし、そうなれば確かに面倒ではありそうだと同意する、反面それでもとノエルが口を開こうとしたとき。
フランクが、ノエルの髪を強めに撫でた。
五つも下のはずのフランクの腕はノエルの物より太く、力強い。
その手のひらに、分厚い皮膚を纏っていることは撫でられる感触で伝わってくる。
それでも、その硬く力強い手に撫でられる感触に、ノエルは思わず目を閉じた。
何度か無言で髪を撫でおろされていると、フランクの小さな笑い声が聞こえた。
「どうしたの?」
ゆっくりと目を開けて、ノエルは聞いた。
「いや、こうやって頭を撫でたり撫でられたりしていると、懐かしいこと思い出してな。」
賜呪地に居た時のことだろうか、ノエルはフランクの言葉を聞いてそう思った。
だが、フランクの声色には、それ以上の時を感じさせる何かが宿っていた。
自分達が賜呪地に辿り着いたときには、フランクにそう言った家族のような存在はいなかったはずだ。
ならば、それ以前にいたが、もういないと言う事。
フランク達以外に、そこから出た者がいない賜呪地で、それが意味することは決まっていた。
ノエルはこれ以上深く追求しても、明るい話題にならないと判断して話題を切り替えることにした。
今日は英気を養うための休日なのだから、目一杯フランクと楽しく話そうと心に決めていたのだ。
手始めに、前々から話そうとしていた笑い話の一つを披露せんと、口を開く。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
星1でもいいので評価していただければ幸いです。
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何卒、何卒ぉ




