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この世界の評価は如何でしたか?  作者: シロナガスハラミ
第一章.人生に色彩あれ。
6/84

5話.お姉さまと秘密の書

いつになったらバブちゃん卒業できるですかねぇ・・・

小説を書き始めて、日曜日に慌てて書き始めるからよくないって毎週思うようになりましたね。

 それから、兄のオーランドとの仲は良好だった。

 初めて会ったときは、こちらを警戒している印象だったが、本を読んでくれたり、オーランドのほうから話しかけてくることがかなり増えた。

 最近は、使用人たちから仲が良いと言われるようになった。


(主に、ちゃんと面倒を見ているオーランドを褒める感じだけどな…)


 もし、俺が使用人と同じように一歳の弟の面倒を見ている子供がいたら同じように思っていただろう。

 文字だけでなく、世界の常識や、貴族としての常識なんかも軽くではあるが教えてもらっているし、実際俺は面倒を見てもらってる訳で不満はない。

 寧ろ、仲良くなった兄が褒められることが嬉しく感じてすらいた。


 そうして、俺が兄弟の絆を深めながら、二か月をかけて、文字の読み書きができるようになった。


(オーランドの息抜きとしての時間を使わなきゃいけないせいで思いのほか時間がかかったな…)


 最大の誤算は、父のロバートが王都にいることで出来なくなる領地運営のための政務を、母のクリスが行うと言い出したことだった。

 それによって、子供御用達、必殺「御本読んで」が使える空気ではなかったのだ。


(まぁ、それでも文字は読めるようになれたんだし、次の魔法について書いてある本、欲を言えば教本のようなものを探さないとな。)


-----一か月後-------

 

「んねぇ~」


 なかった。

 以前見つけた書斎を探したが、魔法に関して書かれているものはほとんどなかった。

 書いてあるったことは、こんな魔法があるって聞いたことあるからそれ使えばもっと楽になるのになぁぐらいの物だった。

 後半になると、この部屋には魔法についての本はないことは分かっていた。

 だが、俺は毎日書斎に足を運んだ。

 書斎までは、壁に手をついて歩く俺からすればなかなかの距離があったが、産まれてから一年の暇と、部屋に何もない状況を思えば当然ともいえるのかもしれない。

 最初こそ、使用人たちも慌てて何とか部屋に戻そうとしていたが、しばらくすると時折書斎に入って様子を見る程度になった。


 今、俺が家である程度自由に行動できているのは、クリスが明確に忙しい状態にあるからだ。

 つまり、姉のアンバーも含めロバートが帰ってくる、予定の三か月がタイムリミットだった。

 文字を覚えることで二か月消費したから、残りは一か月。

 その一か月間で、目についた本は片っ端から読んでいった。


 書斎すべてを読めたわけではなかった、寧ろ読めた本のほうが少なかった。

 睡眠時間を削って本を読むことも考えなかったわけではなかったが、夜中に本を読めるほどの明かりが部屋になかった。


 要は、そのタイムリミットまでに俺は魔法について何も知れなかったのだ。


(まぁ、得るものが全くなかったわけではなかったし…) 


 書斎には様々な本があり、魔法以外のこの世界についてある程度の知識が得られた。


(それに、ロバートが帰ってくるということは、アンバーも帰ってくるということだしな。)


 俺の知る中で、唯一の魔法使いである姉が帰ってくるのだから、クリスはいい顔はしないだろうが隙を見て、直接教えてもらうことも可能になるだろう。

 魔法についての本を見つけられなかったことも、自由な時間が少なることも、悪い事だけではない。


 ロバート達が帰ってくるまでの間の数日は、それまでと同じように書斎で本を読んで過ごした。

 そうして、ある日いつものように書斎に行こうとしたとき、満面の笑みの浮かべたクリスに捕まった。

 物理的に。

 抱き上げられ、というか担ぎ上げる勢いだった。


「フランクちゃーーーーん、今日は昨日も言った通りお父さんとアンバーちゃんが帰ってくるのよ~」


 行動や表情と同様に、声も元気いっぱいだった。


(そんなこと言ってたか?言っていたとするなら晩飯の時なんだろうけど、覚えてねぇ…)


 しかし、そんな様子も旦那や娘と三か月ぶりに再会できることや、忙しい政務から解放されることを考えれば納得できるというものだ。

 よく覚えていないが、こういう時は笑って元気にしていれば何とかなるというもの。


「あぃ!」


 とりあえず、適当にイエスマムと頭の中で唱えながら答えておいた。


「んー、その顔はさては覚えてないなぁ?最近はお母さんも晩御飯の時ぐらいしか、フランクちゃんとお話出来なくて寂しいし、あんまりお世話もしてあげられてなくて申し訳ないなって思ってたけど…」


(この世界でもやっぱり、一歳児を放っておくのはやっぱり異常事態ではあるのか)


 なんだかんだ、書斎にいるとき以外も忙しい合間を見つけて使用人かオーランドなど、誰かは近くにいるようにされていたのだろう。


「まぁ、今日はお母さんもお仕事から解放されたし!お父さん達が帰ってくるまで、せっかくだから、フランクちゃんとお話しようと思って!」


 さっきまでは、悲しそうな顔をしていたクリスが今度はまた笑顔になり、そう言う。


(話ってなんだ、出来るだけ短くしてほしい)


 今の俺にとって、書斎の本を読破することが一つの目標になっている。

 極力時間を取られたくなかった。


「ぁぃ」


 返事も消極的になろうというものだ。

 すると、クリスは途端に真面目な顔になる。


「あんまり乗り気じゃないのね。んー、オーランドちゃんが言ってた通りちゃんと会話の内容がわかってるのね。」


 俺のことについて、オーランドがクリスに何か言ってることすら知らなかった。


(何を話したんだ、転生者であることがばれて殺されるとかあるのか。)


 考えなかったわけではなかったが、赤ん坊を演じるには明らかに知識が足らず、早々に諦めたのだ。

 おそらく、本を読めることは使用人からばれてるし、オーランドが伝えていてもその程度だと思いたい。

 それなら、まだ天才の域なんじゃないかそう思ってほしい。

 まだ死にたくないし、せめて魔法を満足するまで使わせてくれ、そう思った。


 そんな、俺にクリスは拍子抜けするほど明るい口調で言った。


「ま、それはどうでもよくてぇ、お父さん達は疲れているだろうから、今日だけは我儘とか言っちゃだめよってことだけなのよね。わかった?」


「あい!」


「はい!いいお返事ね。それじゃ、おうちの外までお父さん達お迎えに行きましょう!」


「あぃ」


 玄関ですでに待っていたオーランドと合流して玄関の外に出た。

 外に出るとクリスは俺を降ろした。


 初めて直に見た外は、庭も含めて遠くの木々など、とにかく緑が多かった。

 大きな村の中に大小さまざまな村民の家と思われるものが複数と、何か公共のものと思われる大きな建物があった。


 そして、その村から伸びた道からゆっくりと馬車が向かってくるのが見える。

 最初こそ、点のようにしか見えなかったものが、徐々に鮮明になっていく姿は視界に映る世界の広さを知らせてくれるし、時が止まった中でそれだけが動いていると錯覚してしまう。


 馬車が止まることで、その幻想も終わりを告げ、中から演技だけではない笑みを湛えたロバートと、演技の一切ない苦虫を嚙み潰したような表情のアンバーが出てくる。

 クリスは喜びからかロバートに飛びつき、かなり強めのハグをかましている。

 唐突なハグだったが、ロバートはなんだかんだそれを受け止めている。


(おお、あれに咄嗟に対応するのは男として少し尊敬できるかもしれない。)


 それぐらいの対応力だった。

 十数秒経っただろうか、クリスが離れたが、ロバートの左腕はしっかりとホールドしている。

 

「二人ともお帰りなさい。」


 クリスが新婚夫婦もかくやといったほどの、幸せ満々オーラを振りまくなかで俺とオーランドもそれに続く。


「おぁえりなあい!」


 手を挙げて、お帰りと出来うる限りの気持ちを伝える。


「父上、お帰りなさいませ。アンバーもお帰り。いろいろあったみたいだけど、少なくともニ、三日は予定がないんだろう?俺もそうだったし、ゆっくり休んで早くいつも元気を取り戻さないと、しんどいぞ。」


 オーランドには同様の経験があるのかアドバイスまでしている。

 今回アンバーが王都に行った主目的である、貴族の子供たちの顔合わせを兼ねた舞踏会以外にも、それに合わせるように様々なパーティーやお茶会が開かれるそうだ。

 アンバーがどれでダメージを負ったのかわからないが、かなり疲れが見えるし馬車で快適に眠れたとも考えられない。


(まだ朝方だが、寝たほうが良いと勧めたくなるレベルだな…)


 五歳児が男女問わず、こんなに疲れているところを見せられると、これから自分もそれを経験せざるを得ないだろうほのかな絶望が心中に漂う。


「うん、ただいま!みんな元気そうで良かったよ。」


 そう言うと、ロバートはクリスを見てから、空いた右手でオーランドの頭を撫で、俺を抱き上げ少ししてから下ろした。


「ただいま帰りました。お父様、少し疲れていますので、早めに私室に向かってもいいですか。」


 少し疲れている程度ではないことは誰の目にも明らかだが、まだ短い付き合いだがアンバーが直接発言に表すことはかなり珍しいことはわかる。


「そうだね、ローガンに挨拶だけしてからだね。」


 ローガンとは誰かと思っていたが、ロバートとクリスそれに加えてロバートにくっついたままのクリスの三人が、止まったままの馬車のほうへ向かい御者にいくつか話をして礼をしている。

 ちらっと見えた程度だが、朗らかな笑顔を湛える男性だった。

 なんというかこう、向こうから見えていないだろう位置でも、なんとなく家族と同じタイミングで微妙な礼をとりあえずしておくのは前世からの癖なんだろうか。


「あの人は俺の時も王都に連れて行ってくれた人だ、まだまだ元気な様子だし、多分君の時もあの人が御者を務めてくれるだろう。見ての通り優しい人だから安心して出来るだけリラックスして、馬車に乗るようにすると帰りが少し楽になると思う。」


「あぃ。」


 御者と三人が話している間に、オーランドがアドバイスをくれる。

 お互いに、満足したのか最後にもう一度礼をしてから御者が馬車を出発させる。

 ヴァーミリオン家の物なので、どこかに止めておく場所があるんだろう。


 そのまま、三人も含めて家の中に戻る。


「僕はこれから色々なところに挨拶に行かなきゃならないから、今日は一旦解散して、晩御飯の時に再集合だね。」


 ロバートが解散を宣言した。

 クリスは挨拶について行くようだ。

 帰ってきた途端、外に働きに行くロバートと今はどこへ行っても幸せなクリスに「行ってらっしゃい」と見送った後、子供達は自然と私室に戻る流れになった。


 俺は私室ではなく書斎に向かおうとしたがアンバーに呼び止められた。


「フランク、待ちなさい。どこに行くの。」


 急に声を掛けられて驚いたが、とりあえず「なんですか」と視線で様子を伺う。


「フランクは最近本を読むようになって、書斎にこもりきりなんだよ。」


 オーランドが俺の代わりに質問に答えてくれた。


「え?もう本が読めるの?」


 驚きからか、一瞬疲れすら忘れたような声だった。

 声の抑揚だけでなく表情も乏しかったが、これはいつも以上に表情も動いていた。


「あい!」


「そうなの、でも私の部屋にはもっと面白い本があるわよ」


「おぉ!」


 アンバーの部屋か、なるほどロバートの部屋にも本は有ったのだから、あっても不思議ではない。

 書斎の本もすべて読んだわけではなかったが、アンバーの部屋にある本はこの機会を逃すと二度と読めない可能性もある。


 俺はその餌につられて、今日は姉のメンタルケアに努めることに決めたのだ。


 そしてアンバーの部屋に入った俺は、犬や猫のように姉に撫で続けられていた。

 どのくらいそうしていたかわからなかったが、俺はそんなことより机の上に置いてあった、「初めての魔法-初級-」というタイトルの本に夢中だった。

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