56話.聖句と魔石。
毎回今回は違う気がするとか、言ってますけど。
多分、自分の中でここまで進めようと思ってたところまで話が進んだか否かが、違うか違くないかの線引きなんだと最近思いました。
そう言う意味では、今回は違くない話です。
文章の質と言う意味では、いつも通りな気がするんですけど。
「神に至るって、先生もよく言ってたよな。」
昼前に『不死者の洞窟』、その入り口の前まで辿り着いた二人は少し早めの昼食を取ることにした。
その最中、フランクがふとそう言った。
「え?うん。ずっとそれを考えてたの?」
村からここまで、なんかを考えている様子のフランクを邪魔しないように気遣っていたノエルは、退屈な沈黙から解放された気持ちだった。
「ああ、至るって言うけど、その神って実際なんなんだろうなって。」
教会の教えの届かない賜呪地で生まれたフランクは時々こういうことを言う。
「『偉業』を成し遂げた者が天の国に招かれた時、創造神『ゼ=レグゼティオ』に見え、その魂は『再誕』の奇跡により神へと至る。」
ノエルは瞳を閉じ、祈りを捧げるかのように右手を胸に当てて、賜呪地の外であれば、誰でも知っている一文を唱える。
「それも、聖典に書かれてるのか?」
例え、自身がその奇跡によって死を回避しようとも、フランクは聖典に、神に興味を持つことないのだろう。
聖典の最初の一文すら知らぬのは、産まれたての赤子くらいだろう。
「うん、そうだよ。信仰する神によって聖典の内容は違うけど、これはどの宗派でも書かれていると思うよ。」
フランクの言葉を首肯したノエルは、同時に自身の推測も付け加えた。
この推測は正しく、都合よく改変された信徒全体に行きわたる聖典のみならず、この一文はそれらの原典にすら記される事実だ。
「ふーん、ならその『偉業』ってのはどのくらいのもんなんだ?」
フランクの疑問は誰もが抱くものであった。
それこそ、この聖句を初めて聞いた子供が、そのまま母親に聞き返す。
その程度の純粋な疑問だった。
「それは、僕にも分からないけど。『探索』の神はこの世のダンジョンのすべてを探索仕切ったとして神に至ったはずだし…。第3代今のこの国の皇帝ゼルデ・バルト陛下は人類を平定するという『偉業』でなんらかの戦神か、王の神になるんじゃないかって言われていたけど。」
それを聞いたフランクは目を見開いた。
「ダンジョンを探索してたら神になれるのか?なら登録の時の質問に対する答えはそれにあやかってるって事か。」
ノエルはその言葉に何とも言えないと複雑な表情をした後、再び口を開く。
「まあ、そんなこと本気で狙ってる人は少ないと思うけど。探索者なんて多くの場合、まともに職業に就けなかったを持っていない人が命懸けで一攫千金やその日の食べ物を買うためにためになるものだよ。」
そう伝えるノエルの苦々しい表情で察したのか、フランクはどこか冷めたような眼をして一言「あぁ」と落胆を口にした。
「まあ、その『偉業』を成し遂げた者ってのは、今まで誰も出来なかった凄い事をした人間って事か。」
フランクのその理解に、ノエルは今度は言葉で「何とも言えない」と返すことになった。
神ならざる人には知り得ぬことだ、無理もない。
フランクもそれを聞いて笑顔を作ると、腰を上げた。
「まっ!そりゃそうか。休憩も終わりにして、そろそろ行こうぜ。」
フランクの視線はダンジョンの入口へと向けられていた。
そこは、どこまでも無機質で、その内には光など一切ないと思わせる程暗い物だった。
その入り口の前に立つ門番のような人間が二人。
その二人は、ノエル達に今朝ロゼットから渡されたばかりの銅板を見せられると、顎をしゃくるようにしてさっさと中に入れと無言で示す。
まるでノエル達に苛立ったかのような様子の対応に、一瞬怯んだノエルは、その隣をすり抜ける様にして、我先にとダンジョンに入って行くフランクを見て慌てて自分もそれに続く。
ダンジョンの入り口、一瞬の真なる暗闇を越えたその先にはうっすらとではあるが、確かに光があった。
その頼りない光が示すのは、ここが確かに洞窟としか表現できない程の岩壁で囲まれた場所であることだけだ。
「…とりあえず、モンスターはいなさそうだね。」
フランクに一歩遅れて『不死者の洞窟』に入ったノエルは、周囲を確認して一息つく。
「そうだな。でも、あそこの角を曲がった先に何かいるぞ。剣は抜いとけ。」
そう告げるフランクの手には、いつの間にか剣が握られていた。
フランクの「空間知覚」その範囲に何者かが存在するようだ。
「人?」
出来るだけ音を立てないようにゆっくりと剣を引き抜き、声量を落としてノエルは短く確認する。
「いや、こんだけスカスカな人間がいれば魔物…ダンジョンの中のはモンスターだっけか、それと変わんねえだろうな。」
ノエルとしてはあまり期待していなかった、具体的な返答。
フランクの「空間知覚」はそこまでの精度はなかったはずだと、純粋な驚きが有った。
「そこまで、わかるの?」
幾らか、緊張を解いたノエルはフランクに聞いた。
人と人型の何か、ここで具体的に言うのであればスケルトンの違いが判別できるのかと。
フランクの言葉には確信があった。
ならばそれは確かなのだろうが、違いが判るので嬉しい誤算と言えるだろう。
「あぁ、洞窟だからなのか、ダンジョンだからなのかは分からないけど。ここはマナが濃いみたいだ。」
自身でも詳細は分からずとも、ともかく今のフランクは好調であると言う事だ。
その証左であると言わんばかりに、フランクが示した角からゆっくりと影が現れる。
まさしく人の白骨のそのモンスターは、やや猫背気味に、だらりと無気力に垂れた腕には折れた剣が握られている。
所々ヒビ入った骨と地面がぶつかる音は一度意識すると、今まで聞こえていなかった事が異常と思えるほど響き。
その双眸に瞳はなかった。
「これは、思ってた以上に…。」
それはフランクの言葉であったが、ノエルの心の内を示すものでもあった。
のろのろと歩く姿はギルドの情報通り、走れば子供でも逃げ切れるものだろう。
「弱そうだね…。」
確かに、その腕に握られる剣は折れているとは言え、当たれば傷は出来る。
だが、その僅かな脅威すら、当てられる距離に近づければと言う、無理難題が付きまとっている。
フランクは一気に気の抜けた様子で、弓を構えて魔法を二発も喰らえば、スケルトンはその体を塵のように大気に溶かしていく。
そして、そこにはほぼ透明な、ガラス玉のような球体が残された。
「うーん、やっぱり質の低い魔石しか落ちないね。」
ノエルはモンスターが消えた後に残すそれを、指先で摘まみ上げ、中に含まれた魔力を覗き込むようにして落胆を口にした。
如何に質が悪かろうと、魔石は魔石、一銭にもならないわけではない。
けれど、それで二人が生きていくのには足しにもならない。
だが、フランクはその魔石を見て、いや、恐らくはそのうちに含む魔力、そして魔力をため込むその性質に目を見開いた。
「これが、魔石…。これは、使えるかもしれないぞ!」
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




