45話.相見えるは宿敵たり得る者
一撃受けるの覚悟で後衛から潰すのは、偉いかもしれない。
俺は、オークウォーリアーの討伐依頼が出た当日にそれを受注した。
だが、当然と言えば当然だが、今回のような大規模な依頼は、依頼が出た当日に人数が揃ったとしても、すぐに出発とはならない。
受注時の説明で聞いたのは、二か月を掛けてターゲット個体であるオークウォーリアーの行動パターンや、周辺の地理を調べ上げて作戦を立てると言う事。
その二か月と作戦を立てると言う期間、俺は焦りにも似た感情を抱いていた。
前世であれば、遊園地が楽しみ過ぎて寝られない少年みたいだと言われていたかもしれない。
「いよいよね。」
依頼当日、騎士達が目標地点の周辺を囲い込むのを待つ間に、好戦的な笑みを浮かべたアンバーが声を掛けてきた。
「えっ?ああ、うん。」
それに俺は待ち望んでいたはずではあるのに、どこか現実味を感じられないせいか上の空気味の返事を返した。
「大丈夫なの?」
眉を寄せ、訝しむかのようにして、アンバーはこちらを覗き込んできた。
俺はそれに、一つ深呼吸をして気持ちを切り替えてから応える。
「うん、ごめん。大丈夫だよ。」
俺が気持ちを切り替えるのを待っていたかのように、全体に進行の号令が掛かる。
「騎士の人達は作戦通りに囲い込んでくれたみたいだね。」
進行の号令が掛かったと言うことはそう言うことだろう。
森の中へ歩を進めながら、他愛もない会話をする。
「なんか、数体のオークウォーリアーがいるとか言ってたわね。」
今回は森の深部に入ることになるのだから、当然進化個体が複数いる可能性も作戦として組み込まれている。
その場合は、オークウォーリアーの討伐経験のある者達が各個体を相手して、その他の者達がその援護と、周囲にいると思われるオークを相手にする。
「作戦通りに進めば問題ないはずだけど…。」
決して楽観視しているわけではないが、周囲にいる冒険者達の人数と、時折襲ってくるオーク達が瞬殺と言っていいほどの速度で狩られていくのを横目に見ていると安心感すら感じてしまう。
更には、今回は冒険者だけでなく学園の魔法を使える生徒も依頼に参加していることが、それをより加速させる。
だが、薄くしか光の届かない森に、前後左右どこから上がっているのか分からない程遠くから響くオーク達の雄叫びが、その安心感に浸ることを許さない。
「…。」
作戦地帯につく頃には、互いの緊張が互いに伝播して、気が付けば肩に不自然な程力が入っていた。
かなりの人数での移動だ。
人間側から不意打ちは出来ず、必然とオーク達の切り開いたと思われる広場で互いの集団が向き合う形となった。
俺を含めた近接武器を持った者達が前に立ち。
弓や魔法をメインにする者の一部は未だ体の半分を茂みに隠す位置になった。
オークの中にオークウォーリアーと思われる、明らかに体躯に秀でた個体が五匹。
その周囲には十数匹のオークソルジャーが見える。
オークは数えるのも馬鹿らしい。
オークウォーリアーの一匹。
左目に傷を残し、生物的本能従うなら劣っていると判断されそうな個体が、周囲のオークウォーリアー達に顎で指示を出す。
まるで、お前はあいつらを相手にしろ。
そう言っているようだった。
こちらの作戦と同じように、相手もオークウォーリアーを個別に戦闘に当てる用だった。
人間側からすればありがたい事だが、何故他のオークウォーリアーが生物的、魔物的階級が同じあの個体に従っているのか。
考えるべきことは有ったかもしれないが、その群れの長とも言える個体が俺を睨み視線を外さなかった。
間違いなく、あの時逃がした個体だろう。
あの時吹き飛ばした腹の肉はオーク種とは思えない程引き締まっており、一部皮膚の色が違う。
あの時と明確に違うと言えるのは、人の身長以上の金属で出来た両刃剣を持っていることだ。
遠目にも、他のオーク種が持っている物よりも、大きく、剣としての出来も良い物であるとわかる。
周囲では指示を受けたオーク達が冒険者達との戦闘を始める中、俺は街でも歩くかのような速度で歩み、あの個体だけに集中し、その動きを観察していく。
それは、奴も同じだった。
俺の鎧や、盾を観察し、オーク達が持つものと見紛うほど剣を興味深げに見ている。
もっとも、それは俺がそう感じただけで、オークウォーリアーである奴にそれほどの考えがあるかは不明だが。
それでも、戦闘のセンス、考えは似たような物らしい。
歩みを止めるタイミングは、その距離は同じだった。
周囲では矢と魔法が飛び交い、激しく金属のぶつかる音が響いているにも関わらず。
まるでこの場に、自分達しかいないと錯覚するほどの集中。
「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」
互いに雄たけびを上げて、剣を振り上げながら駆け出す。
ガンッ!と鈍器同士がぶつかったかのような音を立てて、互いの剣が交わる。
あの頃の様に、相手の攻撃を逸らすと言った小細工は必要なかった。
鍛えた筋肉と、「身体強化」を含めた筋力で俺の方が圧倒していた。
剣を振るう度に、奴の隙が明確になって行く。
それを補うために、無理をするせいで奴の息は徐々に上がって行く。
横目に見える冒険者達の戦闘は、もはや乱戦と化している。
弓を使う者や、魔法を使う者を守らなければならないと言う考えはあるものの、守る側もその守られる側もいつもの仲間で固まるようになっている。
やりやすさを求めていつも通りの動きをしてしまえば、事前に作戦として陣形を決めた意味がない。
若干の苛立ちを感じながら、オークウォーリアーと打ち合う。
その苛立ちからだとは認めたくないが、一瞬出来た俺の隙にオークウォーリアーが剣を振りかぶる。
俺は、奴の腹に左手を突き出すことで対処する。
それに奴は慌てた様子で、後ろに飛ぶことで距離を取ることしか出来ない。
だが、距離を取ってしまえば、誤射を恐れなくなったアンバーの魔法が奴を襲う。
「ヴオオオオオオオオオオォォ!」
痛みからか、あるいはそれに伴う怒りか、未だ炎に巻かれながら叫びを上げるやつを見ながら考える。
(そうだよな。前、お前を死の淵まで追いやったのは左手から放った「爆発」だ。トラウマになっているよな。)
魔物と言っても生物なのだ。
以前、生命の危機に至った光景の再現を見せられれば、怖気づくのだろう。
実際、あそこで無理にでも剣を振りぬくようなら、俺は一歩前に出て魔法を放っていた。
「グッ!ヴルアアアアアアアアアアア!」
俺の余裕を感じ取ったのか、それとも怖気づいた自身への怒りからか。
再び距離を詰めてくる、奴の剣を盾で受ける。
距離を開ければ、魔法の餌食になると学んだのだろう。
だが、俺との打ち合いに分がある訳でもないことを理解しているのだろう。
奴が取ったのは盾で攻撃を受けた、俺に剣を振りかぶる余裕を与えない程のラッシュだった。
それは、如何にオーク種と言えどスタミナの持つ行動ではないはずだ。
採算の取れない行動に疑問を感じたものの、俺にとっては相手のスタミナ切れを待ち続けるだけだ。
ブモッ!ブモッ!っと一振りごとにやかましい鼻息を伴う攻撃を機械的に返すだけだ。
半分戦闘の思考を停止して、奴の狙いを考えていた。
それは必要なことだっただろう。
問題は、それを達成される前に気付けなかったことだ。
奴の剣を打ち返すだけ、そう思っていた俺を襲ったのは、その太い脚からは想像もつかない程の速度を持った蹴りだった。
「ぐっ!」
横っ腹をボールでも蹴とばすかのようにして俺を突き放したのだ。
幸い、奴のゴムのような皮膚はこういった打撃には向かない。
衝撃は有れど、意識を失うような鋭さはなかった。
所詮は悪足掻き。
ここで距離を取ったままであればアンバーの魔法が、距離を詰めてくるのであればさっきと同じだ。
急いで、視線を戻したとき俺が見たのは。
炎に巻かれながら、アンバーを殴りつけんと拳を構えるオークウォーリアーの姿だった。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




