42話.登り調子
完全に月曜更新。
今回は言い訳のしようもございません。
ごめんなさい。
今回の話はオークウォーリアーとの戦闘で、主人公たちの成長と前回のオークウォーリアーがオークウォーリアーの中でも強かったんだよってことが伝わればな、と思いながら書きました。
楽しんでいただければ幸いです。
現れたオークウォーリアーは、その内部から溢れ出るとでも言うべき殺意を、周囲に振り撒いていた。
その手に持っている剣は、明らかに人の背丈以上であり、見ただけでその重量を感じさせる。
(しまった…。さっきのオークがやたらと叫んでいたのは、こいつを呼ぶためだったのか…。)
予期せぬ増援。
(前会ったのとは、別個体か?)
そう感じた理由は明解だった。
俺にはこのオークウォーリアーが、大量発生の時に出会った時ほど脅威には感じられなかったのだ。
その時出会った奴と本当に同じ種族なのかと、疑問を抱くほどに差異を感じた。
当然、敵の攻撃があたれば怪我をする。
その脅威が無くなっている訳ではない。
以前出会ったオークウォーリアーは、持ち手も含めた全てが金属の武器など持ってはいなかった。
むしろ、脅威としてはこちらが格段に上のはずだ。
俺自身も鍛錬を怠ったわけではない。
師匠が言うような魔法を多用する戦闘スタイルではないものの、以前より強くなっている。
それ以上に明確な違いがあるとすれば、今はアンバーが隣にいる、と言うことだろう。
もしかすると、俺はあの時アンバーを逃す選択をしたことを心のどこかで後悔していたのかも知れない。
もしあの時、アンバーと闘う選択をしていれば、オークウォーリアーにトドメを刺せたかも知れなかったと。
「フランク。」
アンバーが数歩下がりながら、俺を呼ぶ。
その声は力強さに満ちており、ここで倒すと言う決意を感じさせた。
「わかった。」
会話としては成立していないはずの言葉で意思疎通を終わらせ、俺はオークウォーリアーへ駆け出した。
今回は奇襲ではない。
俺たちも敵も互いを認識した状態から始まっている。
ならば、俺がすべきは魔法を待ってから戦うのではなく、戦いながら魔法を待つことだ。
オーガ種程ではないにしろ、オーク種もその筋力は同ランクの魔物に比べると強力であると評される物だ。
武器を持つようになったオーク達は、その筋力を用いた大振りで強力な一撃を好む。
しかし、最近は何処かで指南でも受けているのか、剣術、武術の型のような動きでフェイントや細かな攻撃を仕掛けてくる個体も多くなってきた。
オークウォーリアーまで進化した個体であれば、人と同程度の知能は有るのだろう。
数度打ち合う間に、剣を振りかぶりながら拳や蹴りを細かに混ぜてくる。
だが、その打ち合いの中で一方的に傷を作って行っているのはオークウォーリアーの方だ。
理由は単純、「身体強化」をフルで使う俺の方がオークウォーリアーを力押ししているからだ。
故に、オークウォーリアーは本来好まないはずの、小技に頼らざる終えなくなっている。
(これなら、一人でも…)
ほぼ何も考えず、相手の剣に垂直に剣を当て続け、スキが有れば切る。
そんな単純な戦闘に思わず「勝てた」と考えそうになる、思考を慌てて止める。
変わりに俺が考えたのは、もし俺がオークウォーリアーと同じ様に剣を振るえばどうなるのか、と言うことだった。
俺が持つ剣は人間が振るうには多少大きいものだが、オーク達の持つ物よりははるかに短く、細い。
この剣が俺とオークウォーリアーの打ち合いで、未だ折れていないのは流石ファンタジー世界と言ったところだ。
背後で強まるアンバーから漏れる魔力は、その魔法の発動は完成までまだ時間が掛かると教えてくれている。
深く深く、オークウォーリアーの剣筋を観察し、一つ一つを覚えていく。
手首の捻り、脚の向き、息遣いまでも記憶し、自分に落とし込んでいく。
体格が違う、種族が違う。
決して完全な再現など出来ると思っていない。
ただ、出来るだけ同じことを真剣に見様見真似でやっているだけだ。
だが、その効果は戦闘がより一方的になると言う結果で如実に現れる。
個人個人で大きな差のある人間が、種族ごとに様々な特徴のある魔物に対応するために作られた物より、「身体強化」でオーク以上の力を手に入れている俺には、そのオーク達が扱う剣術の方が合っていたのかもしれない。
今までより大振りで、さらに力の乗った俺の剣に、オークウォーリアーは新たな傷を作る速度を加速させていく。
「グブゥ…。ブフゥ…。」
オークウォーリアーが息を切らす理由は、徐々に増えていく傷だけが原因ではない。
オークウォーリアー程までに進化した魔物には、魔眼を使っても動きを止める事は出来ない。
だが、その動きを阻害し、疲労を蓄積させていく毒のような使い方は通用したようだ。
(流石師匠が汎用性に富むとして、選んだ魔法だけあるな。)
格下であれば動きを止めて、同格以上であれば疲労させることで勝率を上げられる。
戦闘中にも関わらず、口角が上がることを自覚してしまう。
「フランク!」
いつまでも打ち合いを続けられる。
そんな状況に酔いかけていた俺に、アンバーの声が掛かる。
同時に、オークウォーリアーの足元が急激に熱を放ち始める。
このままでは、オークウォーリアーと切りあっていた俺も巻き込まれかねない。
「ちょっ!ちょちょっちょっと!」
オークウォーリアーの足元から上がる途轍もない熱量の火柱を、慌てて後ろに飛びのくことで回避する。
まともに喰らえば、悲鳴を上げることすらなく丸焦げになってピクリとも動かなくなったオークウォーリアーよりひどい状況になったのは、想像に難くない。
「問題なく狩れたわね。」
無感情に、私は状況を報告をしているだけですよ、みたいな顔をしているアンバーを半目で睨みつつ「ソウダネ。」とだけ返す。
オークウォーリアーの牙は何とか回収できそうだが、物が焦げた臭いがかなりきつい。
「早くこの場所を離れよう。」
臭いもそうだが、オークウォーリアーがここへ来たように他の魔物が来ないとも限らない。
(これなら、さっきのオークの方がヒヤリとさせられた。)
俺は、帰りがてら今日の戦闘を振り返っていた。
正面から戦えばオークの方が弱かっただろうが、相手の油断を誘って突然攻撃を仕掛けるのは、咄嗟の行動としてはかなり強かった。
今日分かったことは、オークウォーリアーなら俺一人でも倒せる可能性があり、アンバーが居れば完封することすらできると言うことだ。
ただ、予想はしていたが魔眼は通りが悪くなってて安全に使える範囲だと、オークウォーリアーの動きを多少遅くする程度になってしまう。
全力で使えば、動き止められる。
そんな感覚は有ったが、全力で魔眼を使おうとすると、前刻印魔術を教えてもらってすぐ作った刻印魔術の杖と同じように、過剰な魔力に俺の眼が壊れてしまう。
そう言えば、オークの大量発生により人類にも進展があった。
オークの生存圏が増えたことで、進化するまで生きながらえる個体が多くなったことで魔物に関する研究が進んだとか。
聞けば、前々から研究されていた魔物の進化条件がわかったかも知れないとか。
一つは十分な経験があること。
二つは精神的な壁、トラウマとも呼べる物を乗り越えること。
他にも条件はあるかも知れないけど、とりあえずその二つはかなり信憑性が高いらしい。
このオークウォーリアーもオークから2回精神的な壁を越えてきたはずで、精神的には強いはずだが、それが戦闘力に比例するとも限らないってことか。
それで言うなら、さっきのオークは今出会えて良かった。
あいつが進化してオークソルジャーになってしまっていたら、この状況次第ではオークウォーリアーより手強い敵になっていたかも知れない。
帰りながら、アンバーにもそう伝えてみたが、興味なさげに「そうかもね。」と言うだけだった。
あまりに素っ気ない返事に思わず。
「姉さんは、もしここで出会えなかったら、とか考えたことない?」
そう聞いた。
並行世界とまでは行かなくとも、この人と、この本と、この趣味と、何か特定のもので誰もが何となく一度は考えることではないのだろうか。
「あるわよ。ただ、今回は違うだけ。」
そう言われてしまうと、そんなものか、と納得せざるを得ない。
俺も出会った魔物一体一体にそんなことを考えているわけではない。
「そうなんだ。」
あのオークは確かに強かったが、オークの域を出てはいない。
もしあのオークに出会ったのが、昨日なら、明日なら、倒した後にどうこう考えることも無かったかも知れない。
適当に振った話題ではあったが、話が膨らまなかったことには少し物悲しさのようなものを感じてしまう。
アンバーの方を見ても黙々と歩きながら、何かを思い出しているのか、考えているのか、話をするような雰囲気ではない。
仕方ないと諦めて、俺も黙々と歩を進めることにした。
「ねえ、フランク。」
森の外に出て、後は平原を歩き王都に帰るだけとなったころに、アンバーが俺を呼んだ。
「どうしたの?」
隣を歩くアンバーに軽く視線を向けつつ、呼びかけに応える。
「私、今の生活に満足してるの。」
唐突な言葉に驚きと疑問が、沸き上がる。
「え?そうなんだ。」
当然何も思わなかったわけではない。
元々、俺がアンバーに冒険者としての可能性を示したのは、アンバーが人生に不満を持っており、それが前世の俺と重なったからだ。
放っておいても、前世の俺の様にはならなかったかもしれないが。
俺の行動でアンバーの精神が良い方向に進んでいるなら、俺も嬉しいと感じられた。
未だ森の中であるにも関わらず、俺は一人ほっこりとした気持ちになっていた。
あるいは、自分の子供や、孫、親戚の子供の成長を感じられた時、人はこんな気持ちになるのかもしれない。
アンバーの発言に一人喜んでいる俺の両頬を、アンバーは軽く引っ張りながら言う。
「私は、今の、生活に、満足しているのよ。」
徐々に近づいてくるアンバーの顔に、少し気圧されながら考える。
(なんだ?これは、何か俺が言うべきことがあるときの責められ方だ…。)
だが、その肝心の言うべきこと、アンバーが期待する返答が思いつかなかった。
「そう、なんだ。僕もだよ。」
結果、俺が選んだのはとりあえず笑顔で相手の意見に賛同し、時間を引き延ばすことだった。
だが、その返答を聞いたアンバーは満足げに笑い、頷いた。
「そう。それでよろしい。」
妖艶に笑う彼女は、まるで飼い犬に言うかのような口調でそう言い、再び歩き始める。
どうやら、逃げの一手のつもりのものが、正解だったようだ。
何にせよ、アンバーが笑っているなら今は良い。
その後、オークウォーリアーの討伐を報告した俺達は、それを聞いていた冒険者達から賞賛された。
なんでも、オークウォーリアーの討伐はかなり珍しい事であり、オークの戦力を削る意味合いでも、周囲にとって明るいニュースになり得るのだとか。
それから、その日の冒険者ギルドはお祭りモードで、アンバーは上手く躱していたが、最後に至っては俺に胴上げされかけた。
それから二年経ったころだった、順調に冒険者としての評価を上げていた俺の耳に、片眼が潰れたオーク種の進化個体の情報が入ってきたのは。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
星1でもいいので評価していただければ幸いです。
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何卒、何卒ぉ




