34話.闘争本能と生存本能
今回で、オークウォーリアーとの戦闘終了です。
オークウォーリアーが、当初思っていたより強敵になってしまいました。
最初は、話も二話で終わるつもりだったし、冒険者の集団が逃げるなんて予定なかったんですよね。
その為に、アンバーを先に逃がすためにベテラン冒険者を助ける話を追加して、冒険者集団が相手するはずだったオーク達を撒くために、オークウォーリアーと追いかけっこする話を追加したり…。
難しいよなぁって感じっすね。
オークウォーリアーに致命傷を与えようとするなら、かなり高い位置に向けて攻撃をすることになる。
それは、俺自身の防御を捨てた攻撃であり、リスクとリターンがあまりにも見合わない。
やはり、狙うのは今まで通り、脚。
違うのは、魔法を「爆発」を使って、相手を跪かせてから首を飛ばすと言う、手段と目的だ。
俺の持つ攻撃に使える魔法は、ほぼ「爆発」だけと言っても良い。
それ以外は何らかの点で「爆発」に劣る。
師匠の元で学んだことは、おおよそ魔術についてのことで、加工や生産用の魔法で攻撃に使えるような物はほとんどない。
オークウォーリアーに通用するのは、恐らくこの魔法だけと言っていいだろう。
今まで使わなかったのは、周囲にいるオーク達に位置を知られない様、出来るだけ静かに戦闘を進めたかったからだ。
だが、ここに来るまでに、オークウォーリアーが木をなぎ倒しまくっていたのにも関わらず、オーク達が姿を現していないことから、オーク達との距離はかなりあると考えた。
オークの援軍が来る前に、短期決戦を仕掛ける。
それが、俺の出した結論だった。
魔法も、魔力も出し惜しみはしない。
両手で持った剣から左手を離し、いつでも「爆発」を使えるようにしておく。
左手を離した分の筋力を補うために、右腕の「身体強化」を少しだけ強める。
安全に使える範囲を少し出た状態だが、体が壊れ切る前に片を付ければいい。
ベテラン冒険者の立ち回りを参考にして、オークウォーリアーの武器に力が乗り切らない様に、自分が剣を振りやすい間合いではなく、オークウォーリアーが武器を振りにくい間合いを意識する。
何度も撃ち合いを繰り返すうちに、避けきれない、防ぎきれない攻撃が、互いの体に無数の傷を作っていく。
幾度目かの攻撃を盾で防いだ時、ミシミシと骨が軋む音とともに、ベキりと、何かが剥がれるような、壊れるような、そんな音が強く響いた。
(骨か…?!いや、そんな痛みは…。)
そんな思考が一瞬よぎった。
敵を前にして、敵に意識を向けないタイミングを自分で作ってしまった。
その愚かな行いの報いは、すぐに訪れた。
元より、敗北したベテラン冒険者の立ち回りをまねているのだ。
なら、その対策も同じだった。
オークウォーリアーの武器を持たない左手で作られた拳が、俺の顔に直撃する。
ゴキッっという音と、衝撃が頭の中に響く。
一瞬飛んだ意識が戻った時に感じたのは、下顎が根元からずれたかのような痛みと、体全体を包む浮遊感。
宙に浮いた体を強化した筋力でもって、無理やり立て直して着地する。
「ぃっ…!!?」
痛みを感じて声を上げそうになると、さらに痛みが増して声を出せなかった。
(いってぇ…、下顎の骨か?)
剣を構え直しながら、折れたのか根元から抜けたのかした歯を吐き出して、顎に「再生」の魔法を使う。
一度目の何かが壊れたような音は、盾の金具がオークウォーリアーの一撃に耐えきれなかった音のようだ。
盾の部分が凹む程度ならまだ使えたが、腕につけている留め具の部分がイカれた状態では使えない。
左腕を垂れ下げていれば、重力に引かれて自然と腕から外れてくれたのは、これ以上の隙を晒さないで済んでよかった。
だが、問題は他にあった、俺の「再生」は人の再生力を強くするだけの魔法だ。
折れた骨に使うには、あまり向かない魔法だった。
(歯を噛み締められないと、ちゃんと力が入らないのか。)
ズレた骨をズレたまま治してしまったことにより、歯の噛み合いが悪くなってしまった。
ここが前世の街中であれば、異常に凹んだ右の顎に指をさされていたかもしれない。
「ごああああああああああああ!」
噛み締められないなら、オークウォーリアーと同じように、声を上げることで力を入れて切りかかる。
「ブオオオオオオオオオオオオ!」
俺の咆哮に応える様に、オークウォーリアーが叫ぶ。
有無を言わさぬ力押しのオークウォーリアーの攻撃を、俺は速度で持って弾き、逸らし、いなし、時には転がって回避する。
このまま切りあいを続けていれば、盾の無くなった俺がジリ貧で負ける。
そのことを理解していると言うのに、俺の思考はどんどんと熱を失っていった。
戦いながら気付いたことがあった。
痛みと言うのは、熱に似ている。
戦闘中に感じたくはないものだが、本能と言うのだろうか、無視は出来ず。
一度持ってしまうと、過ぎ去るまでこちらからできることなど無い。
その熱が、痛みが、去ってくれるのをただ待つだけだ。
だから、意識しないように心掛ける。
一度受けた痛みに引きずられて、新たな傷を作らないように。
意識は敵にのみ向ける。
向け続ける。
どう気付つければ、膝をついてくれるのだろう。
弱点を晒してくれるだろうか。
その為に、こちらが受けるダメージをどこまで許容するか。
オークウォーリアーが右手で振り回す武器の衝撃は、軽々と人を吹き飛ばすほどだ。
まともに受ければ、恐らく命はない。
良くて意識を失う、悪くて朦朧とした意識の中、動かない体に腹を立てながら、とどめを刺されることになるだろう。
(さんざん打ち合ってきたんだ、こいつにも俺が脚しか狙わないことはバレてる。)
今のままではジリ貧、狙いも相手にバレている。
なら、今までやらなかったことをするしか、俺に残された選択肢はない。
敢えて、盾を失う前と同じ立ち回りを。
まだ、脚を傷つけて逃げることを狙っていた時の位置関係に戻す。
さっき受けた一撃で、理解したことがある。
(こいつは相手が同じ行動をすれば、同じ方法で対策してくる。)
さっきの俺と同じようにベテラン冒険者も、オークウォーリアーの武器での攻撃を警戒して、意識がそれたところを左手で殴り飛ばされ、意識を失うことになった。
俺が意識を失うことがなかったのは、魔法によって骨だけでなく、皮膚にいたるまで強化をしていたからに過ぎない。
これまでの戦いで、このオークウォーリアーに明確なダメージを与えられていないのは、乱雑に振るわれているように見える武器にも理があるからだ。
こいつの、反射神経、筋力、皮膚の分厚さ、種族としての生命力を、計算に入れての振る舞いなのだ。
人であれば明確な隙となりうる行動も、こいつにとっては違う。
だが、この戦いの中でこいつが、明確な隙を一度だけ晒したことがある。
それは、俺に脚を切らせる代わりに、俺に致命傷を与える判断をした時。
痛みを覚悟した、絶対の意思を込めた上段の構えは、戦いにおいては不要なほどの溜めだった。
だからもう一度、同じ状況を作ってやる。
互いに息を切らした状態で、出来るだけ考えたくない状態で。
同じ状況を作られれば、機械的に同じ反応をする。
それは、戦闘においての判断速度を上げるための、優位に立つための技術でもあるが、甘えともとれるものだ。
先程より少し早く、上段に構えた武器が振り下ろされ始めた瞬間、身を屈めてもう一歩前に出る。
振り下ろされた武器を躱すことは出来たが、オークウォーリアーと密着するような状態。
これではオークウォーリアーどころか、俺も剣を振ることが出来ない程の近距離。
一瞬、オークウォーリアーの戸惑うような声が聞こえた気がする。
(これは、お前にはまだ見せていないもんな。)
左手をオークウォーリアーの腹に密着させて、全力の魔力を込めて「爆発」を使う。
轟音と、異臭が一気に広がる。
「ブゴォォォォ…!」
雄たけびとは違う、情けない声を上げるオークウォーリアーは、腹からビチャビチャと嫌な音を立てて、血液と何かが混じったような液体を垂れ流している。
膝をつき、武器を杖代わりにして何とか倒れないようにして、こちらを見上げるその瞳には、最早こちらに対する殺意はなかった。
(さっさとトドメを刺そう。)
意趣返しの様に、渾身の力を込めて両手で剣を上段に構えようとした、その時。
「ブオオオオオオオオオオオオオオ!」
轟音とも呼べる、その雄叫びを合図に辺りから、オーク達が続々と現れる。
どこに隠れていたのか。
魔物が何故そんなことをしていたのか、今考えるべきことではない考えが次々と湧いて出てくる。
今から、この数の相手は出来るはずもない。
(こいつ…!)
剣を上げきれない中途半端な構えから、慌てた狙いの精確でない振り。
それでも、倒し切れる。
そう思える、一撃だった。
ギンッ!
「グッ!オオオオオオ!」
確かに何かを切った感触と、鈍い金属がぶつかった音、奴の声が確かに伝わってくる。
だが、声を上げられると言うことは、生きていると言うことだ。
「ああぁ!!」
無理に繋げた顎で意味のある言葉を吐けぬまま、怒りに任せて声を上げる。
俺の振るった一撃は、奴の左目を傷つけるだけに終わった。
原因は、俺が戦闘中さんざんやっていた、相手の攻撃を逸らす、それをオークウォーリアーが見様見真似でやってみせたことだ。
もう一撃加えてしまえば、片が付く。
だが、それをしてしまえば、俺はオークの波にのまれて確実に、命を落とす。
(くそ!)
口で吐けぬ毒を、心の中で吐き、助走をつけて跳躍する。
オーク達の手が届かない木の枝に飛び乗り、枝から枝に飛び移りながら逃げる様にして、王都に辿り着いたのは、日が落ち切ってからの事だった。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




