32話.優先順位をつけること
0時過ぎてしまったことを、謝罪させていただきます。
そして今日は眠いので、前書きは~なし!
気が向いたらそのうち書くかもしれないです。
おやすみなさい!
「ブオオオオオオオオオオオ!」
乱入者、オークウォーリアーを見た後の冒険者達の動きは迅速だった。
この個体が本当にオークウォーリアーなのかは分からずとも、オークの進化個体であることは明白だったからだ。
ならば、冒険者ギルドで受けた依頼の作戦の説明に従い、緊急事態が発生した時の対処を行う。
「撤退だ!」
この部隊を率いていたべテランの冒険者が、剣を構え前に出ながら、叫ぶように言った。
他の冒険者が撤退するまでの間、オークウォーリアーを引き付けるつもりなのだろう。
オーク達と交戦しながら、じりじりと前線を下げる冒険者達を、オーク達が追いかけないはずがなかった。
頭のよくない魔物と言えど、否、頭のよくない魔物が故に、逃げる獲物を見す見す逃がす訳がない。
問題は、オークウォーリアーが現れるまで、オーク達に勝っていたはずの冒険者達が押され始めたことだ。
後ろに下がりながらの戦いであること以上に、指揮をしながら戦っていたベテラン冒険者が、オークウォーリアーにくぎ付けにされてしまっているせいだ。
「まずそうね。」
杖を背負い直すために、一度冒険者達の集団のところまで下がって、戦況を見ていた俺に、いつの間にか隣にまで来ていたアンバーが話しかけてくる。
アンバーが言っているのはこの状況の事ではなく、オークウォーリアーと一人で戦っているベテラン冒険者の事だろう。
確かにそちらもあまりいい状態とは言えないが、それよりも俺には優先すべきことが出来た。
「…アンバーさん。魔法と弓を使う人はもう少し後ろに居ないと。」
少し下がったところにいるとは言え、ここは近接武器を持った者がいる場所だ。
戦ってみた感想としては、オーク達しかいないのであれば、アンバーがどこに居ようと守りながら戦うことが出来る。
だが、オークウォーリアーが現れたことで状況が変わった。
基本的に、魔物の危険度と言うものは、進化する度に一つ上昇していく。
オークから進化したオークソルジャー。
それから更に進化を経た、オークウォーリアーのランクはCになる。
(俺に出来るか…?)
迫るオークを切り伏せながら、俺が考えるのは、アンバーが逃げるまでの時間稼ぎのことだ。
ベテラン冒険者はオークウォーリアーの相手をしながら、周りの冒険者の被害を気にするせいで、後手に回ってしまっている。
優しい人なのだろうが、その心は今この場においては仇になっていると言わざるを得ない。
オークソルジャーからの進化は三つ、近距離型、遠距離型、魔法型か。
オークウォーリアーは近距離型の進化であり、シンプルな戦い方しかできない。
遠距離に対する攻撃手段の乏しい俺にとっては、他二つに比べて相手しやすいと言えるだろう。
本当は、オークウォーリアーを他の冒険者に任せて、アンバーを連れて逃げてしまいたい。
前世で自分の命すら意味もなく捨てた俺が、誰かの命を犠牲にしてまで生きようとするなど。
あまつさえ、自分に都合のいい人間だけは助けたいなど。
なんて、都合のいい話だろう。
ゆっくり撤退していく俺を含めた冒険者達は、誰もがこのままではベテラン冒険者が負けることを理解しているにもかかわらず、自身がオークウォーリアーと対峙することに怯え、避けてしまっている。
自分の予想を裏切り、誰かが、どうにかして、オークウォーリアーを討ってくれること願うばかり。
それでは、ただ現状の崩壊を待つだけだ。
そして、誰もが自覚無く待っていた崩壊は訪れる。
その予想は裏切られることなく、その願いは叶わぬまま。
ベテラン冒険者と冒険者達の戦線を下げる速度が合わず、ベテラン冒険者だけが前線に残されてしまっている。
必然的にオーク達に囲まれたベテラン冒険者に、隙が生まれる。
何体かのオークを巻き込み、錐揉みしながらベテラン冒険者が飛んでいくのが、冒険者とオークの波が映る視界の中で明確に見えた。
その隙を突いたのはオークウォーリアーの左手で作った拳であったのは、不幸中の幸いと言うべきか。
もし拳ではなく、オークウォーリアーの持つ、鈍器とも剣とも取れない武器であったなら、即死だっただろう。
「あ、」
短い誰かの声は、絶望を含む震えに包まれていた。
その、今しがた敵を失ったばかりのオークウォーリアー、と言う絶望に見つめられた者から、声を張り上げて逃げていく。
最早、冒険者達に秩序はなく。
その後退は撤退ではなく、逃亡へと変わった。
冒険者達を後ろから追ってくる、オーク達を、オークウォーリアーを見て、俺は一つ諦める。
物事に、人の命に、意識的に優先順位を付けることを決意する。
冒険者とオークウォーリアーの距離は、まだ余裕がある。
それでも、森から出る前に追いつかれることは、誰の目から見ても明らかだ。
「姉さん。いいポーション持っていたら、貸してほしいんだけど。」
冒険者達の波に逆らうことなく、走りながら「身体強化」の出力を今できる最大まで上げていく。
冒険者として、アンバーを姉さんと呼ぶことは避けていたが、この混乱の中では気にする必要もないだろう。
「持ってはいるけど、怪我したの?」
アンバーは走りながら、ポーションの入った小さなビンを一つ手渡してくる。
それを受け取った俺の全身を観察して、そうは見えないとこちらを見つめ返してくるが、説明している場合ではないだろう。
「ありがとう。」
短く礼を伝え、強化した筋力で持って木を駆け上る。
おそらく、アンバーには俺が何処へ行こうとしているのか、なんとなくバレている事だろう。
それと同じように俺にも、アンバーが俺を追いかけてオークウォーリアーと戦おうとすることも、なんとなく分かる。
だから、アンバーに戦場から逃げる理由を作るためにアンバーからポーションを貰った。
俺が、まず向かうのはオークウォーリアーの場所ではなく、その先。
枝から枝に飛び移り、この世界の人間基準としても、途轍もない速度でオーク達の頭上を越えて来た道を逆走する。
途中、すれ違いざまにオーク達の様子を観察したが、思っていたより冒険者達との距離を詰められていないようだった。
逃げ惑う獲物を、涎を垂らしながら、囃し立てて、追いかける遊びをしている。
進化を経て、知能が上がったはずのオークウォーリアーですら他のオークと同じように、雑に、巨大な武器を左右に振りながら、着かず離れずの距離をあえて維持しているように見えた。
最早、冒険者達を敵として認識していないオーク達だが、それはこちらにはとって好都合だった。
まず一に、自分とアンバーの安全を。
その次に、自分とアンバーの納得を。
最後に、その他の冒険者達の命を。
俺が決めた優先順位はそれだけだったが、あの様子ではおおよそ最後まで達成できそうだ。
人の命を含んだ判断とは思えないほど、静かな感情だった。
その感情に揺らぎを生んだのは、木にもたれる様にして意識を失っているベテラン冒険者の、周りを取り囲んでいる四匹のオークを見つけたことだった。
そのオーク達は仲間からはぐれたのか、あえて残ったのか。
あえて残ったにしてては、すでに意識のないベテラン冒険者に止めを刺さず、冒険者の装備を剥いで互いに見せ合って喜んでいる。
ここが戦場だと言う意識が既にないのだろう。
オーク達が装備の見せ合いに飽きる前に、行動を起こす。
強化された身体能力で木の枝を蹴り、斜め下に跳躍する。
背後から、弾丸の様な速度でもってオーク達に迫り、ベテラン冒険者の武器を持っていた一体の首を落としながら、冒険者の前に降りる。
その後、慌てて武器を取り出そうとするオークの顔面を「爆発」で吹き飛ばし、こちらに掴みかかろうとするオークの首を剣で突く。
残った一体は、味方が一瞬でやられたことに怯えたのか、後ずさりした。
距離を取るなら、無理に詰める必要はない。
ベテラン冒険者の剣を鞘に戻して回収してから、アンバーから貰ったポーションをベテラン冒険者の口に流し込み、そのまま俵のように意識のないベテラン冒険者を右肩に担ぐ。
残った一体を見ても、こちらに向かってくる様子がなかった。
(この距離感なら、突進してくると思ったんだけどな。)
今までのオークであればタックルを仕掛けてきたところを、前蹴り、俗に言うヤンキーキックで返そうと考えていたが…。
こちらに関わってこないなら、こちらからも構わない。
今の目的は、この冒険者をアンバーに引き渡すことだ。
「…。」
先ほどまで、オークが持っていたベテラン冒険者の武器を回収し、人、一人を抱えたまま木を駆け上って、また冒険者達の集団の方へ戻る。
冒険者の最後尾にオークウォーリアーの手が掛かる前に合流出来たのは それなりに早く行動できたと思うべきか。
「フランク!」
後方に魔法を使い、逃げる冒険者達を援護していたアンバーに並走する。
「姉さん!なんでまだ、こんなところに。でも、ちょうどよかった。この人を街に送って欲しいんだ。」
逃げ遅れた人を助けるために、前線に居ることは分かっている。
俺がこれから、オーク達を相手にしようとすると、アンバーが残ろうとすることも、分かっている。
だから、名も知らぬベテランの冒険者を担いできたのだ。
一人でオークウォーリアーと戦ったこの人を、見捨てられる人間は少ないだろう。
俺が時間を稼いでいる間、アンバーが真っ直ぐ街に向かう理由を作った。
アンバーも何年も冒険者をしているだけあって、今もそれなりの距離を逃げながら魔法を使っているはずなのに、息を切らす程度で済んでいる。
ポーションを手渡すときも、走りにくい森の中で地面を見ることなく走りながら、体の軸がブレることがなかった。
そんなアンバーであっても、人を担ぎなら同じことは出来ないだろう。
魔法を使えないのであれば、アンバーがここに留まる理由もなくなる。
むしろ、アンバーがここに留まるとベテラン冒険者も危険にさらされるため、アンバーは逃げることに集中してくれるはずだ。
「じゃあ、任せたから。」
押し付けるように、アンバーにベテラン冒険者を担がせ、オークウォーリアーの方へ走る。
走るのが遅かったのか、アンバーと同様に誰かを助けようとしていたのか、逃げ遅れた冒険者の何人かが、オークウォーリアーが片手で振るった武器に弾き飛ばされている。
そんな中、真っ直ぐ向かってくる俺を、オークウォーリアーはどう見たのだろうか。
恐怖に錯乱した人間の子供が突っ込んで来た、と取ったか、あるいはオーク種故に、何も考えていないのかもしれない。
結果としてオークウォーリアーの動きは変わらず、左右に草を掻き分けるように、人の海を掻き分けていく。
雑に、同じリズムで、同じ軌道の振り。
タイミングも軌道も分かっているのだから、後は腕をその途中に置いておくだけだ。
「ブオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!?」
力に自信があったのだろう。
今まで軽々と飛ばしていた人の、その子供の片腕に軽々と、攻撃が止められてしまったことに疑問の声を上げる。
空間魔法で包んだ片腕、激しい動きは出来ないため、こうして軌道の分かっている攻撃を受け止めることぐらいにしか使えないが。
今この状況で、オークウォーリアーに俺を敵として認識させるためには、効果的だろう。
「ブオオオオオオオオオオオオオオ!」
先程とは違う、狩りから、戦闘へと意識を切り替えた、戦意の籠った雄叫びをオークウォーリアーが上げる。
俺は静かに、回収したベテラン冒険者の剣を鞘から抜いて、「身体強化」と同じように剣を強化していく。
命懸けの時間稼ぎの始まりだ。
読んでくれている人がいるとわかるとテンションが爆上がりします。
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何卒、何卒ぉ




