30話.三種の魔術とオークの指定依頼仕立て。
次話でオークと戦います。
三十話と言うことで、次から、この世界でどんどん終盤に向かっていく流れになります。
今回、魔術についての話が多いですが、フランクはこの世界の魔法についても並行して、同じくらい学んでいるってことを理解していただけると、次からの話も読みやすいと思います。
マリウスの弟子となり、魔法と魔術を学んでいく日々はあっという間だった。
たまに、考えた魔法を試すために冒険者として活動して、学生として授業にも出席していた。
やはりマリウスは、助手のセレナに転生者であることは明かしていないらしく、セレナがいる間はこの世界の魔法理論か、その延長にある魔法を学び。
セレナがいない間に、刻印魔術、紋章魔術、詠唱魔術、などについて学んだ。
マリウスが最も造詣が深かったのは、空中にマナの通り道として、魔法陣を描くことで魔法を発動させる紋章魔術だった。
発動までの時間が短く、魔法陣を見てどのような魔法か瞬時に理解することはかなり難しく、仮に転生者を相手にする場合でも、紋章魔術で押せば大体は勝てるとマリウスは言っていた。
尤も、それは日々魔法の研究に明け暮れているマリウスが作った魔法陣だからこそで、俺がマリウスから紋章魔術の基礎を学び、一から作った紋章魔術の魔法陣は、マリウスが教科書に書いてあるレベルのものとして見せてくれた基本的な魔法陣より、発動速度、魔力効率、魔法の規模、あらゆる点において劣っていた。
詠唱魔術はマリウスが好まないようで、あまり教えては貰えなかった。
発動が遅く、どういう魔法が発動前に理解されてしまう事が多く、対処が楽だそうだ。
総じて、紋章魔法と同等の自由度があり、同じ呪文を唱えれば、個人差はあるものの、同じ魔法が発動する初心者用の魔法と言う評価だった。
刻印魔術は依然マリウスから聞いた通り、物体に印を刻むことで、そこをマナや魔力の通り道として示し、それを紋章魔術で言う魔法陣として、魔法を発動させる。
印を刻む側、刻まれる側、そのどちらの材質も重要で、事前に印を刻んだ複数の魔道具と呼ばれる物を用意しておく必要があるが、その魔法に必要なマナや魔力さえ注げるのであれば、その魔法の効果を知らない人間でも、全く同じ効果を得られる。
欠点としては、たとえ自分が作った魔道具であろうと、同じものを使用するなら全く同じ効果しか得られないことだ。
また、魔力の結晶のような物がある世界なら、難易度は上がるものの、事前に設定しておけば、それを供給源として持続的な発動も、事前に設定した時間後に発動する遅延発動や、遠隔の発動も可能な魔術だと言うことだった。
事前の準備ではかなりの応用を効かせることができる反面、戦闘中など魔道具をいじることのできない局面では魔法の射程や挙動、種類すら変えることのできない魔術だった。
他にいくつかの魔術を教えて貰ったが、俺が興味を持ったのは、刻印魔術だった。
紋章魔法があまりうまくいかないこともそうだったが、俺が初めて魔法を使ってから、ずっと望んでいた火の玉が飛ぶ魔法などを再現出来た。
それに、とても興奮したからだ。
と言っても戦闘で使えるようなものではなく、通常破損することなく、繰り返し使用できるはずの、刻印魔術に使った魔道具も一緒に燃えた。
発動速度や魔法の威力を見ても、俺が普段使っている魔法の「爆発」でよく。
紋章魔術や今まで使っていた魔法の改良ももちろんだが、何らかの有効な魔法を刻んだ魔道具の作成が、俺のしばらくの課題となっていた。
マリウスが言うには別に、魔法は戦闘に使うためだけのものではないが、戦闘で魔法に求めるものは何かの破壊と言う単純なもので、戦闘に使える魔法を作れない魔法使いは、何か作る魔法などの細かい魔法を作れないらしい。
「師匠、これはどうですか。」
俺は、魔術を教えて貰うなかで、マリウスへの信頼や尊敬から、最初こそ違和感があったものの、自然と師匠と呼ぶようになっていった。
マリウスも最初は、むずがゆそうにしていたが、受け入れてくれた。
炬燵のような机に座り、自分の作った杖型の魔道具で、火の玉を飛ばす魔法を刻印した魔道具をマリウスに見せる。
「出来たのか…。なるほど、一つの物に魔法の射程だけが違う、複数の刻印を施したわけか。その分、魔道具が大きくなってしまっているが、確かに、これなら前回言った欠点は改良出来ていると言えるな。」
俺は、前回も同じ、杖型の魔道具で、火の玉を飛ばす魔法を刻印したものをマリウスに見せた。
魔法の飛距離を俺にできる最大の値とし、空気以外の何らかの物体にぶつかった際に炸裂することで、火力を出す魔法を刻んだ。
その際に受けた注意として、敵が近距離に存在する場合の魔力の効率が悪すぎると言うのが、マリウスの評価だったのだ。
火の玉を飛ばす魔法にこだわる必要はなかったが、とりあえず一つの魔法を及第点に持っていくことが重要だろうと、俺は考え。
今回も同じように火の玉の魔法を、近距離、中距離、遠距離のそれぞれに対応した三つの刻印を魔道具に刻み、ある程度臨機応変に魔道具を使えるようにして、距離設定による魔力の消費の増加を抑えた。
その結果、手で握るサイズの杖から、普段は背負っておく必要のあるサイズまで魔道具が大きくなってしまったが、戦闘では使えるだろう。
「…。同じ魔法とは言え、一つの物に複数の刻印を施すのは、かなり難しい。俺が刻印魔術を学んだ世界であれば、それが出来るなら一人前とされていた。この短期間で、良く頑張ったな。」
マリウスはじっくりと魔道具を眺め、そう言った。
「ありがとうございます。」
年単位ほどではないにしても、数か月頑張ってきたことを認められ、思わず小さくガッツポーズをしてしまう。
「ただ、同じ魔法を刻むのなら、同じ刻印の部分を重ねることで、もっと魔道具のサイズを小さくできたはずだ。その他にも、刻印自体に改良できる点は多い。突き詰めれば、前回の杖で同じ性能の魔道具も作れるようになるはずだ。」
及第点ではあるが、満点ではない。
マリウスが言いたいのはそう言うことだろう。
同じ刻印の部分を重ねるのは、二つ目の刻印を施しているときに思いつきはしたが、刻印の形を大きく変えねばならず、とりあえず完成させてから、次をどうするか考えようと思っていた。
刻印の改良点と言うのも、直接聞いてしまいたいが、マリウスが他人に魔法を教えるのは、そいつ自身が持つ発想で、自分の知らない理論が完成するかもしれないからで、あえて言葉を濁すのは聞いても答えてくれず、自分で考えろと言うことだと何となく理解した。
「わかりました。」
俺が短く答えると、マリウスは少し目を細め頷いた。
これからどうしたものかと、考えようとしたとき。
廊下からドタドタと慌しい足音が聞こえてきて、勢いよく部屋の扉が開く。
「マリウス!オークが異常発生してるんだって!指定依頼が回って来たよ!」
部屋に入って興奮したように声を上げるのは、冒険者ギルドに貼られている依頼書のようなものを手にした、セレナだった。
「そうか。他に回しておいてくれ。」
さっきまでの優し気な表情はどこに行ったのか、マリウスは短く即答した。
「指定依頼って何ですか?」
言葉の意味がわからず、会話に交じる。
特定の冒険者に依頼を出す場合は、確か指名依頼と言ったはずだ。
個人に対しての依頼のため、他に回すと言うのは出来ないし、やはり別の物なのだろう。
「んー、指定依頼って言うのはね。魔物が異常発生したときなんかに、こうやって魔術塔に所属する魔法使いに助けを求めてくるんだよ。」
そう、セレナが説明してくれる。
しばらく、はい。はい。と話を聞く。
要約すると、異常が発生したから、魔法が使える、力がある者が協力してくれないかと、冒険者ギルドが魔術塔に依頼を出す。
魔術塔は、そもそもが魔法を使える者を集めた学院の、その更に優秀な者しかそこに所属することを許されない機関であり。
一人派遣されるだけでも、平均的な冒険者より事態の解決に貢献することが多いらしい。
故に、指定依頼とは、魔術塔という組織を指定して、人を何人か派遣してくれと言う依頼だそうだ。
そして、その依頼の難易度を考え魔術塔の管理をする者達が、魔法使いにその依頼を回していくらしい。
それでも、魔術塔に所属する者の本分は、魔法の研究であり、自身の研究の関係で断ることはあるらしい。
ただ、基本的に回ってきた指定依頼を断る魔法使いは少ない。
即答で断ったマリウスは、異常と言うことだ。
俺に初めて出会った時も、何度か断り続けていると、魔術塔から除籍されかねないため、数年前にしぶしぶ受けた指定依頼の途中だったそうだ。
「そうだ、フランク。お前が行ってこい。」
セレナが説明している間ずっと何かを考えていたマリウスが、名案を思い付いたとでも言いたげに言う。
「は?あんた何言ってんのよ。」
「いや、俺は魔術塔所属じゃないですよ?」
そのマリウスに、セレナと俺が反論する。
俺も、最近は魔術塔のマリウスの部屋にいることが多いが、所属は魔法学院、まだ学生の身分だ。
「それは関係ない。冒険者ギルドが求めているのは、魔術塔所属の魔法使いじゃなくて、戦力としての魔法使いだ。どうせ話を聞いた学院の奴らも何人か行くだろうし、オークなら何匹いても、お前一人でも問題ない。」
一人頷くマリウスに、俺とセレナは何を言っても無駄なことを察し、俺は討伐依頼を受ける時の装備を取りに行くのだった。
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何卒、何卒ぉ




