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姫様、禁酒されるんじゃないんですか?

作者: 三同もこ

久々の新作。会話文メインのコメディですが、お楽しみ頂ければ幸いです!

 この世界で一番大きな国だと言われている大皇国。

 世界でたった一人、皇王を名乗る偉大なる王には子供がいた。

 男の子である皇子様が三人、女の子である皇女様が三人。

 その内、下から三番目にして、二番目の皇女様。それが私、第二皇女である。

 飛びぬけて優秀な兄と姉が一人ずつ、少しお馬鹿だけど優しい兄が一人、素直で可愛くてちょっぴり腹黒い弟妹が一人ずつ。人格者だけど子煩悩な父に、口煩いけれど温かく一人で六人も産んだ根性のある母。

 一般的な皇族や王族にありがちなドロドロした関係なんて微塵もなく、家族全員が家族全員を大好きで、国が大切で、皆で仲良く暮らしている。国民は豊かな生活を送り、気性は穏やかで大らかなものが多いという平和な国で育った。

 飛びぬけた才能はないけれど、それなりに美人でそれなりに優秀な私は、その日、皇国代表として、とある王国の学園へ第一王子の卒業祝いにと訪れていた。

 王子は卒業と同時に長年婚約者だった公爵令嬢と結婚するので、どちらかと言えば結婚祝いがメインだ。

 卒業式はあくまでもオマケであり、本命は翌週の結婚式である。

 だが、オマケの卒業祝いだから適当でいいとは思っていない。あくまでも公務なのだから、きちんとやるつもりだったのだが、卒業式後のパーティーでやらかしてしまった。

 折角のお祝いだから一口だけと勧められて、ウッカリお酒を飲んでしまったのだ。

 正直、私はお酒が嫌いではない。いや、かなり好きだ。はっきり言えば大好きだ。

 だが、お酒を飲むと羽目を外してしまうというか、ぶっちゃけ記憶がなくなってしまう事が多々ある上に、何かしらやらかしてしまう事が多いので、公式の場では飲まない様にしていた。

 けれど、会場にいた恰幅の好い紳士に余りにも上手に勧められたので、つい飲んでしまったのだ。そう、私は飲むつもりなど微塵もなかったのに!


「いえ、姫様が余りにも物欲しそうにジッと見ていたから、気を遣って一応勧めて下さったんですよ。良かったらどうですかと言い終わる前に、食い気味に頂きますとグラスを奪っておられましたよ」

「……記憶にないわ」

「一週間何も食べていない浮浪者よりも飢えた目をなさっていたので、彼は身の危険を感じられたのか、顔が引き攣っておりました」

「そ、そそそ、そんな事ない、わ、よ?」


 ちょっとだけいいなー、私も飲みたいなーと思って見ていただけだもの。セーフよ、セーフ。

 私は軽やかに扇子を広げた。


「――――それで?」

「それで、とは?」

「私、何かしていなかったかしら?」

「姫様、もしかして……」

「…………面目ないわ」


 卒業式に参加した後、パーティーに参加したことは覚えているのだ。

 恰幅の好い紳士が美味しいお酒を勧めてくれたこともバッチリ覚えている。


「でも、そこから記憶がないのよ……」

「姫様……」

「ねぇ、私、大丈夫だった? 何かやらかしていない? 気が付いたらこの部屋でワインの瓶を抱えて寝ていたのだけれど、パーティーで何かあったりしたかしら?」

「そうですね……」


 私専属の侍従が首を傾げた。


「あったと言えばありましたよ」

「え、何々? 何があったの?」

「実はあのパーティーが始まって直ぐの事なんですが、第一王子が婚約者ではない御令嬢を連れて壇上に上がりまして」

「どういう事? 余興か何か?」

「ある意味余興でしょうね。何と一緒に連れていたご令嬢を虐げた罪で、婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を告げようとしたのです」

「な、何ですって!? そんなの大事件じゃないの! 非常識な!」


 私は顔色を変える。

 高位貴族の結婚は政略を伴うものが多い。ましてや、王族と公爵令嬢の結婚ならば、国にどんな影響が出るか。更に、長年に渡り婚約していた令嬢は裏切られた思いだろう。どれほど辛く悲しい思いをしたか。

 胸が潰れそうになりながら話を聞いていると、侍従は力強く頷いた。


「大丈夫です。それは未遂で終わりました」

「そうなの? 良かったわ……第一王子はギリギリの所で踏みとどまれたのね」



「いえ。何故か第一王子の後について一緒に壇上に上がられた姫様が、婚約破棄を言い出す前に『ふざけるな』とワインの瓶で第一王子をぶん殴って止めました」

「私の非常識が王子を上回った!?」



「フルスイングでした。とてもいい音がしましたよ。景気よく瓶は割れていましたが、中身を既に飲み切っていたのは流石でございます」

「褒めている場合じゃないでしょう!? どうしましょう! 国際問題じゃないの! お父様たちになんて言い訳したらいいの!?」

「大丈夫ですよ。公爵令嬢は物凄くスッキリした朗らかな笑顔をされていました。フスーと鼻から深く息を吐いて満足げで。後で話を聞いた所、ここ最近の第一王子は連れていたご令嬢を優遇し、公爵令嬢をかなり蔑ろにされていたらしく。さぞかし、今まで鬱憤がたまっていたんでしょうね」

「そうでしょうけども!」

「更に言えば、その姫様の一撃で、第一王子が正気に返ったそうなんです」

「え、どういう事? 確かに公の場で婚約を破棄しようとか正気とは思えないけれど……」

「元々、以前の第一王子は婚約者とも仲が良く、真面目で優秀な人格者だったらしいのですが、ある時、頭を強く打ってから人が変わったように堕落し、婚約者を遠ざける様になったようで」

「そうなの?」

「強い衝撃によるものが原因だと皆思ってはいたのですが、試しに叩いてみる訳にもいかず。そのまま今日まで来てしまった時、姫様が情け容赦なくワイン瓶でぶっ叩いたのが功を奏し、第一王子は元の穏やかで優しい人物へと戻ったのです」

「そんな奇跡ある?」

「あったのです。その後、第一王子は公爵令嬢に謝罪し、和解。愛を伝えあい、無事に結ばれる事になりました。第一王子は姫様に感謝されておりましたよ。それによって自分は致命的な事を口走る前に正気に戻れたと」

「ワイン瓶でぶっ叩いたのに?」

「公爵令嬢も感謝しておりました。姫様が渾身の力で第一王子をぶっ叩いてくれたお陰で、これまで蔑ろにされて腹立たしかった気持ちが救われたのだと。あれがなかったら、きっと結婚しても蟠りが残っていただろうと」

「ま、まぁ、それなら良かったけど……良かったのよね?」

「はい。王国は姫様に感謝の意を示し、かなり良い条件で交易を結んでくれることになりました」

「災い転じて、かしら?」


 余りにも都合よく進んでいるが、まぁ、結果オーライだ。


「とにかく良かったわ。問題にならなくて」

「はい。後、それから――」

「嘘! まだあるの!?」

「はい。第一王子の側近である騎士団長子息が、まだ第一王子を殴り続ける姫様を取り押さえようとしたのですが」

「待って待って。殴り続けようとしてたの、私?」

「はい。『女の敵だ、打つべし打つべし!』と非常に力強く同じ個所を執拗な程に」

「そんなに?」

「公爵令嬢が離れた場所から『いいわ、そこよ、抉る様にぃぃ!』と拳を振り上げて応援しておられました」

「相当鬱憤が溜まっていたのね!?」

「姫様は、その凶行を止めようとした騎士団長子息の剣を折りました」

「今、凶行って言った? そう思っていたのに何故止めなかったの……いえ、剣を折った?」

「彼の祖父であった伝説の騎士の形見の品だったそうです。姫様が『あちょー!』という掛け声と共に蹴りを繰り出し、軽快に根元からポッキリ折りました。その後、飛んで行った剣は窓から外へと飛び出し、固い岩に叩きつけられ粉々に。修復は不可能です」

「ひえええ、嘘でしょ? 形見の品をノリで壊しちゃったの? ど、どうしよう……許されないでしょうけど、しゃ、謝罪に……」

「それは必要ありません」

「何を言っているの。いくら私が大国の姫でも、そんな非人道的な事は……」

「姫様が剣を折った後、剣を折られた騎士団長子息は急に目が覚めたような顔をされたのです。そして、言われました。『どうして騎士になろうと思ったんだろう。僕は神官になりたかったのに』と」

「ん? どういう事かしら?」

「実は、騎士団長子息は元々温厚で人を傷つける事を極端に嫌っている優しく臆病な性格だったらしいのです。それが、祖父から無理やり譲り受けた剣を持った途端、人が変わったように騎士を目指すようになったと。そこに居合わせた神官によれば、最期まで口には出さなかったけれど、孫が己と同じ騎士ではなく神官を目指す事が心の奥底では嫌だった祖父の強い思いが剣に宿っていたのではないかと」

「伝説の騎士の思いが重すぎない?」

「伝説の騎士の剣だった故に粗雑に扱えず、ずっと手放せなかったらしいのですが、姫様が叩き折った事で呪縛から逃れられたのです。息子の様子が急に変わった事に気付いていたのに、自分と同じ騎士を目指してくれる事が嬉しくて目を閉じてしまったと、騎士団長は悔いておられました。子息も姫様のお陰で本当に行きたい道へ進めると感謝してました」

「……ま、まぁ、本人がいいならいいんだけど。それにしても、第一王子を殴ったり、騎士団長子息の剣を折ったり、結構やらかしていたのね」

「そうですね。宰相子息の眼鏡を割ったりとか」

「待って? 急に新情報が入って来たわ。何、眼鏡を割った? えっと、踏んづけたりしちゃったの?」

「いいえ。第一王子のもう一人の側近である宰相子息が、剣を折られた騎士団長子息が座り込んでしまったので、第一王子を殴り続ける姫様を止めようと果敢に声を掛けたのでございます」

「まだ殴ってたの!?」

「はい。『皇女様、お止め下さい! 殿下が死んでしまいます!』と、決死の覚悟で止めに入った宰相子息に『顔がうるちゃい!』と姫様は怒りの拳を顔面に叩きこみ、眼鏡を叩き割られました」

「嘘でしょう!? 理由も行動もあり得ないんだけど!? 私完全に理不尽の擬人化なんだけど!? どうしよう!? お詫びの品は最高級眼鏡とかにすればいいの!? それで許して貰えるかしら!?」

「喜ばれそうですけども、お詫びの品は必要ないと思いますよ」

「いるでしょう! 怪我をさせているのよ!?」

「いえ、奇跡的に眼鏡が顔を守って無傷でしたし、眼鏡を取った宰相子息は美少年でした」

「良かったけど、眼鏡凄すぎない? 後、美少年は関係ないんじゃないかしら」

「そして、その素顔を見て、隣国の大使が叫びました。『王女様!?』と」

「急に新展開」

「眼鏡を取った宰相子息は、行方不明になっていた隣国の先代の王妹様にソックリだったのです」

「どういう事なの?」

「隣国の先王の妹君は他国へ向かう途中の事故で川に流され、行方が分からなくなっていたのですが、偶然、視察で通りかかった宰相の父君に拾われ、記憶のないまま彼の妻となっておられたのです。孫の宰相子息は彼女にソックリだったのですが、宰相様の家は代々近眼でレンズの厚い眼鏡をかけていたので誰にも気づかれていなかった。ですが、偶然公の場で姫様が子息の眼鏡を壊してしまった事で、素顔を見た現王の従弟でもある隣国の大使が気付かれたのです」

「そんな奇跡ある?」

「あったのです。ずっと先代王の妹君を探しておられた隣国は姫様に感謝されておりました。宰相様の家でも、ずっと身寄りがないと思い込んでいた祖母に血縁がいて、生きている内に家族と会わせる事が出来ると喜んでおります」

「そうなの。それは良かったわ」

「後、眼鏡が割れた衝撃で宰相子息の視力が戻り、粉々になった眼鏡を見てビックリした拍子に隣国先代王の王妹様の記憶も蘇りました」

「良かったけど、眼鏡凄すぎない?」


 余りにも展開が激し過ぎて寿命が縮まった気がするが、一先ず国際問題にならなかったなら良かったと、胸を撫で下ろす。


「最後に、第一王子と一緒に壇上に上がった令嬢ですが」

「ああ、そう言えばいたわね! え……もしかして、私その子もやってしまったの?」

「殴ったりはしてません」

「ああ、良かったわ。女の子を殴るなんて最低だもの」

「全力で回してました」

「何て?」

「『あら、あなたのスカート中々いい円を描いているわね。じゃあ、回りましょう!』と驚くご令嬢の手を取って、グルングルンと回し始めた姫様は、『オーホホホホホ、ヒョーホホホホホホホ! ウヒョーホホホホホホホホホホホホホォォォォイ!』と上機嫌にご令嬢を振り回し、50回転くらいした後、『飽きたわ』と仰って、ペイッとご令嬢を放り出しました」

「完全に通り魔じゃないの!」

「ところがご令嬢は軽く息を切らしながらも、真っ直ぐに立たれていたのです。恐るべき体幹と三半規管を持っていた彼女は目をキラキラさせて、何かをやり切った顔をされていました」

「どういう事なの?」

「『私が求めていたのはこれだったんだわ。私、やっぱりダンスが好き!』とそう言ったご令嬢はその場で踊り始めました」

「どういう事なの?」

「それは今までの社交界のダンスとはまるで違うけれど、目を惹きつけられる素晴らしいものでした。踊り切った彼女に周りが静まり返る中、拍手が響きます」

「どういう事なの?」

「『素晴らしい! 君こそ、私の求めていた逸材だ!』そう言って彼女の元へとやってきたのはあの世界的に有名なダンサー『サンライト氏』でした」

「どちらさま?」

「『嘘……! あ、貴方はかの有名な……?』、『君、良かったら私のレッスンを受けないか?』、『そ、そんな私なんか……!』戸惑うご令嬢の肩が叩かれます。『何を弱気な事を言っているの? 信じなさい、自分の才能を!』そう叱咤激励したのは公爵令嬢でした」

「何で今出てきた?」

「実はご令嬢と公爵令嬢は元々親友であり、良きライバル同士でした。けれど、ご令嬢がスランプにより自暴自棄になっていた時、落ちぶれていた第一王子がご令嬢にちょっかいを出し始め、二人は疎遠になってしまっていたのです」

「ぶっ叩いた私が言うのもなんだけれど、第一王子はぶっ叩かれて当然じゃなくて?」

「その事をきっかけにご令嬢と公爵令嬢は再び友情を取り戻し、公爵令嬢に背中を押されたご令嬢はサンライト氏と共にダンス発祥の地である島国へと旅立ちました」

「え、もう行ってしまったの?」

「はい。姫様にとても感謝しておられましたよ。貴女のお陰で私は再び戦う勇気を得たと。このご恩は一生忘れないと」

「人に一生の何かを与えてしまったのに、私、記憶にないの?」

「他にも置いてあったお皿でフリスビーをすると言って、大臣様のカツラを飛ばしたり、窓ガラスを割ったり、通りかかった給仕をくの字に曲げたりしておられました」

「やりたい放題じゃないの!」

「カツラを奪われた大臣様は真っ赤な顔で恥ずかしがっておられましたが、その姿がとても可愛らしいと長年不仲だった奥様が惚れ直して夫婦仲が改善したそうです。後は、窓ガラスが割れた瞬間に咄嗟に近くにいたご令嬢を庇った騎士とご令嬢が恋に落ちましたし、体をくの字に曲げられた給仕は紛れ込んでいた敵国のスパイでした」

「そんな事ってある!?」

「他にも色々やっておりますが、まぁ概ね皆様感謝されております」

「えええ……問題にならなかったのはいいのだけど、いいのだけれど……待って? 概ね? じゃあ、問題になった事があるの?」

「はい。一つだけ」

「そ、それは何?」


 侍従は淡々と言った。



「特別にご参加されていた王国の末姫様(御年三歳)が大切に取っていたケーキの苺を勝手に食べられました」

「大罪じゃないの!! 今すぐ王国で一番美味しい苺のケーキをホールで買ってらっしゃい! 謝罪に向かうわ!!」






 こうして慌てて向かった先で待っていたのは、ニコニコと可愛らしい男の子と手を繋ぐ末姫様。


「あのにぇ、イチゴたべられちゃってないてたら、かりぇが『なくにゃ』って、イチゴくれたのよ!」


 ぶっきらぼうだった幼馴染の公爵子息が男を見せ、末姫様にはボーイフレンドが出来ていた。


「そ、そうですか……よ、良かったですわ?」


 首を傾げる私にいつも冷静な侍従が僅かに微笑んで言う。


「流石は姫様。我が国の『酒と幸運の申し子』でございます」

「うう、何で私には適応されないのかしら、このスキル」


 私もボーイフレンド欲しい!

 後、お酒を飲んでも記憶をなくさない様にして欲しい!

 もう禁酒よ、禁酒。でも、飲まないとやっていられないわ。だから、明日からね!



 【おしまい】


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[一言] 凄く面白かった!幸せになる続編も読みたいです。
[良い点] とっても面白かったです! 酒と幸運の申し子皇女様の他のやらかし譚を読みたいです。ぜひ!
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