16.誤解だから!
「ゾーラおかえり」
「モレク様、ただいま戻りした」
ゾーラが帰還した。
まず、41階層に転移して樹人族達に色々な種を預ける。
既に土地は耕されており天候変化で雨を降らしたようで土に水が染み込んでいた。
『よーし皆!頑張るぞぉ!』
『(ザラザラ)』
樹人族達はリーダーの高位樹人族スミレに声をかけられザラザラと揺れる。
ゾーラはアイテム袋から種を取り出してスミレに渡す。
その後、42階層に転移してオーク達に家畜を渡す。
柵で適当に区切り分けしているので分かりやすいように迷宮の壁を加工して看板を作った。
「ふむ、トラップを利用した運び方は正解だったな」
「そうですね、そういえば期間中にキモキモ集団に会いまして、話し合いの結果あるアイテムを貰いました」
「そ、そうか、話し合い、か」
「はい」
ゾーラから魔道具の短剣らしき物を受け取る。
内容なんてどうでも良いのでそのままSPに変換する。
・2万SPを獲得
2万か、これが高いのか安いのか全く分からない。
取り敢えず今日はもう遅いので晩御飯を食べて眠る事にする。
明日の予定は『訓練所』の階層作りと本格的な魔物達の復活、ゾーラの武器を創る予定だ。
魔物の本格的な復活はまだ先になる気がする。
ラストダンジョンにいる魔物は数が多いのだ。
今後、様々な敵が来る可能性が高いので今いる戦力を上げる為の訓練所に、戦闘力が高い魔物を復活させたい。
まあ、その分SPを消費するから選別しないといけないけど。
101階層に転移して数分後にゾーラが晩御飯を作り終えて運んでくれる。
「早く食料改善したいものだな」
「そうですね」
今はまだ旅の途中で買っていた食べ物が残っているが魔物達も食べる必要があるのでこのままのペースだと1ヶ月ぐらいだろう。
まあ、ダメ元で明日成長速度を見る予定だが。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
ゾーラが食器を片付けている間に俺は布団の準備をする。
食器を片付けたゾーラは96階層の温泉に、俺は95階層の温泉に行く。
魔物達は0時に入るようで貸し切り状態だ。
昨日は色々会って疲れていたのであんまりゆっくりしなかったが、改めて見ると凄い広い。
まず、シャワーを浴びて身体を拭いてから2階の風呂に入る。
「ぷッはァ〜」
疲れが抜けていく。
《告、この湯には『疲労回復』『魔力回復』の効果があります》
おお、それは凄い。
温泉の湯を売るようにこれをポーションとして使えないかな?
《解、あくまで入る事に寄っての効能なので、摂取しても効果はありません》
あ〜そうなん?まあ、ええか。
その後子供のように、まあ15歳なので日本では全然子供なんだけどね。
全種類の風呂に入り、露天風呂も堪能する。
「ふ〜入りすぎた」
上がったら1時間過ぎていた。
101階層に転移すると、膨れ顔のゾーラが布団の上にいた。
「少し遅くありませんか?」
「すまん、昨日の分まで楽しんだ」
「一緒に入るならともかく、このように長く入るのは身体には良くないと思います」
「一緒に、て。変わんなくね?」
「私の目の保養になります!」
「そ、そうかい」
それは俺の身体を心配しての言葉か自分の為の言葉か分かりにくいゾーラ。
「それでは寝ましょう」
「そ、そうだね」
うう、2日目だけどならないな〜。
布団に入り2秒後、俺は深い眠りに付いた。
「モーラークーさーまー。相変わらず寝るの早くありませんか?お休みなさいモレク様」
ゾーラも深い眠りに付いた。
◆◆
『モレク様』
『ん?ゾーラか、どうした』
『モレク様』『モレク様』
『あれ?こっちか、⋯⋯ら、ヒィッ!』
『モレク様遊びましょう!』『モレク様身体を見せてください!』『モレク様大好きです!』『モレク様ご飯出来ました』『モレク様お背中流しますよ!』『モレク様髪の毛をください!』『モレク様の髪で藁人形を作りたいです!』『モレク様⋯⋯』『モレク様⋯⋯』『モレク様』etc.
大量のゾーラが様々な事を言ってくる。
『え、藁人形?』
それは⋯⋯怖くない?
『ちょ、ちょっと来ないで』
『モレク様逃げないでください!』『モレク様待ってー』『モレク様鬼ごっこですか?』『モレク様⋯⋯』『モレク様⋯⋯』etc.
大軍のゾーラが一斉に追いかけて来る。
『く、来るなぁあああ。ゾーラ来ないでくれええ』
◆◆
「ぶは、はぁ、はぁ、ゆ、夢か」
「も〜れ〜く〜しゃ〜ま〜」
「ぞ、ゾーラ?」
「そうですか、私なんて居ない方が良いですか」
「ぞ、ゾーラ、ゾーラさーん」
「私なんてモレク様の傍に居てはいけませんよ。ハハハハハハハハハハハ」
「も、戻ってこーい!誤解だから!ゾーラは居てくれないと本気で困るからあああ!」
寝言でゾーラに酷い事を言っていたらしく涙を流しながらゾーラは呪文のように呟きながら笑い出す。
さらに剣に手を掛けて自分の傍に持って来ようとするゾーラを必死に止める。
「とっわ!」
ゾーラと押し問答していると押し倒してしまった。
「も、モレク、様、私はここで初⋯⋯」
「何言っているか分からんが、ゾーラ、寝言は寝言、本音じゃない」
「寝言は本音と良く言うではありませんか?」
ゾーラを押し倒してそのままの格好でゾーラに必死に訴える。
「そんな事は無い!ゾーラは傍にいて欲しいし!傍で支えて欲しい!もし、ゾーラが俺の傍に居なかったら俺はここに居ない!ゾーラが居たから、ここまで着いて来てくれたから俺はここまでやってこれたんだ!」
「モレク、⋯⋯様」
「だ、だから、居ない方が良いなんて、⋯⋯言わないでくれ」
「モレク様、すみません、モレク様の寝言で取り乱しました」
「そうか、誤解が解けて良かったよ」
「モレク様、続き、しますか?」
「ん?なんの話だ?今日の朝食はなんだ?」
「⋯⋯はぁ〜」
「え!なんのため息!ねえ!なんのため息!」
「ささ、朝食は作っていますから食べましょう!」
「そ、そうだな。ため息気になるけど」
ゾーラはキッチンの方にトコトコと歩いてく。
少し歩いた後にクルッとターンして、メイド服のスカートが中に浮いて、下ろすとゾーラの顔が見て取れる。
その顔は紅色に染まり、可愛らしく笑顔で、語りかけてくる。
「私は如何なる時でもモレク様を愛してます」
「⋯⋯」
冷静を装っているが、内心ドキッとして心臓バクバクでロボットのようにカチカチで席に着いた。




