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世界最高の精霊術師  作者: 木嶋隆太


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第17話


 室内に入り、改めて私は師団長と向かい合っていた。

 机は全部で五つ置かれている。

 それぞれの席にはそれぞれの荷物と思われるものがあり、机ごとに個性が現れていた。

 その一番奥の席に師団長――ベールド様が着席された。


「いやぁ、ごめんね? ちょっとここで尋問していた犯罪者が逃げ出しちゃったみたいでね。僕が捕まえに行っていたんだ」

「そうなんだ」


 私がぼそりと返すと、ベールド様はにこりと微笑んだ。


「いつもは優しい優しい師団長だから、そう怯えないでね?」


 自分で言わないでほしい。

 ていうか、その笑顔が逆に怖いんだけど。

 さっきの怒り顔を見ているし、それから優しい顔への変化も一瞬だった。

 そんな流れを見ていると、突然ブチ切れるんじゃないかと思ってしまう。


「うん、分かってる。でも、いきなりだったからビビった」

「あはは、キミ素直だね。気に入ったよ」


 いや、気に入らなくていいです。


「それで……私はどうしてここに呼ばれたの?」

「特に明確な理由はないかな」

「え……?」

「本当に一目見て、キミと話してみたかっただけだよ。それと、宮廷精霊術師の試験は頑張ってねっていう応援、かな?」


 それだけで私呼ばれたんだ。


「うん、もちろん頑張る」

「頑張るだけじゃないよ? もちろん、『合格』するんだよ?」


 一瞬彼の目が鋭くなった気がした。


「落ちたらもしかしてさっきみたいな感じになる?」

「なっちゃうかも」


 ……うん、絶対に落ちれない。

 ベールド様は楽しそうに笑っているが、それも本当かどうか分からない。


「それ以外で何か気になることはある? 僕であれば答えるけど……」

「何かあればファイランに聞くから大丈夫」

「えー、僕なんだか距離置かれてる?」

「別にそんなことない」


 私は冗談っぽい空気を出し、顔をそらしながら言ってみた。

 するとベールド様はまたくすくすと笑う。


「キミ、やっぱりいいね。僕にここまで軽口を言ってくれる子は久しぶりだよ」

「……それが嬉しいことなの?」


 普通舐められてる! とか怒るところじゃないだろうか?


「うん。なんだかゾクゾクしてくるね」


 ……うわ、変態かもしれない。

 私が軽く引きながら……そういえば一つだけ疑問があったことを思い出した。

 それについて、聞いてみようか。

 私は確かに冒険者として、それなりに活躍している方だった。

 けれど、いきなり宮廷からスカウトが来るほどの人材だったかと問われると首を傾げたくなる部分はあった。


「どうして私に声をかけてくれたの?」

「うーん、どうしてだと思う?」

「どこかで私の話を耳にしたからだとは思う。でも、いきなり宮廷精霊術師っていうのは変だと思った」


 流れ的には、精霊術師から宮廷精霊術師なのだ。

 打診するとしても精霊術師として、だと思っていた。

 私の疑問に、ベールド様はにこりと笑みを濃くした。


「そうだね。僕たちのもとにいくつか、高ランクの依頼が届いたんだ。ただ、たまたまその時手が空いていなくてね。対応できないで困っていると、ギルドから依頼の取り下げが来たんだ。それがちょうど半年ほど前かな? 誰が受領してくれたのか興味本位で調べたら……すべてキミの名前が出てきたんだ」

「……」


 なるほど。それで興味を持たれたのか。

 確かに私は他の人が受けたがらない依頼を受けることが多かった。


「心当たりはあるかい?」

「うん、まあ色々」

「キミはどうしてそのような依頼ばかり受けていたんだい?」

「強くなるため」


 多くの冒険者が金や名誉を理由に活動をしている。

 私の目的は、ティルガや微精霊、それに困っている人たちを助けるため。

 そのために、力をつけたいと思い、より強い相手との戦いを求めた。


 私自身、そういう環境に身を置きたいっていうのもあったけど。

 高ランクの依頼は危険な割に、報酬が高くないことが多い。

 もちろん、普通の依頼よりは高いけど、命を賭けるほどなの? っていうことはわりとある。


 だから、多くの冒険者が敬遠してしまい、依頼が残りがちだった。

 稀に、名誉を理由に受ける人もいるのだが、それは本当に稀なもの。

 私はそんな依頼も積極的に受けていた。周囲からは自殺願望があるのかとか、英雄気取りなのかとか蔑まれることもあったものだ。


 私にそんな考えはないけど。

 ただ、ベールド様は私の言葉のすべてを素直に受け取ったわけではないようだ。含みのある笑みとともに、嬉しそうな吐息をもらした。


「それは立派だね。話していて、なおさらキミと一緒に仕事がしたいと思ったけど……まあ、国の決まりとして試験を受ける必要があるんだから仕方ない。そんなしきたりがなければもっと楽でいいんだけどね」


 ベールド様がにこりと微笑む。

 純粋な期待を込めての笑顔なんだろう。

 悪い人ではなさそうかな? っと話していて思った。

 ちょっと怖い部分はあるけど。


「試験を受けて、正式に認められるように頑張る」

「うん、頑張ってね。それで、他に何か質問はあるかい?」

「大丈夫。あるとしても……宮廷精霊術師になってからの質問……かな?」


 どんな感じで仕事をしていくのか、とか。

 給料はどのくらいもらえるのか、とか。

 給料がたくさんもらえれば甘い物とか食べ放題できるかもしれない。


「それは良かった。それじゃあ、試験は来週だよ。合格したらすぐにまた会うことになるから、その日を楽しみにしているよ」

「分かった」

「ああ、そうだ。宿はこちらで借りておいてあるから……ファイラン、案内の方お願い」

「ええ、分かったわ。それじゃあルクス。向かいましょうか」


 ファイランがすっと礼をし、私も彼女に倣って頭を下げたあと宮廷を後にした。


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