第15話
次の日の朝。
村でのお別れを済ませた後、私はファイランと少数の騎士とともに村を出発した。
朝には、子どもたちだけではなく村の人たち全員が涙交じりにお見送りをしてくれるものだから、私も涙をこらえるのに苦しかった。
ティルガなんて、村を出発してからしばらくは涙を流しながら走っていたほどだ。
私は今、ファイランとともに王都目指して進んでいた。
おおよそ三日ほどが経過したところで、ようやく王都が見えてきた。
……久しぶりだ。相変わらずの活気。
たくさんの人たちに思わず圧倒される。
王都に着いたところで私たちはそれぞれの乗り物から降りた。ファイランが乗っていた馬はそのまま騎士が管理しているという厩舎へと引き渡された。
「それにしても……体のサイズを変えられるなんて便利な魔物ね。ただのウルフ、ではないのね」
街に入ったところで、ティルガには中型犬くらいのサイズになってもらっている。
それを見たファイランが不思議そうにティルガを見ている。
「うん。ティルガはそういう才能があるみたい」
「なるほど、ね。魔物っていうのも奥深いわよね。国でも熱心に研究している人たちがいるしね」
「そうなんだ。ティルガのことも狙われちゃう?」
「そうね。連れて行ったら解体させてくれ! って頼まれるかも」
ファイランの言葉にティルガがぶるりと震える。
「お金もらえる?」
「たんまりね」
「ルクス! ほ、本気か!?」
冗談冗談。私が口だけ動かしてティルガに返すと、じとーっとこちらを見てくる。
「まったく……ルクスの冗談は心臓に悪いぞ」
そんなことを話ながら、私はファイランとともに街を歩いていく。
街には目立つものがいくつかあるのだが、やはり一番は時計塔だろうか。
遠くからでも分かるその内部は、国立図書館として機能していたはずだ。
他にも細々とした有名なものはある。例えば、噴水広場などだ。また、歴代の英雄とも呼ばれるような人々の石像が並ぶ通り。
追放されてすぐに王都は散々にさまよっていたので、どれも良く覚えている。あまり良い記憶ばかりでもなかったけど。
とはいえ、私の事情を知らないファイランがすっとこちらに視線を向けてきた
「王都はどうかしら? 初めてなの?」
「昔、暮らしていた」
「そっか。それなら迷子になるということはないかしら?」
「一応ぼんやりと土地勘はある」
最悪、微精霊たちに問いかければ答えてくれるだろう。
それから私たちは貴族街を進んでいく。
少し気になったのは、リースト家だった。
今も、同じ場所に屋敷はあるのだろうか? そんな気持ちで視線を屋敷があるはずの方角へと向けた。
とはいえ、家が立ち並んでいるため、見ることは出来なかった。
そんな貴族街を進んだ奥……そこには大きな門があった。
ここから先が宮廷だ。
私の前を歩いていたファイランはその場でくるりと周り、私の方にお辞儀をしてきた。
「宮廷へようこそルクス。色々建物あるけど、まあそれは宮廷精霊術師になってから紹介するわね?」
「分かった」
「とりあえず、ちょっとついてきて。一応、宮廷精霊術師たちがいる建物には案内するわね」
「それも合格してからでいいんじゃないの?」
「そう思ったんだけど、師団長……まあ私の上司がどうしてもキミに一度会っておきたいって言ってね。本当は借りている宿に直行しようと思っていたんだけど、仕方なく、ね」
なるほど。
言い終えたファイランが宮廷内へと入り、私もその後を追いかける。
宮廷かぁ。
まさか、こんなところに自分が呼ばれるような立場になるとは思ってもいなかった。
宮廷内には様々な人がいた。
下女と思われる人々が宮廷内にはたくさんいる。
「どうしたの? 何か興味あるものでもある?」
きょろきょろと見ているとファイランがそう言ってきた。
色々気になるものはもちろんある。でも、その中でも一番は……
「意外と、北方よりの造りをしている」
そう。この宮廷は北方の和の造りが多く用いられていた。
木造建築を基本とした造りは、とても美しい。道行く人には着物を身に着けている人もいた。
「今の国王が北方と仲良くてね。和風のものが好きなのよ。そういう点では、この宮廷はあなたと相性がいいかもね」
「うん、私も好き」
今も右に左に様々な人たちが忙しなく歩いていた。
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