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第12話

 私はぐっと刀の柄を握りしめる。

 

 それに、宮廷精霊術師になればもしかしたらティーナ姉さんとも再会できるかもしれない。

 色々な考えが頭の中でぐるりとめぐる。

 考えを自分の中でかみ砕いた後、私はファイランを改めてみた。


「……宮廷での仕事、受けたい」

「本当!? それなら次の試験に参加できるように手配しておくわね!」

「うん、分かった。でも、もう一つお願いもある」

「なにかしら? なんでも聞くわよ?」

「今、私がいる村は戦える人がまったくいない。……領主から兵士が派遣されるはずなのに、一向に来ない。……それもどうにかできない?」


 どれだけ小さな村でも、領主が数名の兵士を置くのが普通だ。

 しかし、この村に関してはまったくいなかった。

 だから、村の人たちはお金を集めてギルドに依頼を出したというわけだ。


 村の人たち曰く、領主様がケチみたいなんだよね。


「……なるほど。領主の方は調べてみるわ。もちろん、解決するまでは宮廷から騎士団にかけあって配置について考えてみるわ」

「うん、ありがと」


 これなら、問題はなさそうだ。

 そんな話をしていると、村も見えてきた。


「ルクス先生、大丈夫ですか!?」

「ルクスちゃんっ! 良かった怪我はしてない!?」


 私が村に到着すると、村人たちがそんな風に出迎えてくれた。

 老若男女問わず、私の方にやってきて頭や体をぺたぺたと触ってくる。


「大丈夫だから」


 そう言っても、ぺたぺたともみくちゃにしてくる状況は変わらない。

 私が呆れてため息をついていると、苦笑交じりにファイランがこちらへとやってきた。

 さすがに皆も、ファイランの胸元にある宮廷精霊術師の証を見て気圧されたように後退する。

 良かった、助かった。


「村長。色々と聞きたいことがあるから、部屋を貸してもらってもいいかしら?」

「え、ええ……大丈夫です」


 村長が腰の低い姿勢で返答し、ファイランがにこりと微笑む。


「ありがと。それじゃあ、ルクスも一緒に来てちょうだい」

「分かった」


 ファイランと村長とともに、私たちは歩き出す。

 村長を先頭に、私とファイランは隣り合う形だ。

 ティルガは私を出迎えてくれた子たちとともに孤児院へと行った。


「村の人たちに随分と好かれているのね」

「おもちゃにされているんだと思う」


 私どちらかというと小柄だから、子どものように思われているのかもしれない。


「ふふ、でも確かに気持ちも分かるわね。うん、お肌ぺたぺた」


 ファイランがからかうように頬をつついてくる。

 私がじとーっと睨むと、ファイランが慌てた様子で両手を上げる。


「もう、そんなに怒らないで。人に好かれるのっていいことなんだからね?」


 ……好かれているというより遊ばれているだけじゃない?

 そうは思ったけど、村長宅が見えてきたので私は何も言わなかった。


 村長宅へと入り、村長の妻がお茶を用意してくれる。

 私たちは一つのテーブルを囲み、椅子に座る。


 村の置かれている状況についてファイランが村長へと確認していくと、ファイランの眉間がみるみる皺を刻んでいく。


「おかしいわね。この村は、レベリス卿の管轄なんだけど……なぜあの人はこの村に一切の騎士を配置していないのかしら?」

「……な、何度かお願いをしましたが……返答はありませんでした」

「無視というのはひどい話ね。精霊術師を置くのは無理でも、騎士の配置なら可能だと思うんだけど」


 精霊術師と騎士は、同じ立場のようで若干違う。

 あくまで私の感覚ではあるけど、精霊術師の方が強く、立場も上だと思っている。


 騎士は精霊魔法が使えない戦闘員で、精霊術師は精霊魔法が使える戦闘員だ。

 ただ、精霊魔法を使える人は少ないため、必然的に精霊術師の方が数は少ない。


 ファイランの騎士の配置なら可能だと思うというのは、そういう意味合いもあるんだと思う。


「レベリス卿は騎士を置かないとダメ、なんだよね?」


 私がファイランに問いかけると、こくりと返される。


「ええ、そうよ。レベリス卿の私兵でもいいし、それが無理なら国に騎士の要請も可能なのよ。どれだけ規模が小さい村であろうとも、最低三人の戦闘員を置くこと。それがゼロというのがそもそもおかしいのよねぇ」

「私も……それ以上のことは分かりませんね。今は、ルクスさんがほぼ厚意だけでいてくださっているので何とかなっていますが……ルクスさんがいなくなってしまったら、大変なことになってしまいます」


 村長が疲れた様子の声で口を開いた。


「優しいのね、あなた」

「そう? 困っている人がいたら助ける」

「それができるのだから、優しい人よ」


 優しい人、かあ。

 そう褒められて悪い気はしなかった。

 ファイランは私から村長へと視線を向ける。


「村長さん。騎士の配置については私から話しておくわね」

「あ、ありがとうございます」

「具体的にどのように対応するのかが決まるまでは、今日来ている騎士を残しておくわ」

「……はい。何から何までありがとうございます。ルクスさんのおかげです、ありがとうございます」


 そんな私は何もしていない。けれど、村長は神様でも仰ぐかのように私に頭を下げてくる。

 とにかく村長が嬉しそうにしていて良かった。

 しかし、反対にファイランはどこか考えるような表情だ。


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