転生者は必殺技が使えるらしい
「待ぁてぇ!! 必殺技を使えぇ!!」
俺は黒髪美少女に追われている。
普通なら、幸せと喜びに溢れた状況だけどさ。
問題は、俺に必殺技を使わせようとしてるってことなんだよなぁ……。
この世界にやってくる転生者は皆、“地獄豪火”だったり、”鎌鼬烈風“みたいな必殺技を持っている。
俺も転生者だから、もちろん必殺技を持っている。
その名も“治癒長寿“。
全人類の万病を癒し、長寿を授ける回復系の技。
これのどこが、とお思いだろうが、正真正銘、必殺技である。
なんたって、俺の命を差し出すことが発動条件だからな。
これは、俺を必殺する技ーーってワケ。
今、この世界では疫病が蔓延している。
ひどい目眩に発熱、酷くなると激しく吐血して、最後には死んでしまう、そんな病だ。
俺は必殺技を使う気なんてサラサラないのに、いろんな人に付け狙われた。
だけど、あの手この手で逃げ回る内に、いつの間にか、追いかけてくるのは彼女だけになっていた。
そんな彼女のことを、少し意識してしまう自分がいる。
我ながら馬鹿だなって、思う。
今日もいつも通り逃げ回るつもりだったんだ。
ーー彼女が大量の鮮血を吐き出すまでは。
動揺して、初めて彼女に近付いてしまった。
「は、やく、使って……! ゴホッゲホッ。時間が、ない!」
話しながらも、とめどなく血が吐き出されていく。
そうか……。
自分の病を治すために、俺の技を狙ってただけなのか……。
そう、だよな……。
「私が、し、んだら、技が、出せなく、なる!」
彼女は続けて言った。
「発動条件を、よく、よ、んで!」
【発動条件】
『発動者が命を差し出す』
よく見ると、発動条件には続きがあった。
『“治癒長寿“を2人同時に発動する』
……自分の命を捧げるために、ずっと、俺を追ってたっていうのかよ。
「ーーお願い」
彼女が真っ直ぐに、強い意志を抱いた瞳で俺を見つめる。
ああ、わかった……。
俺は、この瞳に惚れたんだ。
俺たちは静かに必殺技を発動した。
純白の光が世界を包む。
俺は輝く世界になんて目もくれず、唯ひたすらに、離れゆく彼女に手を伸ばしていた。
次に転生する時は、一緒に、生きたい。
目を覚ますとそこは見知らぬ世界だった。
また、転生したのか。
ーー隣に彼女の姿はない。
ふと、スキルが与えられていることに気付いた。
『コンパス
探し求めるものの在処を指し示す』
きっと俺は今、イタズラを思いついた悪ガキみたいな顔をしてるに違いない。
さて、今度は俺が彼女を追いかける番だ。