第10話 魔王、トレンドに流される。
我輩は魔王である。名はトラ吉。
魔王たるもの情報には敏感でなくてはならない。
魔界でもそれは同じこと。
力だけで戦に勝利しようなど愚者の行いよ。
情報と我輩の知恵があれば国をひとつ落とすことなど造作もないことだ。
そして情報は鮮度が命である。
情報とは常に追いかけなければすぐに廃れてしまうのだ。
しかし、どんな情報も追いかければ良いというものでもない。
情報とは恐ろしいものでそれ自体も武器になるのだ。
つまり、偽りの情報を意図的に流し群衆の意識を操作することも可能である。
情報とは己が判断によりその真偽を見極めなければならんのだ。
「ちゃーちゃん、新しいおもちゃ買ってきたよー」
「お、これ最近よく見るやつじゃん。流行ってるのかな？」
「いろんなお店で売ってるから流行ってるんじゃない？ ちゃーちゃんもトレンドに乗っちゃう〜？」
ふん、流行りだと？
情報の真偽も見極めず流行りに惑わされるなど愚行極まりない。
我輩がそのようなものに惑わされるなどあるわけなかろうに。
『シュ！』
『……』
『シュシュ！』
『……』
『シュシュシュ！』
『ガシ！』
「あははっ！ ちゃーちゃん、もうお目々まんまるだよぉ！」
「そうとう気に入ったみたいだねー」
なにっ！
どうしたと言うのだ、こんな猫騙しに我輩が惑わされるはずが！
『シュ！』
『ガシ！』
なぜだ！
なぜ、黒目が大きくなってしまう！？
なぜ、前足が動いてしまう！？
なぜ、尻を振ってしまう！？
そうか！
これは魔道具であるな！？
卑怯だぞ主人①②よ、大金をはたいて魔道具を買うなど何を企んでおるのだ？
「こんなめっちゃ安いおもちゃで喜んでくれて嬉しいよ〜」
な、なんだと！？
それでは我輩がただ流行りに流されている愚者と同じではないか。
主人①②よ覚えておれよ！
そう、その時が来るまでは。
写真：トレンドに流されるトラ吉
