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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
始まりは夏
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捌葉 ‡ 色葉の異世界

二人目の魔法使い登場

「今日はごちそうさまでした。」

「何言ってるの。お料理作ってくれたのは色葉ちゃんじゃない。また遊びに来てよね。今度は私の手料理、ご馳走するから。色葉ちゃん、一人じゃ来てくれそうにないから、鍋島さんも待ってるわね。」

 ハッキリ言うなぁ。僕はついでか。

「それでは、失礼します。」

 僕と色葉は頭を下げてから北条さんの家を出た。

「なんか緊張しました。美味しく出来て良かったです。でも… 直も本当は、手料理の方がいいのでしょうか? 」

「そうだな。興味はあるけど無理はしないでいいから。」

「いつか… いつか、きっと、あたしの手料理、頑張って御馳走します。待っててくださいね。」

「もちろん。」

 まだ、時々言葉遣いが丁寧になる。癖が抜けないというより、普段、頑張って普通に話そうとしているんだろうな。だから、色葉が慣れるまで、そっとしておこうと思う。エレベーターを降りてエントランスを出ると、突然、色葉が身構えた。目の前には派手な柄のパーカーを着た少年が立っていた。

「どうした? 」

「この子… 魔法使いです。」

「え!? 」

 突然の事に自分の耳を疑った。色葉が居るのだから、他にも魔法使いが居る可能性はある。けれど、色葉は明らかに怯えている。反射的に僕は色葉の前に出た。

「魔法も使えない劣等種が、その娘を守ろうと云うの? おかしな種族だね。その娘は、こちらの手違いで、この薄汚れた世界に送ってしまったんだ。黙って渡してくれれば、何もしないよ。こんな世界に興味は無いからね。そうだな、3日あげるよ。荷物をまとめて別れを惜しんでおいで。優しいだろ? じゃ、またね。」

 言うだけ言って少年は姿を消した。途端に色葉は座り込んで震えていた。

「大丈夫。僕が必ず守るから。」

 僕は抱き抱えるようにして色葉を連れて帰った。その日、色葉は急須の中に引きこもってしまった。

「僕が必ず守るから。」

 急須に向かって声をかけると返事が返ってきた。

「どうやってですか? あんな魔力、初めてです。あたしの魔力より断然、強いです。あたしが行けば何もしないって… 行かなかったら何をするか分かりません。」

 確かに守ると言っても、方法なんて浮かばない。返す言葉が浮かばなかった。翌朝、いつもどおり、味噌汁の匂いで目を覚ました。いつもと違うのは、用意された朝食は一人分で色葉の姿が無かった事だ。代わりにテーブルの上にはメモが置かれていた。

『あと2日。ちゃんと朝食のご用意はいたします。色葉』

 あと2日と云う言葉に色葉の覚悟を感じた。朝食を済ませると僕は、色葉の居る急須を緩衝材で包んで鞄に詰め、外へ出た。予想はしていたが、昨日の少年が居た。

「約束どおり、あと2日は待つけど、逃げても無駄だからね。」

 これも予想どおりの台詞だ。それを無視して駅へ向かう。後ろでつまらなそうに舌打ちしているのが聞こえたが、知った事ではない。上野に出ると新幹線に乗り換えた。何事も無ければ、色葉と動物園や美術館にも来たかった。そんな事を言っている場合ではないが、守れたら、きっと来よう。いや、守るんだ。色葉にとっては、この世界の方が異世界だ。奴と行けば元の世界に帰れるのかもしれない。帰したくないのは僕のエゴかもしれない。それでも、あんなに怯えていた色葉を渡しちゃいけない。渡せない。僕はそんな思いを頭の中をグルグルさせながら日光へと向かっていた。魔法使いを相手にするのに当てなんか無い。思いついた事を片っ端からやる。で、目的はO.E.D.O.ならぬお江戸を開府した始祖、東照大権現、徳川家康公を祀る東照宮だ。魔法世界と無縁だと思っていても最初に思いついたのが此処だった。駅を出て少し歩くと石鳥居をくぐり、表門を抜けた所で声が聞こえた。

『よくぞ参った。早う奥へ参れ。』

 聞こえたというより、頭の中に響いた感じだ。ともかく拝殿に向かって陽明門に入った。門とはいうが奥行きは4m以上ある。一歩、足を踏み入れた瞬間、辺りが真っ白になった。気がつくと急須を入れた荷物が無い。慌てて周囲を探していると、再び声がした。

『慌てずとも良い。門を抜けたら荷物は返す。あの娘には内密な話しがあっての。』

「何方ですか? 」

『聖位大将軍とだけ言っておこう。』

「征夷大将軍? 」

『文字どおり、聖なる位の大将軍。つまりは魔法使いの長たる存在である。』

 あぁ、聖位か。音だけ聞いていると紛らわしくていけない。

「で、その将軍様が色葉に内密で話しってなんですか? 」

『そちは、あの娘を守りたいのであろう? 』

「助けてくださるんですか? 」

 思わず前のめりになりそうな自分を抑えて、努めて冷静に話してみる。この将軍が本物かも、本当に色葉を返してくれるかも、未知数なのだ。信用出来るか、見極める必要がある。

『あの娘を守るのは、そち自身じゃ。そのすべは与えてやろう。その代わりじゃ。』

「将軍様が取り引きですか? 」

『余が参って、そちらの世を滅ぼしても拙かろう? 』

 確かに、そのとおりだが、これでは取り引きではなく脅しに近い。しかし、色葉が守れるなら乗るしかなかった。

「それで、条件は? 」

『彼の者、益田四郎の捕縛に力添え願いたい。』

「益田? 」

『そちに、あの娘を渡せと申した者の事じゃ。』

 そういえば、あいつの名前を聞いていなかった。

『益田は南蛮渡来の破天連魔法を用いて倒幕を企んでおる罪悪人じゃ。』

 多分、この世界の南蛮や伴天連とは意味が違うのだろうという推測は立つ。似て非なるだけに、ややこしい。

「それで、その益田はなんで色葉を渡せと? 」

『調べによると違法なる転移魔法に失敗したらしい。野に居た毒蛇を余の寝所に送ろうとして… 』

「的を外して色葉に当て、空間転移の筈が時空転移を起こした。で、転移魔法は完成したが前の失敗で幕府に発覚。証拠隠滅の為に色葉を渡せと言ってきた… でいいのかな? 」

『お、おぅ。そのとおりじゃ。そちも魔法使いか? 』

 こんなものは、ライトノベルやアニメを見ていれば簡単に推測出来そうなものだ。O.E.D.O.にそんなものが在るとも思えないが。

「状況は分かった。条件は飲む。だが、どうやって捕縛する? 色葉に席を外させた理由は? 」

『そちは被害を広めぬ為に、奴の前に娘を連れて行き、ひたすら自分の一番大切な者を守り抜け。余の配下の者を上野東照宮に待たせておる。捕縛はその者に任せよ。』

 助かった。直接、戦えと言われたら何をどうすればいいのか、手立てが無い。

『あの娘を外したのは、感情が顔に出過ぎる。」

 つまり、色葉を益田を捕らえる囮にしようと云う事か。

「もし、色葉が寝所に転移されてたらどうした? 」

『それは勿論、側室に迎えて… 』

「もう、いい。色葉を守る術って云うのは? 」

『そなたの懐に在りじゃ。』

 エロ爺め。聞いた僕が馬鹿だった。陽明門を抜けると元の世界に戻った。将軍の言うとおり、荷物も戻っていた。あの聖位大将軍と、この征夷大将軍が別なのは分かっている。それでも、上手くいく事を祈って帰路についた。

日常だけだと間持ちしない(汗)

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