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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
始まりは夏
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肆葉 ‡ 色葉の意

友人カップルは不釣り合い?

 僕は色葉を抱き寄せると頬を併せた。

「今度から、出掛ける時は一緒に決めよう。」

「あたし、東京の事、何も分かりませんよ? 」

「山とか海とか動物園とか、大まかでいい。そしたら僕が考えるから。」

「… 分かりました。でも、時々は思いがけない所に連れて行ってくださると嬉しいです。」

 これは、たまにはサプライズが欲しいって事か。和装小物とかも喜んでくれるかな?

「それから、外で魔法は使わない事。今日みたいに写真撮られそうになると拙いから。」

「それは大丈夫です。昼間の女の子たちも言ってましたでしょ。写ってないって。あたし、この世界の人間じゃないから写真機とか写らないんです。何度かトヨさんも挑戦してくださったんですが、駄目でした。」

 一緒に記念撮影したり、待ち受けにしたり出来ないのか。残念。

「あと、外では直って呼んでもらえるかな? 」

 と言った途端に色葉が飛び退いた。

「むむむむむ無理です。ご主人様をお名前で、それも愛称とか絶対無理ですっ! 」

「どうして? お婆ちゃんの事はトヨさんって呼んでいるのに? 」

「トヨさんは、先代なので。今のご主人様はご主人様だけです。」

「でも、今日みたいに知らない男から声、掛けられても困るだろ? 」

「そ、それは… 」

 困った顔も、やっぱり可愛い。

「でないと、毎晩腕枕の刑だ。」

 冗談のつもりだったが、色葉は凄く狼狽した。

「ず、狡いです。嬉しいけど… あ、いや、あの、その… 急須の中で練習してきますっ! 」

 この日、一晩中、急須からは『直、直』と聞こえてきた。知らない人が聞いたら、ちょっとした怪談である。翌朝も味噌汁の匂いで目が覚めた。すっかり日常になった。別に無理矢理起こされている訳でもないので気持ちよく起きられる。ただ、いつもと違っていたのは、色葉が眠そうにしていた事だ。

「ゴメン、また無理させちゃったね。」

 なんか、色葉に謝ってばかりな気がする。その度に色葉が恐縮するのも分かっているけど。

「い、いえ。こちらこそ。煩くはありませんでしたか? おやすみのお邪魔をしてしまったのではないかと気掛かりで。」

「大丈夫だよ。それより練習の成果は? 」

 すると色葉は俯いてしまった。

「それが、そのぉ… お顔を見なければ何とか呼べそうなのですが… 。」

 一度、顔を上げて目が合うと、顔を赤くして、また俯いてしまった。

「やっぱり無理です。お顔を見ながらは恥ずかしゅうございます。」

 僕は思わず色葉の頭を軽くポンポンと叩いた。

「無理はしなくていいよ。悪い虫がつかないおまじないみたいなものだから。」

 色葉に愛称で呼ばせる事で、色葉がフリーではないと示したい僕の我が儘なのだろう。一種の独占顕示欲と言っていいかもしれない。彼氏のいる女の子でも、構わず狙う輩もいるらしいから、おまじないの効果は分からないが。そんな最中さなかにスマホが鳴った。コミュニケーションアプリの通知音だ。大友? 高校卒業して以来だ。珍しいな。

『Wデートしようぜ』

 … 久しぶりなのに、前置きなしに用件か。あいつらしい。

『いつ? 』

『今日』

『どこで? 』

『鎌倉案内してくれ』

 僕は誰にも彼女がいるなんて話しをした事はない。鎌倉だって何度か行った事はあるが、それほど詳しくもない。時間もないので色葉に簡単に事情を話した。

「つ、つまり、あたしにご主人様の女を演じろと!? 」

 別に演技じゃなくても構わないんだが、そんな事を言ったら、また色葉を困らせるかもしれない。

「あたしに務まるでしょうか? 」

「大丈夫。いつもどおり、僕に寄り添っていてくれれば。」

 言葉どおり、色葉が側に居てくれれば僕は充分だ。

「承知いたしました。精一杯、ご主人様の女を務めさせていただきます。」

 僕の女… なんか、しっくりこないが、彼氏彼女なんてのは明治以降に出来た言葉だ。もしかすると色葉の暮らしていたO.E.D.O.にも無い言葉なのかもしれない。待ち合わせした鎌倉駅に向かいながら、大友に事情をアプリで尋ねた。どうやら大友は初デートらしい。で、いきなり一対一だと間持ちしない自信しかなかったようだ。彼女に気を使わせ過ぎて気拙くなるのも避けたいと思った結果、思いついたのがダブルデートという事らしい。平日なので進学組の中で、取り敢えず仲の良かった奴にメッセージを送って返ってきたのが僕だけだったそうだ。先に着いた僕たちは東口に出た。大友にも、その旨通知した。この辺りは神社仏閣が多いが、有名な八幡様の方だから、間違わないだろう。

「緊張してる? 」

 握っている色葉の手が少し震えていた。

「少し。ご主… 直のご友人にお会いするのは、初めてですから。」

 俯いたままなら、何とか直と呼べるようになったらしい。それでも直と言った瞬間、気持ち強めに手を握られた気がする。やがて大友と、その彼女の北条さんがやって来た。江ノ島も近いので、シラス丼と大友が言い出したが、この日は不漁だったらしく食べ損ねた。仕方なく近くの店で昼を済ませ、有名なサブレの店に寄ってから八幡宮へとやって来た。

「色葉ちゃん、ちょっと一緒に来て。はい、男連中はそこで待機っ! 」

 そう言うと北条さんは色葉を連れて右手の方に行ってしまった。ちょっと心配だが、北条さんは大友の100倍はしっかりしていそうな気がする。

「はい、ここ。」

 北条さんの指し示した弁財天の裏の柵の中に石が二つ並んでいた。

「政子石? 」

 色葉が石の脇の木札に書かれた文字を読み上げた。

「そっ。私の名字が北条だから、ネタみたいで子供の頃から避けてたんだけとね。」

「子供の? 」

大友あいつは知らないけど、私、鎌倉の生まれなの。」

「え゛~っ!? 」

「そんな事より、お祈り。色葉ちゃんの恋が成就しますようにっ! 」

「えっ・・・」

「あのバカが何も知らないで、ダブルデートお願いしちゃたんでしょ? ゴメンね。私が見たところ、お互い好き合ってるから、あとは勇気を出せば大丈夫。」

「えと、あの、本当は、まだ、お逢いしてから一週間も経っていなくて、その… 」

「時間なんて関係ない。何年もかかる恋もあれば、一瞬で落ちる恋もある。ここに来るまで、あの大友バカが空気も読まずに喋りまくってたけど、鍋島さん(かれ)ったら色葉ちゃんの事しか見てないんだもん。好きです光線駄々漏れって感じ。色葉ちゃんは、奥ゆかしくお慕い申しておりますって感じで、なんか応援したくなっちゃった。私たちは、ここから別行動するから、あとは色葉ちゃん、頑張って。」

 北条さんは戻って来るなり大友の片耳を摘まんで引っ張った。

「それじゃ、ここからは、お互い二人っきりって事で。色葉ちゃん、またね。」

「ほ、北条さん、いきなり何!? 」

「あんたは黙って付いてらっしゃいっ! 」

 僕は呆然と二人を見送った。

作者の土地勘の無さ

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