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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
もう一度
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卅漆葉 ‡ それから

 バチィーンッ‼️

 僕は痛烈な頬の痛みと共に目を覚ました。どうせなら、色葉の作る味噌汁の香りが良かったなどと思いながら、起き上がろうとしたが体が動かない。

「これ。相手は怪我人だぞ。」

 これは、小石川の小川先生の声だ。

「これで目ぇ覚ましたら見っけもんなんだがな。」

 今のは狩野先生の声だな。

「いいの。前以てこいつには義兄上だろうが、上様御声掛だろうが、異世守いよのかみだろうが、お姉ちゃん泣かせたら、ぶん殴りに行くから覚悟しとくよう言ってあるんだからっ! 」

 筝葉の声だ。有言実行にしても時と場合を考えて欲しかったな。それにしても色葉の声がしないな。いつもなら僕の側に居る筈なのに。

 クシュンッ!

 何やら可愛いくしゃみが聞こえてきた。

「もう、お姉ちゃんったら、この季節に水垢離なんてするから。」

「だって、御百度踏んだだけじゃ心配で… クシュンッ。」

 やっと色葉の声がしたと思ったら御百度に水垢離だって? 風邪引いたのか… って、僕の所為か。あれから何日経ったんだろう?

「しかし、目を覚まさんな。」

 いや起きてる。意識はある。今どきの医療設備なら脳波とかで覚醒状態とか認識してくれそうなんだが。筝葉に叩かれて痛みを感じたって事は意識が体から離脱している訳じゃない筈だ。

「キスでもしたら起きるんじゃない? 」

 うっ… これは北条さん。何を言い出すんだ。

「キス? 魚? 」

 そりゃ色葉の世界には、無い言葉だろう。

「あぁ、鱚じゃなくて… 口づけ。接吻。」

「ひぇ!? ひゃ!? ふぁ!? 」

 ほらぁ。色葉の声がひっくり返っちゃった。

「もう夫婦めおとなんだから。」

「こ、こ、こちらの世界では、ま、まだ祝言も挙げてませんし。それに風邪を移してもいけませんから。」

 っていうか、人前でさせようとするな。いくら北条さんでも、それはダメだろ。と思ったのも束の間。扉の開く音、小川先生の呻き声、色葉の小さな悲鳴の順に聞こえてきて、僕の口に柔らかい口唇が重なった。僕は脊髄反射のように色葉を抱き止めた。目が開く前でも、この匂いは色葉だとわかる。

「大友、よくやった。」

 目を開けると扉の所に大友がポカンとして立っていた。

「何か珍しく北条さんに誉められた? そんな事より鍋島、お袋さん連れてきたぞ。」

 そりゃ息子が倒れたとなれば、見舞いぐらい来るか。慌てて離れようとした色葉の肩を僕は抱き寄せた。この際だ。母さんには紹介してしまおう。

「あら、色葉さん… よね? 」

「え、あ、はい。」

 母さんに名前を呼ばれて、色葉も慌てた。

「なんで母さんが色葉を知ってるんだ? 」

「そりゃ、ずっとお義母さんの世話やいてくれてたもの。… それより、貴方たち… いつから、そんな関係? 」

「え、あぁ… お婆ちゃんの法事の後くらい… かな。」

 僕は素直に答えていた。色葉は隠れていたつもりらしいが、どうやら母さんにはバレていたようだ。

「ふっ、ふ、不束者ですが、宜しく御願い致します。」

 明らかに色葉はテンパっていた。

「え!? あぁ、そういう事? こんな息子だけど、末永く宜しくね。」

「いいの? 」

 母さんの反応に、些か驚いた。

「まさか私、お婆ちゃんになるんじゃないでしょうね? 」

「ないない。それはない。ただ、あっさり受け入れるから。」

 落ち着きのない色葉の頭を僕はぽんぽんと撫でた。

「受け入れるも、受け入れないも、好きあってるんなら親が口出すもんでもないでしょ? 女子力高そうだし、いい娘さんっぽいし、お義母さんのお墨付きみたいなもんだし、色葉さんには何の問題もないでしょ。それよりは、あんたよ。就活は順調なの? 」

 実のところ、就活は世間のウィルス騒ぎやO.E.D.O.の件で進んでいない。

「お母様。その点については、ご安心ください。直人さんには北条グループと佐野茶房がついていますから。」

「あ、どこかで見たことあると思ったらネットニュースで見たんだわ。北条グループの総帥北条美雲さんと佐野茶房の社長兼会長兼CEO佐野常世さんっ。あんた、いつの間に、こんなセレブと知り合いになったのよ? こりゃ、父さんも安心だわ。まぁ、元気そうで良かった。無事な顔見たら安心したわ。また来るから。」

「母さん、もう行くの? 」

「母さんだって暇じゃないのよ。」

「大友、送って差し上げて。」

 なんか慌ただしく帰って行ったな。まぁ、無事の確認が出来たんだから長居する必要もないか。

「でも、北条さん。あんな事、言って良かったんですか? 」

「私が色葉ちゃんを路頭に迷わす訳ないでしょ。それに、これが一番、異世守としての職務を全うできるでしょ? 」

 そういえば… 色葉を守る為に聖位大将軍から貰った懐鏡。今まで、どんな魔法も跳ね返してきてくれた、あの懐鏡が今はない。あれこそが僕が異世守でいられる証でもあった筈だ。

「そうだ。忠相からの伝言だ。動けるようになったら日光まで来て欲しいそうだ。」

 日光ということは将軍からの呼び出しだろう。あの鏡がなければ僕は普通の人間だ。魔法が使えないのだから向こうの世界では普通以下の存在と云うことになる。御役御免を覚悟して僕は日光に行く事にした。

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