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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
O.E.D.O.
33/38

卅参葉 ‡ 祝言

「えぇぃ、控えおろう。こちらに御座すを何方と心得る? 上様御声掛、鍋島異世守(いよのかみ)直人殿にあらせられるぞ。頭が高いっ! 」

 をいをいをい。ちょっと待て。なんだ、その異世守っていうのは? 僕は思わず奉行の袖を引いて皆から離れた。

「何、勝手に人を役人に仕立ててんだ? 」

「なぁに、便宜的なもんだ。お前ぇさんには迷惑は掛けねぇよ。」

 もう、町は大騒ぎだ。僕の世界でなら、僕と色葉の結婚というだけだが、こっちの世界では、町娘が異世守の正室になるって事になっている。O.E.D.O.開府以来、初の出来事らしい。こうなってくると、僕と色葉だけの話しではなくなってしまう。

「直、どうしよう? 」

 色葉が不安そうに寄ってきた。僕も、こんな大事になるとは思っていなかった。

「心配しなくても大丈夫だよ。」

 僕も自分で言っていて何が大丈夫なのか、よく分からないが、色葉を安心させたかった。

「あたし、直がお嫁さんにしてくれるだけで幸せだったのに… 。」

「はいはい。二人で惚気てるところ悪いんだけど、主役がいないと結納の儀が進まないでしょ? 済んだら、今日は鍋島さんはE.D.O.屋敷にお泊まりよ。」

「屋敷? 」

「旧、椿野藩上屋敷。椿野藩は源三郎が永蟄居、四十郎が隠居する事で劣り潰しは免れたけど、あのE.D.O.屋敷は手離して小さな屋敷に転居。それがO.E.D.O.の二人の愛の巣って訳。」

 待てよ… 。そう言えば、奉行が将軍に知らせを入れたのは風魔一族だって言ってたな。

「北条さん、仕組みましたね? 」

「あら、何の事かなぁ? 私は色葉ちゃんの幸せな顔が見られればいいの。」

「あの… 。」

 何か言おうとした色葉を北条さんが止めた。

「皆まで言わない。鍋島さんが幸せでないとって言うんでしょ? 大丈夫。こんなに可愛い奥さん貰えるんだもん、幸せよね? 」

「それは、もちろん。」

 そうとしか答えようがない。

「本当に? 」

 色葉が不安そうに僕の顔を覗き込んできた。

「本当だよ。」

「はいはい。色葉ちゃんが、そんなキラキラした瞳で見つめる相手が私じゃないのが悔しいから帰るわね。」

「え!? 祝言には出てくださらないんですか? 」

「どうせ、向こうでも結婚式するでしょ? 色葉ちゃんの花嫁姿は、それまで楽しみにしているわ。じゃ、帰るのに関白待たせてるから。」

 やっぱり、あの人はよく分からない。なにやら色葉の御両親がバタバタしている。

「父さん、どうしたの? 」

「どうしたも、こうしたもあるめ…いって、鍋島様。少々。もう少々。ほんの少々、お待ち頂けますでしょうか。」

 この手の少々は大概、少々では済まない事が多い。

「あぁ、居た居た。二人とも。急に結納なんて言い出すから、父さんたち、舞い上がっちゃって。こっちからの結納品なんか何も用意してないからてんてこ舞いよ。」

 そうか。結納なんてした事がないが、双方で用意するのか。そもそも、僕たちの世界では格式など問題にしないし、そもそも庶民同士だから問題にもならないが、こちらの世界では将軍家所縁の扱いの僕に町民の色葉が嫁ぐというのは通常、あり得ないんだよな。

「武家と町民の結納など前例が無いのだ。慌てずともよい。鍋島殿とて、色葉殿の身、一つでよいそうだ。」

 実際、奉行の言うとおりだ。僕は色葉の御両親に頷いて見せた。

「でも、どうして、こんな急に… 。」

「鍋島殿には異世守としてのお役目があってだな。日取りが難しいのだ。」

 色葉のお父さんの質問に、何故か奉行が答えた。そもそも、お役目ってなんだ? 嫌な予感しか、しないのだが。そして式当日、嫌な予感が現実のものとなった。式は鍋島家E.D.O.上屋敷にて行われ、色葉は奉行の用意した籠で一人でやって来た。筝葉や、御両親が来ない理由は簡単だ。僕の縁者席には将軍と北町奉行。色葉の縁者席には関白と南町奉行が座している。こんな席に町民を入れる訳にはいかないだろう。

「なぁ、もう少し何とか、ならなかったのか? 」

 僕は将軍に詰め寄った。披露宴は幕府持ちで色葉の家族や世話になった人たちを招けるようだが、式にせめて御両親くらい呼べなかったものか。

「仕方なかろう。お主が派手に揉め事を片付けたお陰で、御落胤ではないかと疑う者もおる。まぁ、お主が純粋に、その嫁殿を守ろうとする男で良かった。悪事に用いられればO.E.D.O.幕府が転覆しかねない。まぁ、余に見る目があったという事じゃな。」

 よく言う。偶然が重なっただけじゃないか。そもそも、何故、関白が居る? 北条さんならともかく、僕はそんなに親しい訳じゃない。

「祝言、披露宴が終わったら、一つ頼まれてはくれぬか? 」

 きたきた。そんな事だろうと思った。急に真顔な幕府お歴々の面々に、色葉は不安そうでしかない。とはいえ、乗りかかった船、色葉を守る力を貰ったのは事実だ。新婚だからといって断るわけにもいかないだろう。

「で、今度はどんな事件なんだ? 」

「この善き日にすまぬな。お主と会うのに向こうの世界より融通が利かのうて。今、O.E.D.O.幕府の転覆を画策する者がおる。」

 どうして、この治世は平穏にならないんだ?

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