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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
O.E.D.O.
29/38

廿玖葉 ‡ 依頼

「奉行に取り次いで貰えるか? 」

「何奴だ? 怪しい奴めっ! 」

 やはりミッチーに頼むべきだったか。けど、あの足で色葉たちの所に戻るのは得策とは思えなかった。

「筆頭与力、竜紋様の使いで鍋島が来たと伝えてくれ。」

「竜紋様の? ちょっと待っておれ。」

 さすが縦社会。無名の僕より竜紋の名前の方が効果的か。暫くすると奉行が自ら出てきた。

「これは、これは鍋島殿。お前たち、失礼は無かったろうな? 」

「御奉行、こいつ… このお方は? 」

「止ん事なきお方だ。ささ、奥へ参られよ。」

 呆然としている門番を尻目に僕は奥へと案内された。

「話しは聞いてるよ。お前さん、黒縄組と白薙組の喧嘩に首突っ込んだんだって? 」

 それを知っているなら話しは早い。

「相手が元旗本の息子と旗本の息子で苦労してると聞いた。この一件、僕に預からせて貰えないか? 」

 暫く奉行は考え込んでしまった。僕からすれば、任せてくれるか、くれないか。yes、noの二者択一だと思っていたのだが、そう単純でもないらしい。

「確かに奉行って職に居ると、同じ旗本といえど… いや、同じ旗本だからこそ裁けない事もある。お前さんに頼みたいのはやまやまだ。上様御声掛、こいつは御三卿に優り、その能力ちからは御三家に勝る。だがな、この世界の人間じゃねぇお前さんに頼っちまっていいもんか、俺らにも分からねぇんだ。」

「天下万民の為なら老中とでも喧嘩するような男が何を迷う? 」

 言ってから、しまったと思った。それは僕らの世界の歴史に過ぎない。だが、僕の杞憂に過ぎなかったようだ。

「不思議なお人だな。向こうの世界のお人でありながら、こっちの世界の事をよく御存知だ。お前ぇさんが、そう言ってくれるんなら細かい事は言わねぇ。このO.E.D.O.の為に一肌脱いでくれねぇか? 」

「水臭いな。一肌どころか諸肌脱いで、やらせて貰う。ただ… 」

「皆まで言うな。あの嬢ちゃんと、その家族はこの遠山が責任を持ってお守り致そう。」

 僕は頷くと奉行所を後にした。

「見つけたぞ、小僧っ! 」

 見つけたと言っているが、どちらかと云えば待ち伏せていたのだろう。さっき先生と呼ばれていた男だ。

「懲りない奴だな。僕に勝てないのは分かっただろ? 」

 圧倒的な力の差は抑止力になる場合もあるが反発も生み易い。どうやら彼は後者のようだ。

「さっきは油断しただけだ。魔力を隠してやがるとは迂闊だったぜ。」

 別に僕は隠してなんか、いないんだがな。そもそも隠すような魔力は持っていないのだから。

「鍋島殿、危な… 」

 聞き覚えのある声だと思ったらリッキーか。側に例の元旗本の嫡男って男が倒れていた。

「助かったよ、リッ… 虎紋。」

「いえ。つい、お声を掛けてしまいましたが、余計なお世話でしたな。」

「お、おのれ… 。貴様、後ろに目でもあるのかっ。」

 あぁ、先生という男が囮で、後ろから僕を狙ったのか。あいにくと懐鏡の効果は全方向に発揮される。後ろどころか上空や地面の中から狙ったとしても僕には届かない。

「虎紋、こいつを取り押さえられるか? 」

 おそらく、全力で撃ってきたのだろう。話てはいるが体が動いていない。逃げようとした先生と云う男と目を合わせると、諦めたように男も座り込んだ。どうやら、僕に攻撃方法が無い事はバレていないようだ。

「はっ。」

 リッキーはあっさりと男二人をお縄にした。

「お奉行より、鍋島殿から何か指示あらば従うよう、仰せつかっておりまする。この件については上様のお許しも得ておられるとの事です。」

 さすが、御目見おめみえだ。将軍に話しをつけたのか。とはいえ、同心に元とはいえ旗本の嫡男は魔力差があったのだろう。それでも僕に向けて全力で魔法を放ってしまっては後が続かない。相手が僕でなければ先生とやらが守って逃げる算段だったのかもしれない。取り敢えず元旗本の嫡男と云えど浪々の身なら町方が押さえても問題無いだろう。たとえ関係縁者の武家が騒ぐとしても時間は稼いだ筈だ。今のうちに現役旗本の屋敷に乗り込んだ方がいいだろう。問題は江戸屋敷にどうやって潜り込むかだ。

「そこの兄さん、何かお困りかい? 」

 知らない男が声を掛けてきた。

「何者だ? 」

 男からは敵意といったものは感じられない。だが、隠しているだけかもしれない。用心するに越した事は無い。

「あっしは夜汰ってケチな遊び人でさぁ。」

 遊び人というにはこの男、チャラチャラもダラダラもしていない。

「遊び人が足音も立てずに近付いて来るのは不自然じゃないか? 」

「いいねぇ。その警戒心。誰にも気を許さないのは信用置けないが、誰彼構わず信用する奴は、長生きしねぇ。特に… 聖位大将軍御声掛なんて立場じゃな、鍋島 直人 殿。」

 これは警戒しない訳にはいかないだろう。僕の素性を知っている。別の世界の人間だという事もだ。間者、隠密、忍び… お婆ちゃんと見た時代劇で聞いた言葉が頭を駆け巡る。御庭番なら将軍の手の者か? いや、御庭番なんてのは若年寄の管轄だろ? 史学と時代劇が頭の中で交錯していると意外な言葉が返ってきた。

「風間 夜汰朧。後北条家御抱え風魔一族の末裔だ。」

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