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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
重なるは時間
26/38

廿陸葉 ‡ 捕縛

「貴様… ただの町医者ではないな? 」

「ただの町医者だよ、今はな。」

 狩野先生の気迫に僕も圧された。

「兄ちゃん、ここで蘆塚を取っ捕まえるぜっ! 」

「はいっ! 」

 思わず返事をしてしまったが、僕に出来る事といえば、相手の魔法を跳ね返すだけである。つまり、極端な専守防衛であって先手必勝は不可能なのだ。それでも、さっきの状況で蘆塚と狩野先生の魔力が互角だとすれば、防御を僕が引き受ける事で勝機は大いに膨らむ。その事は蘆塚だって気づいている筈だ。ただ、心配なのは蘆塚が陽動である可能性だ。その場合、色葉にミッチーとリッキーを加えても天草を止められるのか。北条さんは僕が離れていては、普通の人だ。そう考えると蘆塚に時間を掛けている暇は無い。

「くっ。今日の処は退いてやる。」

 だが、後退ろうとした瞬間に蘆塚は後ろから蹴倒された。

「そこは魔法じゃないんだ? 」

 僕が言葉を投げ掛けた相手は北町奉行だ。

「おのれ、背後から襲うとは卑怯なっ! 」

 うん、それは奉行として、どうなのかと僕も思った。

「おいらの魔法で風穴開けられなかっただけ、有難いと思いやがれ。悪人に掛ける情けは無ぇっ! 」

「悪人? 我々を排除しようとする貴様らこそ、悪人なのだ。」

「自分たちの目的の為に手段を選ばず、罪もない人々を巻き込むような輩に悪人呼ばわりされる覚えは無ぇよ。沙汰があるまで入牢申しつける。」

 そして奉行の起こした桜吹雪が蘆塚を巻き上げていった。

「奉行も来るのか? 」

 残るは天草の捕縛だ。

「いや、あっちは南町が向かってる筈だ。裁きは的確だし悪い奴じゃねぇんだが、堅苦しくて俺らとは反りが合わねぇ。遠慮しとくよ。O.E.D.O.も島原の騒ぎで治安も緩んでるんでな。じゃ、またな。」

 そういえば忠相には桜吹雪のような魔法はあるのだろうか? ともかく色葉の元に駆けつけるのが先だ。さっきの蘆塚が陽動ではないという保証は無い。

「なるほど。将軍御声掛ってのは伊達じゃねぇようだな。」

「急に何ですか? 」

「天草一派だけじゃなく南北両奉行所も、お前さんに一目置いている。さっきも、蘆塚を俺らよりお前さんを警戒して北町奉行に後ろを取られてた。つまり、お前さんは居るだけで力を発してるって訳だ。」

 まぁ、確かに何もしていないのだから、居るだけと言われれば居るだけだ。そうこうしているうちに色葉たちを追っていると、どうやら狩野先生が空間の歪みを見つけたようだ。

「色葉っ! 」

 空間の歪みに飛び込むと僕は思わず叫んだ。忠相とリッキーが既に天草と対峙しており、ミッチーは北条さんと色葉を守っていた。

「どうやら、まんまと罠に掛かってしまったようだな。」

 そういえば、最初は遠山の罠に掛かったり、鎌倉で佐野さんの罠に掛かったり、魔法世界の人間は掛かり易いのだろうか? 僕が忠相の前に出ると天草は眉間に皺を寄せた。

「忌々しい… 忌々しいきは貴様の能力ちから。貴様の前では、いかなる大魔法使いであろうとも無力。その能力が我に在れば、倒幕の夢も容易かったろうに。その能力在らば民に迷惑掛ける事なく、幕府も交渉の席に着いたやもしれぬ。忌々しきはその能力。何故なにゆえに神はその能力を我に与えなんだのだ… 」

 天草はその場に両膝を着いた。一度は奉行所から逃げ出したくらいだ。天草が逃げる立場であれはチャンスはあったかもしれない。だが、攻める立場になると相手に僕が居る時点で詰んでしまう。観念したのだろう。おとなしくリッキーのお縄に掛かった。縄といっても魔力を封じ込める物なのだろう。幾何学的な紋様が描かれていた。

「鍋島殿、この度は天草四郎捕縛に辺り、一方ならぬ御尽力を頂き、誠にありがたく存じます。」

 あぁ、遠山が堅苦しくて遠慮する気持ちが分からなくはない。

「忠相。貴方が土下座なんかしたらミッ… 竜紋や虎紋が頭、上げられないじゃないですか。」

 リッキーにとっては直接的な上司だし、ミッチーにとっても他部署の部長くらいなもので立場は上だ。そんなポジションの人間が頭を下げていては今のというか、こちらの世界より縦社会で頭を上げる訳にはいかないだろう。

「しかしながら… 」

おもてを上げい。」

「ははぁ。」

 ようやく三人が頭を上げた。やはり聞き慣れた言葉の方が伝わり易いのだろうか。

「忠相とリッキーは帰るんだろ? 」

「はっ。こちらでのお役目、鍋島殿のお陰をもちまして全ういたしましたればO.E.D.O.に戻りお役目を果たしたく存じます。」

「鍋島氏、拙者も一度O.E.D.O.に戻りたく、お暇を頂けませぬでしょうか? 」

 そういえば、ミッチーも急にこっちに来ていたからな。向こうでの用事もあるんだろう。

「了解した。向こうに戻ったら、そう簡単に転移して来ないよう、しっかり見張ってくれよ。」

「はっ。天草めに必ずや術式を白状させ手段を講じる所存。」

「狩野先生は? 」

けぇる。患者の居ない所に医者は不要だろ? 」

 まだO.E.D.O.には予防医学って概念は無いのだろうな。

「色葉、帰るよ。」

「はいっ! 」

「私も居るんだけど? 」

「北条さんも一緒に帰りましょ。」

「… そうね。」

 こうして天草の乱は鎮まりを見せた。

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