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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
重なるは時間
25/38

廿伍葉 ‡ 治療

「あれ、小川先生は? 」

 北条家の屋敷に戻ると小川先生の姿が見当たらない。代わりに酒臭い男が待っていた。

「先生ならO.E.D.O.だ。俺らが代わりの医者だ。と言っても先生みたいな漢方医じゃなくて蘭学医だけどな。」

 つまり医療方針が違うと言いたいのか? 魔法使いと戦うんだ。治して貰えるなら僕はどちらでも構わない。

「それで、お名前は? 」

「狩野、狩野宝舟かのうほうせん。宝の舟と書いて宝舟。どうでぇ、縁起いい名前ぇだろ? 」

「は、はぁ… 。」

 僕はあまり縁起を担ぐタイプではないんだがな。

「何でぇ何でぇ。元気無ぇなぁ。ちゃんと飯喰ってるか? 」

 忠相やミッチー、リッキーみたいなのは畏まり過ぎるが、この狩野という医者は遠山よりも砕け過ぎていないか? まだ初対面なんだけどな。

「で、どうなんだ? 」

「どうって? 」

 主語も無く、いきなり振られても困る。

「益田… いや、今は天草四郎。それと蘆塚忠右衛門。あいつらO.E.D.O.にとっちゃ病巣だ。別に幕府に喧嘩売るのは勝手だが、町民を巻き込むのを医者として黙っちゃいられねぇ。世間の膿を出すのも医者の仕事だろ? 」

 だろ? って言われてもなぁ。どうやら、この先生は患部を切り、悪人を斬るタイプの医者らしい。時代劇に居る奴だ。だが、それならそれで、戦力として計算していいのだろうか。

「狩野先生、腕が立つのは医術だけではなさそうですね? 」

「ん? まぁな。けど医術も魔術も人助けにしか使わねぇぞ。」

 あぁ、そうか。そこは剣術じゃなくて魔術か。

「彼奴らは僕には魔法が通用しない事を知っています。だから色葉の警護には敢えてミッチー… 竜紋と虎紋を着けます。勿論、僕からは魔法使いの気配がしないので、ついていきます。そして奴らが… 色葉を… 」

「分かった分かった。皆まで言うな。お前さんも自分の女、囮になんかしたくねぇんだろ? きっちり一発で一網打尽にしてやろうじゃねぇか。」

 やっぱり彼女って単語が無いんだな。そうだな。何度も色葉に怖い思いはさせられない。一回で必ず捕まえてやる。本当は色葉を1人で散歩をさせようと思っていた。だが、狙われているのが分かっているのに1人で散歩なんて、わざとらし過ぎると北条さんに却下された。結局、色葉と北条さんが佐野茶房に行くという、これはこれでベタな展開になった気がする。

「過去、屋内で襲ってきた事が無い事から、あの魔法空間は屋内では展開出来ないと思われます。竜紋さん、虎紋さんは往路、復路の警戒を特に厳重にお願いします。あなた方しか魔法使いの気配という物が掴めません。何かあったら直ぐに鍋島さんに知らせてください。敵方に確実に有効な手立ては他に無いのですから。」

(竜紋殿、何者ですか、この女史は? )

(関白や上様にも物申すお方だ。おとなしく聞かれた方がよい。)

(なんと大公や上様に!? )

「お二方、ちゃんと聞いていらっしゃいますか? 」

「はいっ! 」

 こそこそ話していたミッチーとリッキーが叱責された。北条さんにとっては、将軍も関白も同心与力も大友と変わりないのだろう。取り敢えず色葉たちが先に出かけ、後からミッチーとリッキーがついていった。ミッチーは佐野さんの見立てた服装に慣れてきた様子だが、リッキーは、まだ洋服姿がぎこちない。僕も後をつけようとして呼び止められた。

「待ちなよ兄ぃちゃん。俺たちはこっち。」

 声を掛けてきたのは狩野先生だ。

「あのを守りてぇならついてきなっ! 」

 色葉の事は気になるが、守りたいならという言葉に従う事にした。

「お前さん、あれが分かるかい? 」

 狩野先生が顎指す方向に色葉たちをつける一団が居た。

「蘆塚!? 」

 その一団の中に、間違いない。蘆塚の顔がある。

「ありゃ、金で雇われたこっちの人間だ。勝手に魔法で作った金だから違法なんだが、魔力の無い奴には本物にしか見えねぇ。それに、こっちの人間に町方の2人が手を挙げたら、問題になっちまう。それは、あんたでも同じだろ? 」

 少々、話が回りくどい。確かに僕が手を出しても、ミッチーたちが手を出しても問題にしかならない。こちらの世界の人間を使ってくるとは油断していた。だからと言って、この状況をどうしようと云うのだ?

「でだ。こっちの世界の人間でもない。町方や幕府の人間でもない俺らの出番だ。こっちの世界の人間は何とかする。蘆塚の野郎は任せたぜっ! 」

 言うが早いか狩野先生は一団に突っ込んで行っちゃったよ。

「なんだっ! 」

「このオッサン? 」

「うっ。」

 次々と男たちが倒れていく。そうか、麻酔か。いや、睡眠魔法とか催眠魔法って奴か。これなら、手を出した事にならないし怪我人も出ない。

「何者だっ!? 」

「通りすがりの町医者だ。O.E.D.O.の膿を出しに来た。」

「町医者風情が偉そうに。膿は幕府そのものだと云う事が分からぬか? 」

「悪ぃが、俺らにゃまつりごとの事ぁ分からねぇ。だけどよ、喧嘩するなら手前ぇらだけでやれ。O.E.D.O.の町民、巻き込んでんじゃ無ぇよ。」

「大義の為に多少の犠牲はつきものだっ! 」

「馬鹿野郎っ! 人の命を犠牲にしていい大義なんか、あるもんかっ! 」

「その犠牲になるがいいっ! 」

 蘆塚の放った魔法を僕が飛び出すまでもなく狩野先生の魔法が相殺していた。

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