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異世界彼女は純和風  作者: 凪沙一人
守れるのは自分
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拾捌葉 ‡ ミッチーハウスは釜の中

ミッチーのリハウス

「住み込みって、佐野さんの家って何か商売をしてるんですか? 」

 特に問題が無いのであれば事情を知っている人の世話になる方が僕としても助かる。

「はい。北条の家から、お暇を頂いてからは、お茶屋を商いにしております。空いている部屋も、ございますし、男手が欲しい力仕事も多いので、こちらとしても助かるのですが。」

「でも、常世殿の一存でお決めになる訳にも… 」

「ご安心ください。佐野茶房の経営者は私ですから。」

 なるほど、それなら安…

「えっ、佐野さんって佐野茶房の社長!? 」

「正確には社長兼会長兼CEO、ですけどね。」

 佐野茶房といえば、国内外の茶葉の輸入、販売、卸し、喫茶展開などを取り扱う大手企業じゃないか。数年前に経営者が代わってから、お茶屋の老舗から急成長を遂げた企業。確か就活の資料にそんな事が書いてあった。その新しい経営者が佐野さんだったなんて。北条さんといい、佐野さんといい、セレブなんだな。

「その社長?会長?CEO?と云うのは… 。」

「あぁ、ミッチー。大店おおだなの大旦那って事だ。」

 おそらく、言葉としてO.E.D.O.には存在しないだろうな。

「大旦那? 商才がお有りなのですね。」

「い、いえ。引き継いだ店ですから。」

 佐野さんは謙遜しているが、そんな事はない。佐野茶房も有名人気店ではあったが、ここまで急成長したのは佐野さんの才覚だろう。

「どうするミッチー。佐野さんの世話になるって事でいいのか? 」

「はっ。鍋島氏の仰せとあらば。常世殿、お世話になりまする。」

「は、はい。」

 なんか、ぎこちないやり取りだなぁ。やっぱり、ミッチーの言葉遣いが原因だろうか?

「ミッチー、向こうの棒禄に当たる給料も無いと、こっちでの生活も困るだろ? 」

「いえ、衣食住さえ有れば禄など無用にございます。」

「でも、それではうちも労基に触れてしまいます。」

「待てよ? 色葉と違ってミッチーって戸籍も住民票も存在しないよな? これって雇用契約自体、成立するのか? 」

 いきなりパチンと手を打つ音がした。北条さんだ。

「じゃ、竜紋さんは常世ちゃんの居候。労働者じゃなくてお手伝い。その代わり食事の面倒はみてあげて。服は基本的には色葉ちゃんが作る。他の必要経費は、私が持つわ。鍋島さんは色葉ちゃんを守る。これでいい? 」

 多分、労働者じゃなくてお手伝いって云うのは雇用契約は結ばないって意味だろうな。ただ、何もせずに食事をさせて貰うのはミッチーも気が引けるだろうし。

「良しなに取り計らってくだされ。時に、常世殿。お茶屋と伺いもうしたが、使っておられない茶釜は、ござらぬか? 」

「茶釜? ございますが? 」

「では、拙者の部屋は茶釜にてお願いいたします。」

 は? はぁ!? やっと色葉が急須を出たと思ったら、今度はミッチーが茶釜? それにしても、何故、茶釜なんだ?

「ちゃんと、お部屋を御用意いたします。それとも、何か、理由でも? 」

「いや、深い理由はござらぬ。お部屋に居候させていただくより、こちらとしても気が楽な故。」

「でも… 」

 再びパチンと手を打つ音がした。やはり、また北条さんだ。

「常世ちゃん、取り敢えず竜紋さんの気の済むようにしてあげて。茶釜は純金とかじゃなくて南部鉄とかの方が落ち着くと思うわ。色葉ちゃんだって、急須から出てくるまで、色々あって掛かったんだから、今は仕方ないと割り切りましょ。」

 北条さんの状況判断力と決断の早さには恐れ入る。こうして、ミッチーの行き先も決まったのだが、心配事が無くなった訳ではない。異世界転移魔法が、今回の一件で益田のような特別な奴でなくとも使える事が分かった。筆頭与力だったミッチーですら使えない魔法が何故? という疑問が湧く。思いつくルートは2つ。益田の術が広まった場合と幕府の術が漏れた場合だ。そして、こちらの世界に来る目的が分からない。益田の場合は実際に失敗して偶然、こちらに跳ばしてしまった色葉の口封じに実験が成功してから来た。これは、あくまでも偶然だ。だが、筝葉の場合は、拐かした娘をこちらの世界に連れてきて逃がした。とすると、意図してこの世界に来た事になる。仮説としては益田の魔法がこの世界としか繋がっていなかった場合。または、何らかの理由でこの世界を選んでいる場合。目先の問題としては、ミッチーの言葉遣いを直さないと、出歩くのが難しそうだという点だ。そんな事を考えていたらクラクションが鳴った。

「おぉ~ぃ。」

 相変わらず大友は、いいように使われているようにしか見えないな。

「なんか、いつもの車でいいって聞いたけど… ? 」

「筝葉ちゃんは、お父さんが迎えに来て一緒に帰ったわ。竜紋さんは方角が違うから常世ちゃんの車。だから、私たち四人だもの。ミニバンサイズは要らないでしょ? 」

「なるほど。それじゃ、早いとこ帰ろうぜ。さ、乗った乗った。」

 僕たちは大友の車に乗り込むと、佐野さんとミッチーに見送られて出発した。

2章完

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