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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
瞑想は水底に沈んで
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アストを問い詰める

 田辺が行ってしまった後、2分もしないうちに鉄製の階段を上がってくる足音がした。わたしは、部屋のドアを背に座り込んでいたのだが、立ち上がった。

「あれ?奈々じゃない。何しているの、ここで。」

町田はスーパーの買い物袋を2つもぶらさげていた。中味は大根や人参や、そういうもののようだった。意外にも、町田はちゃんと料理をするらしい。

「待っていたのよ、アストを。」

「どうして?」

そう言いながら、町田は部屋の鍵を開けて、わたしを中に導いた。

「犯人がわかったからよ。裕樹を殺した。」

「なに?いつ?」

「ついさっき。」

「なんで?」

「今日は一日いろいろあったからよ。」

「何処で?」

次は、誰が?かしら。5大疑問符全部を使う気のようだ。

「とにかく、アストに聞きたいことがあるの。」

「おれに?」

立ちすくむように入り口で突っ立っていた町田は、ああとかなんとか言いながら、買ってきた袋を冷蔵庫の前まで持って行って、そこに置くと、戻ってきてエアコンのスイッチを入れた。

「アスト、裕樹から依頼を受けたっていうのは嘘ね。」

「ああ、その話か」

町田は座布団をエアコンの吹き出し口側に敷くとそこに座った。わたしはその前に座った。座布団は一つしか無かった。

「裕樹にはストーカーなんていなかった。だから、調査依頼なんて必要無かった。」

「なんでそうなるんだ?」

「アストは裕樹と元々知り合いだった」

「それで?」

否定しないということは、間違っていないということだ、とわたしは解釈した。わたしはいつもの手を使うことにした。黙っているのだ。相手が話すまで。

「わかったよ。その通りだ。彩子がサークル室まで来た時、オレは奈々と奥村先輩は付き合っていると話しただけだ。事件も何も関係ないから放っておいてくれと」

「結局、今でも彩子はわたしと裕樹の関係が以前からのものだって思っているんでしょ?」

「それは・・・。」

町田は口ごもった。

「たしかに、おれは奈々に仕事だと思わせて奥村先輩を紹介した。でも、奈々、おまえのことも心配してたんだよ。何か目的を持って行動していないと、奈々は駄目になると思ったんだ。」

「おおきなお世話よ。わたしを信じ込ませるために盗聴機まで用意して。わざわざ裕樹に置かせたんでしょ?」

「いや、あれはおれがやったんじゃない。」

「アストじゃない?じゃあ、彩子だったのかもしれないわ。どっちでもいいけど。」

「なんでどっちでもいいんだよ?」

「わたしの推理には影響しないわ。彩子だったとしても、彩子は最初から裕樹の交友関係を疑っていたのだし。」

「まあ、そうだけど。」

「それから、彩子は裕樹が殺された後、アストに連絡を取ってきたのね?」

「ああ。」

「裕樹のインプレッサについてでしょ。」

「奈々、どこまで気付いているのかわからんけど、あとはオレに話させてくれないかな。尋問されているみたいで嫌なんだけど」

「いいわ」

「まず最初に謝っておく。嘘をついて奥村先輩を紹介したことについて、だ。本気でいい男だとも思っていなかったことも付け加える」

「まあ、それはいいわ。アストが思った通り、わたしの好きなタイプだったわけだし」

「彩子に連絡を取っていたことも認める。連絡先はサークル室に来た時に聞いていた」

そういうとアストは両手を上げた。

「ばれちまったもんは仕方ないよな。西口さんにも連絡は取り続けていた。警察は奈々を疑っていたし」

「そうみたいね。今もパトカーから逃げてきたところだし」

「え?」

「逃げてきたの。西口から」

アストは開いた口が塞がらないという顔でわたしを見つめた。

「じゃあ何か?これは容疑者の隠匿みたいな状況か?」

そう言うとアストは笑い出した。

「まあ、いいか。奈々のことをなんとかしようと思っていたことは変わらんし、そのために色々手をまわしたのが裏目に出たわけだし」

「そうね。アストも探偵としてまだまだってことね」

「違いない」

「それで、今、どこまでわかっているの?」

ふむ、とため息まじりにアストが頷く。

「奥村裕樹は副業でビジネスとして恐喝を行っていたらしい」

「西口に聞いたわ」

「そうか。被害者の人数はかなり多そうだ。そのあたりの情報は彩子から聞いた」

「彩子から?」

「結局、彩子が欲しがっているのは恐喝のネタらしいんだ。二人は元々ビジネスパートナーでもあった。恐喝の直接交渉役、ということか」

「彩子が、直接交渉役?」

「そうだ。ボディーガード役の男と二人でやっていたらしい。奈々が聞いた声はそいつだろう。彩子は奈々が情報を持っていると思っていた。つまり恐喝のネタについてだよ。奥村裕樹はパソコンに詳しかったそうだ。インターネットを使って脅しをかけることもあったらしい。けど、必ずしも相手がインターネット環境を持っているとは限らないからな。実際に会いに行って写真や手紙のコピーを見せびらかさなきゃいけないこともある。そういう汚れ仕事を自分ではやろうとしなかったみたいだな、裕樹は」

「つまり、彩子は使い走り役、ということ?」

「そうなるな」

「それが不満で、裕樹を殺した?」

アストは首をすくめる。

「どうかな。彩子は焦っているみたいだったよ。実際のところ二人は同郷の出身で、口ぶりからしても彩子が奥村裕樹に好意を持っていたのは間違っていない。奈々を連れ去って殺そうとしたのも感情にまかせてのことらしいしな。本当は奈々が恐喝のネタの在処を知っていると思っての拉致だったと言っていた。結果的に生きていることにほっとしていたようにも見えた」

それはどうかな、とわたしは思った。彼女が理性的な行動を常にするタイプとは思わない。どっちかというと感情優先の感じがする。

「いずれにしても彩子とは話をしてきた。こちらには恐喝のネタについての情報はない。今後、関わるつもりもないから奈々には手を出すなと伝えている」

それについても怪しいな。さっきのことをアストにも伝えるとアストは唸った。

「まるっきり信じてないな、あの女。頭を使わない奴ほど面倒なものはないな」

「結局、誰が裕樹を殺したのかしら。それと動機はなんなのかしら」

「さあな。オレは彩子ではないと思っている。彩子は恐喝の実行役とはいえ全体像は何も見えていないらしいんだ。彩子は裕樹がすべての恐喝ネタを管理していたと考えている。それは簡単には見つからない方法で隠されているが、その気になったら一気に知られたくない相手に送られるとも。彩子は自分たち以外にも交渉役がいる可能性を疑っていたけれど、実際には知らないようだった。むしろ最初は奥村裕樹の交友関係を調べる気はないかとまで言ってきたしな。それに第一、恐喝に使うネタの隠し場所さえ知らないんだから。裕樹を殺す動機がない。むしろ殺してしまうと今までの儲けが無くなってしまう可能性の方が高い。ところで、なんでお前は警察に追われているんだ?」

そのことについて目撃者の話をする。目撃者を揺さぶったら吉岡に会いに行ったことも。

「つまり殺人については吉岡っていう男が一番怪しいじゃないか」

「うん。でも動機がわからないわ。吉岡は裏ビデオを売っていたことで裕樹に恐喝されていたのかな?」

「さあな。ひょっとしたら逆なのかもしれないぞ。吉岡は彩子と同様に恐喝グループの一味なのかも。というより、奥村裕樹以外に全体像を知るやつはいなかったわけだし。だから誰もが失われた恐喝の構造そのものを手に入れようとしているのかもしれない。そうすれば、裕樹がうまく組み立てたシステムを乗っ取れるわけだから」


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