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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
瞑想は水底に沈んで
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電波探知機

 奥村のマンションは5階建ての建物だった。一見レンガ風タイル張りの壁が、ありきたりのモダンさを醸し出している。部屋はそこの5階。2部屋の間取りはトイレとバスルームが別になっていて、広かった。車の中と同じように殺風景で生活感に乏しい。一人暮らしをしていると、ついつい部屋が散らかってくるものだ、と思うのはわたしがルーズ過ぎるだけなのだろうか。

「片付いているのね、ひろき。」

「はす・・・じゃない、奈々が来るから、掃除をしたんだ。そこの押入れの扉は開けないでくれ。押し込んだゴミがあふれてくるから。」

そういって笑顔を見せた。どうにも、笑顔がさわやかなんだよなあ。

「じゃあ、とりあえず荷物を出すわね。」

「ああ、いいよ。ところで、中身は何?」

奥村は、興味ありげに覗き込んだ。

「着替え、よ。」

わたしはウインクしながら言った。ジッパーを開けると、電波探知機や工具が詰まっていた。わたしは、そうっと奥村の耳元で言った。

「盗聴されてないか確認するから、なにかしてて。」

奥村は、おおきく頷いて、それからわざとらしく言った。

「じゃあ、コーヒーでも入れようか。」

「うん。ありがとう。」

奥村の飲み込みの早さに安心しつつ、わたしはヘッドホンに耳を当てて機材のスイッチを入れた。市販の盗聴装置の出す電波なら、これで拾えるはずだった。高度な装置のデジタル波は無理だけど、そこまでの機械を使っているようなマニアなら、どっちにしろわたしの手に負えない。

 ただ、部屋の中って結構電磁波が多くて、難しいんだよね。わたしは苦労して部屋中を歩き回った。結局、リビングの奥の25インチテレビの下から一つ発見した。小型のもので、電池内臓タイプだった。部屋の中が片付き過ぎているから、効率が悪いテレビの下に置くしかなかったんだろう。第一こんな場所じゃあ、盗聴器のマイクはテレビの音ばかり拾ってしまう。これなら、リビングにいないときは聞き取られることはないだろう。あえて、わたしはそのままにした。

 電話やインターホンの中にも仕掛けられることは多いのだけど、今回は無いようだった。念のために裏返したりして、ネジをあけた形跡が無いか確認したけど、そういう跡はなかった。

 キッチンに戻って、小声で報告した。

「盗聴器は、明日、裕樹が処分してね。今わたしがやると、怪しまれるし。テレビの音を大きめにしてつけておけば、大丈夫よ。場所的にも、効率のいいところじゃないし。」

「そっか。ありがとう。じゃあ、さっそくテレビをつけてくるよ。」

そういって、奥村はリビングに戻っていった。しばらく経ってテレビが音を立て始めた。音楽番組のようだった。それから、戻ってきて、出来上がったコーヒーをカップに注いだ。

「これも、昨日慌てて買ったコーヒーメーカーとカップなんだ。うまく出来ているといいけど。」

コーヒーは、少し濃くて苦かった。


 2時間ほどで、わたしは帰ることにした。奥村は送っていく、と言ったがわたしは少し考えるところがあって歩いて帰ることにした。それに、一人で帰ればストーカーの女の子が接触してくるか、と思ったのだ。

 バス停までは少し距離があったから丁度いいと思ったのだ。

 気になったことはいくつかあった。

 まず、第一に不審な女性の姿なんか見なかったこと。

 ただ、これは、今日はたまたまいなかったとも考えられるし、車からわたしが降りた時に、身を隠したのかもしれない。

 次に、盗聴器のこと。

 室内にあったということは、何らかの方法で部屋に入ったことになる。いったい何処から入ったのか。ただ、入り口として考えられるのは玄関しかないのだ。ベランダ側からは難しい。無理すれば階段からベランダに飛び移れなくも無いが、それには相当の覚悟がいる。一つ間違えれば5階下の地面にまっさかさまだし、ゆっくりやれば、相当目立つ。

 それよりは、玄関からカギを開けたほうがいい。けれども、カードでは無いが、しっかりとしたシリンダー錠で、素人には開けられそうにも無い代物だった。この点については、奥村に聞くのを忘れていた。つまり、以前にカギを無くしたことがあったかどうか。

 今日、わたしは奥村からスペアキーを預かって来ている。明日、奥村が仕事をしている間にもう一度、盗聴されていないかチェックすることになっていた。テレビの下の盗聴器は朝、奥村が処分していくことになっていた。

 そういうことを考えながら歩いていたのだが、ふと、誰かにあとをつけられているような気がした。気のせいかもしれないと思いつつ、振り返ったが、人影は無かった。だいぶ日が暮れてきて、見通しが悪かった。夕方の完全に暗くなる前、というのが一番見にくいのだ。わたしは気にしないことにした。途中でバスを乗り換えれば、はっきりすることだ。


 大学について、追跡者はいなかったと思うことにした。途中でバスを一旦降りて乗り直したが、一緒に降りてくる人もいなかったし、次のバス停でも見覚えのある顔はなかった。追跡してくる車も見つけられなかった。

 事務所に入ると町田がタバコを吸っていた。

 わたしの姿が目に入ると、意味ありげな笑顔で微笑んだ。

「どうだった?奈々。」

「なによ、それ。」

わたしは、重いバッグをロッカーに仕舞うと、薄汚れたソファーに倒れこんだ。

「あー、重かった。」

町田は、吸い終わったタバコを灰皿に押し付けると、新しいタバコに火をつけた。

「奈々、いい男だっただろ。」

「あー、はいはい。アストの差し金でしょ。」

「まあな。せっかくだから、奈々に回したんだよ。息抜きにいいと思って。」

「仕事で息抜きしてるようじゃ最悪だわ。」

「それはそうだけど。で、どうだった。」

「盗聴器が一つ。しょぼいやつ。明日、もう一度探すけど。それだけよ。」

町田は、首を振った。

「そうじゃなくて、奥村さんのことだよ。印象を聞いてるんだよ。」

「わたしは、仕事で行ったのよ。印象なんて関係ないわ。」

「ふーん。そうですか。」

「それより、恋人のふりをさせようなんて、どういうつもり?」

町田は、さもあたりまえという顔で言った。

「その方が、話し合いで解決するよりも効果あるでしょうが。それに、奈々だって悪い気しなかっただろ?」

町田は、にやついたままタバコの煙を天井に向かって吐き出した。

 そりゃあ、正直に言えば、いい男だとは思ったけどさ。

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