表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
クリスマスは幻影の中に
49/92

足を使って探すのです

 わたしは、アストが運転するカローラバンの中で、車内灯を頼りに地図を睨みながら考えていた。

 あのふたり、香住とコートの男。まったく知らない同士にも見えなかった。香住は腕を振払って逃げることも、大声を出して助けを求めることも出来たのに、しなかった。それに、あの男は、香住が怖れなければいけないほど強そうでもない。

 お互いに知り合いだと仮定すると、この事件は誘拐では無いかもしれない。

 計画的にやったことならば、あらかじめ隠れ家を見つけておくかも知れないし、都合のいいホテルを探しておくかもしれない。

でもわたしのインスピレーションが、これは計画的なものじゃない、と言っていた。理由を聞かれても困る。二人の微妙な間合いとか、その時の表情だとか。

それなので、わたしはあんまり心配をしていなかった。たぶん、香住は放っておいても帰ってくるだろう。必死で探すだけ無駄かもしれない。でも、ひょっとしたら・・・万が一、わたしのインスピレーションが間違っていたら・・・もしくは、急に二人が喧嘩でもしたら。

 わたしとアストは、相談して、ビジネスホテルの駐車場をしらみつぶしにして、銀色のスープラを探すことにした。

「なあ、奈々。」

アストは、3軒めも空振りに終わったところでわたしに言った。

「ラブホテルって可能性はないのか?」

「そうね。でも、そんな関係じゃ無さそうだったんだもん。」

アストは、ため息をついた。

「なんだろうね、女の勘かよ。」

わたしは、アストの方を向いた。

「勘も大事よ。当たるんだから。」


 夜の11時まで捜しまわって結局見つからなかった。

 わたしとアストは、河川の堤防の上に車を停めた。

 星がきれいだった。遠くに街の明かりが見えた。

「ひょっとすると、別のインターだったのかもな。」

アストは、車のイグニッションを切りながら言った。責めている感じはしなかった。

「そうね。」

わたしは、シートをリクライニングさせて答えた。

「どうする?これから何処かのホテルを探すか?」

アストは、遠くの街明かりを見ながら言った。

「探すっったって、こんな時間じゃ何処も開いて無いわよ。」

アストはふうっと、息を吐いた。

「そうだな。」

アストもシートを倒した。

「奈々。」

アストはカローラバンの汚れた天井を見上げたまま言った。

「ラブホテルなら空いてるぞ。」

「何言ってるの?」

「馬鹿。泊まるだけだよ。」

わたしは、黙っていた。

「シャワーぐらい浴びたいだろ、奈々。」

「いらない。」

アストは、ウインドーを少し下げてタバコを取り出し火をつけた。

「いるか?」

わたしは、手を出した。

JPSを受け取り、一本引き抜いた。

アストは、口にくわえたタバコに火をつけてくれた。

「洋一のこと、まだ忘れないんだな。」

アストは、少しだけ開いたウインドーの隙間に向かって煙りを吐いた。

わたしは、なにも言わなかった。

「奈々と洋一は、端から見ていてもいい感じだったよ。」

わたしは、

「ありがとう。」

とだけ言った。

「でもな、もう洋一は死んでるんだよ。交通事故でな。お前、あいつのバイク、まだ持ってるんだろ。動きゃしないのに。あいつの両親に無理に頼んで譲ってもらったんだってな。」

アストは、短くなったタバコを車の灰皿に投げ込んだ。

「あのバイク、どうするつもりなんだ?」

わたしの手から、タバコの灰がシートにこぼれた。

「直すのか?それとも、あのまま置いておくのか?」

「洋一が、帰ってくるまであのまま・・・。」

アストは、新しいタバコに火をつけた。

「帰ってこねえよ。」


 隣で、洋一が寝息をたてていた。

 夢だということは分かっていた。

 けれども、以前本当にこの車で洋一と二人、夜を明かしたことがあったのだ。

 あれは、去年の秋。日曜日に出かけた帰りに、車が故障したのだ。

 あの日も、星がきれいだった。

 わたしは寝つけずに、洋一の寝顔を見ていた。素敵な寝顔だった。眠っている時、どうしてこんなにかわいいんだろう、と思った。

 そっとキスすると、洋一は目を開けた。

「寝ておけよ、奈々。」

ただ、それだけ言って、また寝てしまった洋一。

 わたしは、暗い車の中で一人起きていたけれど、けっして寂しくはなかった。

 洋一が、寝息をたてている。

 それだけで、幸せな気分に浸っていた。

 洋一が、寝息をたてている。

 ただ、それだけで、星はどんな宝石よりも輝いて見えた。


 わたしは、ゆっくりと目を開けた。

 車の外はまだ夜だった。毛布から、顔を出して隣を見た。

 隣にいるのは、アストだった。

 洋一がいるわけはない。彼は交通事故で・・・。

 でも、いつか帰ってくると思う。あの日、図書館にわたしの本を返しに行ったままなのだから。すぐに戻る、と言って出て行ったのだから。

 わたしは、目を閉じた。

 嘘を信じようとしている自分が悲しかった。

 涙がこぼれそうになって、わたしは目を開けた。星がにじんでいた。

 そうっと、毛布から抜け出し、コートを着ると車を降りた。

 外の空気は冷たかった。

 エンジンは止めているが、車の中は外よりましだったようだ。

 ひょっとしたら、ここで泣いたら涙が凍るかもしれない。

 そう思ったら、おもわず笑ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ