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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
追憶は陽炎のように
36/92

デパート

 朝になり、それから昼になった。

 大学の講義があることは忘れていなかった。だから、正午になる前にはアパートの部屋を出た。通用門をくぐり、構内に入ったころまでは、講義に行くつもりだった。

 でも、その日も天気が良くて、わたしのバッグの中には、昨日借りたRFのキーが入っていた。それから、バイクもそこにあった。サークル棟の前に。

 わたしは、まっすぐにそこに向かって歩いて行って、それにまたがった。

 行き先を決めていたわけではなかった。

 ただ、またがっただけだ。でも、スターターを回すと、あっさりエンジンはかかった。バッテリーが駄目になっていたら、諦めて講義を受けていただろう。

 でも、そうはならなかった。

 わたしは、大学を後にした。


 利沙と佐久間が勤めていたデパートは駅前にあった。昨日行った、探偵事務所は、そこのすぐそばだと気が付いた。

 あてがあったわけじゃないけれど、わたしは、そのままデパートに入った。

 3階に上がり、佐久間について聞くと、フロアマネージャーという人物が出てきて、こう言った。

「蓮田さんですか?」

 何故、わたしの名前を知っている?

「そうですけど」

「長野県警の竹内さんから伺っています。どうぞこちらへ」

 竹内?そう、思ったけれど、どんどん歩いて行くので、わたしはそのあとを着いていく事にした。

 通されたのは控室のようなところで、ロッカーが並んでいた。簡単な長机と灰皿、それから、段ボール箱がいくつかあった。

「失礼ですけど、竹内さんはなんて?」

 わたしは、我慢できなくなってそう聞いた。

「朝一番に電話があって、従業員だった佐久間についてお伺いしたいことがある、と。あとで、蓮田というものが、そちらに行くかもしれない、とおっしゃっていましたので」

「はあ」

「長野から、わざわざご苦労様です」

 っていうことは、この人、わたしが長野県警の人間だと思っているわけか。それにしても、竹内って男は。わたしがここへ来ることも、お見通しってことなんだろうか。それにしても、わざわざ誤解をさせるような言い方をして、何を考えているのだろう。

 でも、わざわざ自分が何者なのか、言う必要も無いか、とわたしは思った。

「佐久間さんは、どんな人でしたか?」

 わたしは、勧められた椅子に座ると、そう切り出した。パイプにビニールを貼った、昔、高校の体育館で見た様な椅子だった。

「真面目な従業員でした」

 それから、考えるような感じで顎に手をやった。

「特に変わった所も無かったように思います。普通の子でしたね」

「高木利沙さんとは仲が良かったようでしたか?」

「ああ、彼女、3週間前から突然来なくなりましたね。心配しているんですけど。特に彼女達が友達だとは思いませんでしたけど。あ、でも、時々一緒にいることはありましたね」

 そう。マネージャーがいちいち誰と誰が仲がいいかなんて気にはしないわよね。

「佐久間も、高木もロッカーがそのままなんですよ。出来れば整理したいんですがね」

 そう言いながら、後ろに並んだ薄っぺらい鉄か何かで出来たロッカーを指差した。一つ一つに名札が付いていて、いくつかにはシールが貼ってあったり、落書きがしてあったりした。あまり、そういうところには厳しくないらしい。それとも、すぐに辞める従業員というのは少ないのだろうか。

「調べますか?」

 唐突に、マネージャーは言った。警察なら、これを調べるのだろうか、と一瞬思ったけれど、わたしは、そんなこと、関係無いじゃない、と自分に言い聞かせた。わたしは警察官じゃない。捜査礼状だとか、そういうのは、わたしとは関係無いわ。

「ええ、是非」

「じゃあ、開けますから」

 そう言って、ポケットからキーを取り出し、はじから4つ目のロッカーを開けた。利沙のロッカーだった。

「こっちも開けておきますから、僕は仕事に戻りますけど、終わったら言ってください」

 そう言って、5つほど向こうのロッカーも鍵を開けた。

 わたしは、礼を言って、それから利沙のロッカーを調べ始めた。一人になって、他人のロッカーを物色しているというのは、なんだかとても居心地が悪かった。

 利沙のロッカーには、デパートの制服と、何点かの化粧道具、それから何かのおまけに付いてくる小物ぐらいしか無かった。ペットボトルのジュースに付いてくるようなやつだ。それを除けば、必要最低限のものしかない、ということだ。わたしは、それを閉めて、佐久間のロッカーに移った。

 一つのロッカーを見たことで、他人のプライバシーを覗き込んでいるという緊張感は薄らいではいたけれど、無くなりはしなかった。誰かが入ってきたら、なんて言えばいいんだろう。警察の者です、と言えば嘘になるし、かといって探偵だ、と言えば、余計に立場が危うくなるような気がする。

 けれども、誰もやっては来なかった。

 たぶん、昼過ぎで、休憩時間では無い時間帯だったからだろう。マネージャーもそれは知っていてやらせているのだろう。

 佐久間のロッカーには、利沙よりもはるかにいろいろな物が入っていた。

 制服や化粧道具以外にも、マッチ、アルミホイル、景品、ティッシュ、それから、飲みかけのペットボトルのお茶まであった。整理は苦手のようで、あきらかにゴミと思われるものも入っていた。

 掃除が好き、というわけでは無かったのだろうか。アストの話では、佐久間は控室もよく掃除をしていた、と言っていたのに。

 わたしは、しゃがみこんでロッカーの床に散らばった紙屑をかきわけた。何か目的があったわけじゃない。そうするのが捜索だという思い込みでやったに過ぎない。

 マクドナルドの袋、レシートが何枚か、菓子の包み紙。ほとんどが紙屑で、きれい好きだとはとても思えなくなった。

 めぼしい物はなかったので、わたしはレシートをつまみ上げた。

 スーパーのレシート、ボンカレーとか、なんとかラーメンとか書いてあった。料理は嫌いなようだ。

 服のレシート、薬局のレシート。

 わたしは、それをまとめてポケットに押し込んだ。それから、扉を閉め、部屋を後にした。


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