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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
憂鬱は暗闇に消えて
3/92

I

 彼女は寝息を立ててソファーで寝ていた。

「どうするんだ、これ」

「起きるまで待つわ」

 サークル室。がらくたが散らばっている。時間は夜の10時。かすかに階下でギターの音がする。軽音の誰かだろう。国立二流大学は眠らない。

「病気かもしれない」

「大丈夫よ。普通の寝息だもの」

「飲み過ぎで意識不明ってこともある」

「彼女は酒臭くないわ」

 アストは彼女に近寄った。

「たしかに」

「何よ。わたしを信用して無いの?」

「酒臭くないのは、奈々も飲んでいるからかと思ってな」

「今日は、まだ飲んでない」

「まだ、な」

「持ち物を調べましょう」

 アストはわたしを睨んだ。

「そんな権利は、オレ達にはないよ」

「あるわよ。保護したんだもの」

 わたしは彼女のバッグに手を伸ばした。アストは止めなかった。

「学生証。名前は小泉由香。文学部2年」

「同じ学部だな。見たことは?」

「さあ。学年が違うからね」

 ハンカチ、財布、化粧の道具。携帯電話にボールペン。ティッシュペーパーに生理用品。

手帳。タバコの箱と青の百円ライター。今日の予定を見る。

「午後からIって書いてある」

「何だ、それ」

「わかるわけないでしょう」

「だが、それがこの原因なのかもしれない」

 そう言って、アストは寝息をたてている彼女を指差した。

「I、ね」

「愛、じゃないよな」

「ふられて道路に飛び出したって言うの?」

「無くもない」

「彼女は泣いて無かった」

「涙だけが悲しみじゃない」

「なによ、偉そうに」

 手帳でIを探す。2週間ぐらいに一度、それが出てくる。2週間に一度という頻度は恋人にしては少なすぎだ。アドレスを探すけれど、そっちにはたいして記入が無かった。大学とかバイト先とかの連絡先。携帯を開いてアドレスを探す。I。

「これ、かけてみましょう」

「おい、それはやりすぎだろ」

「そうね」

 わたしはバッグに手帳と携帯を戻す。元どおりにして彼女の脇へ。

「自殺願望かな」

 わたしは、そっと彼女の頬に触れた。熱は無い。

「想像力が豊か過ぎるよ」

 アストは、そう言ってあくびをした。

 でもその時、その電話番号へかけていたら、ひょっとしたら数日の間に起きた悲劇は防げたのかもしれない。だけど、そういうのはあとから思うこと。残念ながら歴史に「IF」は無いのだ。


 由香が目を覚ます頃、わたしたちは疲れてうとうとしていた。

 結局、12時を過ぎたあたりからアストがコンビニにビールを買いにいき、2時には酔っていた。3時頃に由香が目を覚ましたけれどたいした事も聞けず、彼女はすまなそうな顔で、とても数時間前に道路に横たわっていた女とも思えないほどしっかりとした感じで帰っていった。それからアストとわたしはサークル室で飲み明かしたのだった。

 いつの間にか、わたしは例の依頼の浮気調査をすることになっていたのは、そういう理由だ。酔った勢い。

 「さて、奈々。これからどうする?」と朝日が上ってきてアストが聞くから「帰って寝る」と答えた。アストは首を振った。

「ま、それもな、駄目だな」

「どうしてよ?」と、わたしは、ふくれて言った。

「たまには一緒に講義に出るっていうのも悪くないだろう?」

「今さら行っても仕方ないわよ」

「そうかもしれないが、オレは困るんだよ。結構、面白い講義だからな」

「それはアストだけでしょう?」

 アストはアメリカ人みたいに肩をすくめた。彫りの深い顔のアストがやると、それもそんなに違和感がないけれど、やっぱり自意識過剰。大げさな感じ。わたしは、ぷいっと窓の外を見た。紫色に空が染まっていた。

「オレの代わりにノートとってくれよ」

「いやよ」と宣言して再びアストの方を向くと、彼は言った。

「いいじゃないか。どうせ寝すぎだろう?生活リズムを戻せよ」


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