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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
追憶は陽炎のように
22/92

たまにこんなこともあります

 アストに電話して、迎えに来てもらった。

 それから、自転車を取りに行って、国道沿いのコンビニに聞き込みに行った。店長は、8時にきりがつくから、その後にまた来てくれ、と言った。6時過ぎのことだった。

「逃げなくても、送ってくれたかもしれないだろう?」

 アストは、わたしがあんなところにいたわけを聞いて、そう言った。

「どうにかされたかもしれないじゃない」

「そうかもしれないけど、走っている車から飛び降りるなんて」

「飛び降りたときには、もうほとんど動いていなかったわよ」

 わたしは、すっかり暗くなってしまった林を見つめながら言った。

「あれ以上貴文に付き合っていたからって、有用な情報は得られなかったでしょ。逃げたからってマイナスにはならないわ」

「それはそうだけど、間違えれば怪我するだろう」

「そうはならないわよ。ちゃんと飛び降り方知っているもの」

「そういう問題か?」

 暗くてよくわからなかったけれど、ふっと笑ったようだった。

「逃げなかった場合に、乱暴される可能性が五割、逃げるときに怪我をする確率が三割ってところだったわ」

 わたしは、自分でもわけがわからないことを言い出したな、と思った。

「計算してたわけか?」

今度は、声に出して笑った。わたしも、釣られて笑った。

「それにしても、ドア、きっと壊れたぜ、そんなブレーキのかけかたしたら」

 そう言って、再び笑った。

「わたしのせいじゃないわよ。わたしはドアを開けただけだもの。ブレーキを踏んだのは貴文よ」

「そりゃあ、そうだ」

 ざまあみろ、とは思わなかった。貴文がどういうつもりだったのかも、分からなかった。

ただ、わたしは身の危険を感じたから、ドアを開けただけだ。結果は偶然だ。危険を感じた時には逃げたほうがいい。ぐずぐずしていると出来なくなる。

「ところで、奈々」

笑うのをやめて、アストは急に真面目な声になった。

「なに?」

「報告書は毎日ファックスで送ることになってたよな、翌日の朝までに」

「ええ」

「8時に話を聞いて、それからだと大変だな、と思って」

「別にいいわよ。帰るのに4時間くらいはかかるでしょう?その間に書いているから」

「そうか。じゃあ、報告書、頼むよ」

 アストはそう言うと、シートを倒した。

「おやすみ。少し寝かせてくれ。昨日はあんまり寝てないんだ。寝かせてくれなくてね、一美が」

 そう言うと、リアシートにあった毛布をひっぱって、頭から被ってしまった。わたしは、ぼうっとそれを見ていた。

 なによ、それ。


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