たまにこんなこともあります
アストに電話して、迎えに来てもらった。
それから、自転車を取りに行って、国道沿いのコンビニに聞き込みに行った。店長は、8時にきりがつくから、その後にまた来てくれ、と言った。6時過ぎのことだった。
「逃げなくても、送ってくれたかもしれないだろう?」
アストは、わたしがあんなところにいたわけを聞いて、そう言った。
「どうにかされたかもしれないじゃない」
「そうかもしれないけど、走っている車から飛び降りるなんて」
「飛び降りたときには、もうほとんど動いていなかったわよ」
わたしは、すっかり暗くなってしまった林を見つめながら言った。
「あれ以上貴文に付き合っていたからって、有用な情報は得られなかったでしょ。逃げたからってマイナスにはならないわ」
「それはそうだけど、間違えれば怪我するだろう」
「そうはならないわよ。ちゃんと飛び降り方知っているもの」
「そういう問題か?」
暗くてよくわからなかったけれど、ふっと笑ったようだった。
「逃げなかった場合に、乱暴される可能性が五割、逃げるときに怪我をする確率が三割ってところだったわ」
わたしは、自分でもわけがわからないことを言い出したな、と思った。
「計算してたわけか?」
今度は、声に出して笑った。わたしも、釣られて笑った。
「それにしても、ドア、きっと壊れたぜ、そんなブレーキのかけかたしたら」
そう言って、再び笑った。
「わたしのせいじゃないわよ。わたしはドアを開けただけだもの。ブレーキを踏んだのは貴文よ」
「そりゃあ、そうだ」
ざまあみろ、とは思わなかった。貴文がどういうつもりだったのかも、分からなかった。
ただ、わたしは身の危険を感じたから、ドアを開けただけだ。結果は偶然だ。危険を感じた時には逃げたほうがいい。ぐずぐずしていると出来なくなる。
「ところで、奈々」
笑うのをやめて、アストは急に真面目な声になった。
「なに?」
「報告書は毎日ファックスで送ることになってたよな、翌日の朝までに」
「ええ」
「8時に話を聞いて、それからだと大変だな、と思って」
「別にいいわよ。帰るのに4時間くらいはかかるでしょう?その間に書いているから」
「そうか。じゃあ、報告書、頼むよ」
アストはそう言うと、シートを倒した。
「おやすみ。少し寝かせてくれ。昨日はあんまり寝てないんだ。寝かせてくれなくてね、一美が」
そう言うと、リアシートにあった毛布をひっぱって、頭から被ってしまった。わたしは、ぼうっとそれを見ていた。
なによ、それ。




