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VRファントム  作者: BrokenWing
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ゾーンへ入る方法

         ゾーンへ入る方法



「姉貴、今晩は。それで、ライトはどうだった?」

「アラちゃん、今晩は。さっき直接会ったわ。まだ検査を続けているけど、私の感じでは、ちょっと気になる点はあったけど、あれは元の比良坂君ね。慇懃な物言いのくせに、妙に太々しかったから、ほぼ成功したと見ているわ。」


 姉貴は答えながら、俺の正面に座る。


 よし! ならば、今度こそ俺だ!

 と、思ったのだが、姉貴の表情は喜んでいるようには見えない。寧ろ険しい。


「ん? 何か問題あるのか?」

「ええ、問題はありありね。これは岡田先生の考えなのだけれど、要は、意識転移が起こった時の状態よ。完全に一致しないと、不完全な転移に終わる可能性が高いそうなの。なので、これは私の勘だけど、あの比良坂君には、きっと欠けているものがあるはずよ。」

「つまり、やはりあの時と同様に、ゾーンに入らないといけないという事か。それも完全な状態で。」

「そう、しかも失敗はできないのよ。比良坂君の時は、記録を見る限りでは、彼、蘇生に成功してから、もう一度死んだらしいわね。何でも、桧山ちゃんの態度に激怒したとかで。」


 ぶはっ!

 状況は想像がつく。きっと、あの傲慢モードのライトが桧山さんを怒らせ、その結果、桧山さんも彼を怒らせたと。


 うん、この説明で、何故ライトが転移できたのかは納得だ!

 ライトは、普通に意識の無い死体に転移できたのだろう。

 そして、失敗は許されないというのも納得だ。


「なら、あの傲慢ライトが転移した後はどうなった?」

「ええ、あれは多分、コピーの時とほぼ同じ状態なのじゃないかしら? つまり、2度目の転移では、記憶以外の情報は殆ど移動しなかったと考えられるわ。それでも、きっと、何らかの性格というか、意識も転移しているはずよ。」


 あ~、それなら何かが欠けていて当然だろう。

 だが、ライトには気の毒だが、意識のある人格同士を結合させるなんて、不可能ではなかろうか? それでも、彼の場合は最低限で済んだと言えるかもしれない。

 もっとも、ライトの記憶を持ったAIのようなものが、既に3人も居る事になる。倫理観から考えても、もはや完全なカオスだな。


「そうか、何が欠けているかは分からないけど、その話なら、ライトもそれ程大きなものを失ってはいないようで、安心したよ。そして、俺の場合はハードルが高いだけに、大きなものを失う可能性が高いと。」

「ええ、可愛げのないところなんかは、戻らなくてもいいのだけど、それも全て含めてアラちゃんなのよ。あら? 何言っているか分からなくなったわ。とにかく、可能な限り最初に転移した時と同じ状態になるのよ! アンダスタ~ン?」


 しかし、それが難しいので、姉貴も心配してくれている訳で。


「ま、まあやれるだけやってみるとしか。後はどうしても運だろう。」

「そうよね~。それで、どうやって集中させるか、結論は出た? アラちゃんの考えに極力合わせるように配慮させるわよ。」

「うん、それなんだけど、やはりパーティーでのクエスト形式が好ましいと思う。それも未知で、それなりに今の俺達にとっては難易度が高いのがいい。だけど、俺達はもはや最高難易度のクエストをクリアしてしまっているし、そんなのいきなり用意できるかな?」


 そう、あのクエストは俺達にとって未知のクエストだったし、あの当時の俺達の実力では、力押しでは厳しかった。

 だが、今は違う。ローズ、サモン、クリスさんは異名が付くほどのプレーヤー。カオリンもタカピさんも、ステータスは彼らには及ばないものの、一系統だけならほぼ極めている。

 そして俺だ。そう、メイガスの能力に気付いた事により、普通では不可能なチートができてしまう。

 なので、生半可なクエストだと、本気になれそうもない。

 また、人数を減らして挑戦するのもありだろうが、それを言い訳に、そこに逃げてしまう可能性もある。スキルやステータスを減らすとかは論外だろう。

 更に、最初からゾーンに入らなければならないという、プレッシャーもある。


「う~ん、そこは新庄ちゃんに聞いてみるわ。とにかく、希望は聞いたわよ。ただ、これは私の感想なんだけど、アラちゃんが今の状態で、前回のようになるのは難しいかもしれないわね。」


 流石は姉貴だ。最初からそれを心配していたのだろう。俺も今それを危惧していたし。

 姉貴は更に続ける。


「アラちゃんの場合、余計な事を考えすぎなのよ。カオリンちゃんみたいに、いざ戦闘となると、猪突猛進するタイプのほうが楽なのは解るわよね?」

「うん、解る。だが、あれが俺のスタイルだしな~。いっそ俺も前衛に出て見るか? うん、あの時も前に出たからああなった訳だし。」

「それはありかもね。まあ、私は記録しか見ていないから、アラちゃんが、その、ゾーンとやらに入った時の正確な状況も分からないけど。」


 う~ん。やはり、そうそう明快な具体案は出ないか。


「だよな~。でも、NGMLも、今はそれどころじゃなさそうだし、環境が整うまで、皆と相談してみるよ。うん、姉貴、ありがとう。」

「大して力になれなくてごめんね~。でも、私だって、アラちゃんが片付かないと、お嫁に行けないから、頑張ってね~。」


 ぶはっ!

 よくよく考えてみたら、姉貴にも迷惑かけまくりだな。


 ここで姉貴が落ちたので、俺は引き続き考えるが、あまりいい案は出ない。

 あの、鳴門から入れる新規クエストに賭けるしかないのかもしれないが、ここのクエストは、ある程度のレベルさえあれば、クリアだけならそれ程難しくはないのが大半だ。もっとも、コンプとなると知識と頭脳を要求されるが。

 かと言って、俺の為だけに難易度を引き上げさせるのもどうかと思うし、それを知ってしまった瞬間、本気になれない気もする。

 ならば、やはりPVPか? タイマンではなく3対3くらいなら丁度いいか?

 しかし、サモン達とやった時には、ゾーンには入らなかった。まあ、勝負も一瞬でついてしまったが。


 更によくよく考えてみれば、こんなゲームごときでゾーンに入れる方が異常なのではあるまいか? その証拠にブルは入った事が無い。入っていれば、彼女は俺と同じだっただろう。

 ふむ、これは、こういうクエストがいいとか、希望を言っている場合ではなさそうだ。なるべくハードと思われるクエストに、どんどん挑戦していくべきだろう。


 そう考えると、俺は居ても立ってもいられなくなった。

 ギルドルームを出て、街の中心の転移装置を目指す。



 流石は土曜の晩だ。もう1時前だというのに、まだかなりの人通りがある。


「全く、一人で部屋を出て何をするつもりですか? 付き合わされる身にもなって欲しいですね。」


 聞き覚えのある声に振り返ると、人混みの中から、こちらに駆けてくるライトが居た。

 相変わらずIDは非表示なっているが、このアバは忘れようがない。

 装備もあの硬直する時と全く同じ、黒いローブ姿だ。


「お、お前、もう大丈夫なのか? というか、本当にライト、いや、比良坂なのか?」


 俺は慌てて聞く

 そらそうだ。いくら何でも速過ぎだろう。俺の読みでは、彼はまだ岡田部長の質問攻めに遭っているはずだ。

 そして、これがライトの分身とかである可能性も否定できない。

 俺の聞いている限りでは、ライトは本人を含めると4人居るはずだ。

 そう、先程の抜け殻ライト、コピーライト、桧山さんにぶち切れ転移のライト、そして蘇生成功ライトだ。


「な、こんな所でその名前を出すとは、本当に愚かな人ですね! ええ、僕は誓って本人です。貴方が部屋を出たから追ってくれって、無理矢理潜らされたんですよ。これから寝るつもりだったのに、全く迷惑な話ですよ。」


 ふむ、なら一通り確認作業は済んだのだろう。しかし、NGMLの人使いの荒さは凄いな。新庄や桧山さんが少し心配になる。


 そして、この言い方は間違いなくあのライトだ!

 死ぬ前の、言葉遣いだけは丁寧な、こましゃくれたライトだ!


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