八上姫の使者
八上姫の使者
ふむ、全員男で、20人は居るか?
その白装束の集団は、俺達を見つけると、古風な顔を顰めながら近づいて来た。
「おやおや、何ともみすぼらしい姿の奴らだな。」
「全くだ! 今時ジャージアバって、貧乏臭いね~。せっかくこれから八上姫に求婚するのに、けちがつきそうだね~。」
「おいおい、本当の事を言ってはいけないぞ。でも、何かあったようだ。話だけでも聞いてやろうじゃないか。」
「そうだな。おい、そこのお前! 我らは八十神、素戔嗚様の直系なる物だ! 聞いてやるから話してみろ。」
何とも高圧的な連中だ。これがゲームでなければ、喧嘩になるか、無視するかの二択しかないな。
そして、最後の奴がライトを指さしたので、ライトが答える。
「え、えっと、僕達は鰐を騙してこの土地へ渡ってきたのですが、途中で騙した事がばれてしまって、身ぐるみ剥がれてしまったんです。」
ふむ、そのまんまだな。今回は下手に嘘を吐く必要は無いようだ。
すると、連中はにやにやしながら答える。
「そうか、それは災難だったな。では、そこの海水で身体を洗えば良かろう。さすれば装備が復活するやもしないぞ。」
「あははは。それはいい。是非そうしたまえ。」
「後、身体を洗った後、風で乾かせば尚いいかもしれんな。ところで、大国主命はまだか? 荷物を持っているだけなのに、我ら兄神に遅れるとは情けない奴だ。」
「全く、末弟のくせになってないな。我らに同行出来ただけでもありがたく思わねばならないと言うのに。」
「さあ、こんな奴らは放っておいて、八上姫へ求婚に参るぞ!」
連中はそう言い残して去って行った。
う~ん、全員同じ顔なんで、誰が誰やら区別がつかないが、全員むかつく連中なのは確かだな。大国主命とやらも、こんな兄が居ては大変だろう。もっとも、そいつもこいつら同様のいけすかない奴の可能性が高そうだが。
連中が見えなくなり、俺達は言われた通り、側に見える砂浜に行く。
「本当に神話通りね。違うのは装備と毛皮くらいかしら?」
カオリンはそう言いながら、海に入って行く。
「え? これやらないといけないんだ? 海に浸かったところで装備が復活するとは思えないぞ?」
「うん、シンさんの言う事はもっともなんだけど、これをしないと、先に進まないらしいんだよ。」
「そうですわね。私も思い出しましたわ。鰐を騙して毛皮を剥がれてしまった兎は、あの八十神に騙されて、海水で身体を洗い、更に酷い目に遭うのですわ!」
ふむ、何やらそういう話のようだ。
そして、クリスさんの言う通り、もしこれが装備では無く、毛皮を剥がれたのであれば、海水なんかで洗えば、とんでもない事になるのは火を見るより明らかだ。
全く、あの連中、性格が悪いにも程があるだろ!
とは言え、ライトの言うように、話が進まないのではどうしようも無い。
皆でぞろぞろと海に入り、そのまま砂浜で風に当たる。
箱根の温泉同様、濡れたという感覚は無いのだが、風が心地よく感じられる。
暫くすると、背中に大きな袋を持った、小太りの男がやって来た。
さっきの連中とは少し顔付きが違う。
う~ん、どっかで見た事があるのは確かなのだが、名前を思い出せない。
大きな耳たぶで、とてもふくよかな顔だ。
その男は、俺達を発見したのか、近寄って来る。
「おやおや、全ての装備を無くしてしまっているご様子ですね。何がありましたか?」
ふむ、さっきの連中とは少し雰囲気が違うな。
普通に俺達を心配してくれている感じだ。
それにライトが答える。
「は、はい、実は…………」
ライトは先程までの出来事を、これも事実のみを伝える。
「おや、それはいけない! 全く兄上達も意地悪な事を! では、そこの小川で身体を洗いなさい。そして、洗ったらこれを使うといいでしょう。」
男はそう言って、あるアイテムを俺達それぞれに渡してくれた。
『蒲の花粉』:イベント専用アイテム
ふむ、多分、言われた通りに川で身体を洗い、これを使えば装備が復活するのだろう。
さっきの連中とは大違いだな。
「では、私も先を急ぐので、失礼するよ。あ~、言い遅れたね。私は大国主命と言う者だ。先程は兄上達が大変失礼をしたようで申し訳ない。ところで、その称号を着けている君達なら聞けそうだ。八上姫を知っているかい?」
ん? NPCから聞いてくるとは意外だな。
俺がライトを見ると、ライトもこの展開は知らないようだ。首を捻っている。
しかも、称号についての但しがある。現在ライトの称号は『水龍を屈服させし者』。八岐大蛇の神器クエストをコンプした者のみに与えられる物だ。
ライトが困っていると、カオリンが答える。
「え~っと、大黒天…、にはまだなのよね。大国主命様、はい、貴方の兄達は、八上姫には選ばれないでしょう。彼女と結婚できるのは、きっと貴方でしょう。」
ん~? 何この話? さっぱりだ!
「いやいや、これはどうも。お世辞だったとしても、自信がつくよ。うん、ありがとう。ところで、さき程の鰐にはちゃんと謝ったかい?」
「いえ、まだよ?」
「じゃあ、ちゃんと謝りたまえ。さすれば新たな道が開けるやもしれない。」
ぬお! 再び『新たな道』だ! これは期待が持てる!
「そうさせて貰うわ。どうもありがとう。」
大国主命は、先帆の八十神達を追うように去って行く。
「カオリンちゃん、なんやよう分らんけど、これはええ感じや! 流石やな!」
俺達が言われた通りに小川に浸かると、サモンが驚いたように言った。
「あら、たまたま知っていただけよ。この話は、実は兎が八上姫の使いだったって落ちなの。それで、八上姫に求婚しにいった八十神達は、あれでアウトね。そして、兎に親切をしてくれた大国主命が選ばれるって話なのよ。」
「へ~、あたいもそこまでは知らなかったっす。悪い兎が報いを受ける話だけだと思っていたっす。流石はカオリンっす!」
「うん、昔話なら、ローズちゃんの話は間違っていないわね。でも、神話だとここまで続くのよ。じゃあ、今度の授業はそういう話もしてあげるわね。」
「はいっす! どうもっす!」
俺達は小川から上がり、早速先程のアイテムを使用する。
うん、完全に装備が復活した!
ローズとカオリンとサモンは、銀色の鎧姿に。そして、俺とクリスさんとライトは、漆黒のローブだ。
そこで、眼前にいつものでっかいロゴが流れる!
『因幡の白兎クエストコンプリート!』
更に小川のほとりに扉が出現した!
「お、これでコンプや! せやけど、まだあの鮫に謝ってへんけど、これでええのんか?」
「そうだな。じゃあ、帰る前に、先に鰐に謝りに行くのか? って、あいつら何処に居るんだ?」
「あ、シンさん、あそこです! また一匹顔を出しています!」
ライトが指さす先には、扉の側の小川の中、またもや器用にテイルウォークしながら、上半身を水面に晒した鮫が居た。
すぐさまライトが走り寄って行く!
「さ、先程はごめんなさい。そ、それで……」
「謝るなら僕も許すワニ。それで、数は数えてくれたワニか?」
やっぱりか!
多分、今の俺は傍から見れば、凄いどや顔だろうな。
「ええ、ちゃんと数えたわよ! 全部で丁度300匹ね!」
すかさずカオリンが答える。
「ありがとうワニ! これで全て許すワニ! なので、これからは友達ワニ!」
うん、どうやら正解だったようだ。
皆の視線が俺に刺さる。
いや~、照れるな。
そして鮫はこれで気が済んだのか、川の中に消えて行った。
ふむ、あの巨体でよくこの小川を遡上できたな。って突っ込みはもういいだろう。




