データ人間の条件
データ人間の条件
現在、俺は腕を組んで考えを整理している。
カオリンも少し上を向いて、顎に指を当て、思案中のようだ。
ローズは心配そうに上目遣いで俺を見ている。
ライトがどうなったかは松井に聞けば教えてくれる可能性もあるが、現状、それどころではなかろう。姉貴を寄こしてくれただけでも良しとしなければばらない。
そう、姉貴の言う通り、ライトがどうなったとか騒いでも意味は無い。
奴の事はNGMLに任せるしかない。
ならば今、俺が考えるべきは原因の方だ。
そう、少しだが見当はついているのである。
あの時、俺が死んだ時、俺は異常に身体が軽い、というよりは異常な反応だった。なので、そういう状態になることが引き金かと疑ってはいた。
だが、今回の奴を見ていると、それは見当違いだろう。奴が集中していたとはとても思えない。
「カオリン、あの時、俺がぼさっと、いや、硬直していた時の事を覚えているか?」
カオリンはその質問を待っていたかのように、目を輝かせる!
「そうなのよ! あれなのよ! ああなる前のシンはなんか、やたらちょこまか動いていたわよね! あたしは攻撃に専念していたから、あまり見れていないのだけど、あれだけ動いていて、あたしの邪魔にならなかったのは凄いわね。」
そこかい!
しかし、この発言は的外れでは無いと思う。そう、あの時俺はかなり集中できていた。カオリンを含めて、あの場に居た全ての、次の動きが読めていたと思う。
「うん、あの時、俺はとても集中できていたな。考えるよりも、先に身体が勝手に動いていたと思う。あれが、ゾーンに入るとか言われる状態なのかもな~。」
すると、ローズが少し驚いたかのように身を引き、尋ねてきた。
「シンさんがゾーンに入るって、なんか凄い感じっすね? それこそ無敵だったんじゃないっすか?」
「まあ、前衛に出たのに、一発も貰わなかったと思う。しかし、問題はそこじゃない。ライトとの共通点だ。ローズ達から見ていて、あの時のライトはどうだった? 俺から見た奴は、追い詰められて暴走していた感じだ。目の焦点が合っているようには見えなかったな。」
「そうっすね~。あいつが大黒天の小槌を使っていたのは、皆、分かってたっす。無くならなければいいって感じで、2回まで使っていたはずっす。実際は、使い切っていた可能性が高いっすけどね。だけど、その後の攻撃が単調すぎっす! せっかくMP回復したなら、もっと他のスキルも使うべきっす! でも、サイコドレイン合戦になったら、あいつに勝ち目はないっすけどね。」
そう、同時に唱えたならば、俺の回復量は1800くらい。奴の回復量は1300くらいだ。そこから魔法の消費MPが引かれると、トータルして、俺はプラス200。奴はマイナス800だ。実際、撃ち合いになった時の詠唱スピードは大差なかったと思う。
「あたしから見てもそうね。あいつもドレイン合戦をやった結果、自分に勝ち目が無い事は理解できたはずよ。詠唱速度もシンのほうが少し早かったと思うわ。そして、あの後の攻撃はもう無茶苦茶ね。シンの魔法防御は万全。なのに、魔法に拘り続ける。おかげで、せっかくあたし達で考えた作戦も使わずじまい。どう考えても理不尽よね。心ここにあらずってところかしら?」
うん、俺もそこが疑問だった。
奴が捨て鉢になったのは間違いないだろう。物理攻撃でも俺の方が勝っていたから、気持ちは理解できる。
「うん、しかしそれ、俺とは全く逆の状態だろう? 俺が死んだ時は、完全な集中状態。奴が死んだ時は、暴走状態。ここから導き出される共通点は?」
三人並んで腕を組んで考え込む。
沈黙を破ったのはカオリンだ。
いきなり顔を上げて、手を打った!
「分かったわ! さっき、シン、身体が勝手に動いていたって言ったわね? それよ! あいつも、身体が勝手に動いていたのよ! だから、以前のウィザードの癖で、勝手に攻撃魔法を詠唱していたのよ! そうなった過程は全く違うけど、結果としては同じじゃないかしら?!」
ん? これは…?
俺も顔を上げる!
「そうか! ならば説明がつく! 奴もその意味ではゾーンに入っていたと言うべきなんだ! 無我の境地って奴か? とにかく思考過程を省いて行動していた状態だ!」
ローズも顔を上げた!
「納得っす! じゃあ、もう一度シンさんがその状態なれば!」
三人で力強く頷いた!
「でも、そんな状態、そうそうならないっすよね。」
「ローズちゃん、今から二人でシンを限界まで追い詰めてみる? あいつはそうなった結果、その境地に達したと見るべきよね。」
「そうっすね。やる価値はありそうっすね!」
ぐはっ! 二人は俺越しに顔を見合わせて頷き合う。
「ま、待て! もし、そうだとしても、俺の身体の準備がまだだろ! BAも繋がれていない、冷凍保存の状態じゃ無意味だ!」
「うんうん、ちょっと待って欲しいですよね~。もっとも、既に準備は出来ているんですけどね。」
ぶはっ!
いつの間にか、隣のソファーにあのエルフアバターが鎮座している!
松井は相好を崩しながら続ける。
「いや~、本当に君達には驚かされますね~。桧山が呼び出すので、聞かせて貰えば、僕達より先に核心に近づいている感じじゃないか。うん、僕もその仮説は正しいと思う。今、医療開発の岡田部長にも知らせたよ。」
ふむ、これはかなりいい意見だったようだ。
「じゃあ、俺、生き返れますか?! そして、それが成功したらローズの病気も!」
俺は、身を乗り出す!
「うんうん、でも、さっきも言った通り、少し待って欲しい。こういう言い方をすると何だけど、君は彼とは違う。せっかくここまで辿り着いたんだ。幸いにも、彼の状態は、今解析中だけど君とほぼ一緒のようだね~。なので、我々も君に対しては、これ以上リスクを冒したくはないんだよ。意味は解るよね~。」
うわ~、流石は松井だ。そこまではっきり言うか?
カオリンもローズもかなり微妙な表情だ。
そう、俺はライトと違って貴重な天然メイガスであり、天然幽霊。
ちなみに、天然メイガスのスペアはブルしかいない。天然幽霊は今の所俺だけ。
対して人工メイガス&人口幽霊のライトは、その気になればいくらでも替えが利く。
命の価値が違うとはっきりと告げたようなものだ!
しかし、カオリンは奴の事はどうでもいいようで、俺の状態について確認してくれた。
「つまり、あのお馬鹿の実験に成功してから、シンにもやるという意味でいいのかしら? それと松井さん、さっき準備は出来ていたって仰ったわよね?」
「うんうん、そのつもりだね~。準備が出来ているって言ったのは、そのままだよ。我々も、再びシン君の意識がPCに入った時の状態になるのではという、淡い期待があったからね~。シン君の遺体は、現在冷凍状態ではないね。強制的に新鮮な血液を循環させている状態だ。これもBAの技術の副産物だね~。心臓と血管の弁には偽信号を送って、体内の血流を維持している。もっとも、これは最初からだけどね。」
なるほど。これで繋がった!
冷凍保存で何故タイムリミットがあるか疑問だったが、その状態ならば納得だ。
俺に遺体を見せられなかったのは、俺を焦らせたくないという考えだったのだろう。
「でも、時間が無いのは事実だ。なので、我々も全力を尽くしている。勿論、比良坂君も無碍に扱うつもりはない。それは多少リスクのある事はするけどね。とにかく、今の君達の考えは素晴らしかったよ! そういう意味でも、シン君は貴重な存在だ。絶対に失いたくはない。うん、後少しだ! 期待して欲しい!」
珍しく松井は興奮気味だ。
「分かりました。しかし、あの無我の境地みたいな状態、そうそうなれないと思いますが? 俺、座禅とか組んだ事無いですし。切羽詰まってぶち切れる的なのも、できれば勘弁して欲しいです。勿論、他に方法が無ければ仕方無いですけど。」
「うんうん、それに関しても…、ん? 連絡が入ったね。じゃあ、僕はここで。」
松井はそこで消えてしまった。
まあ、ライト絡みでかなり忙しいのだろう。
そして、ライトには悪いが、俺の希望は膨らんだ。今回のPVP、意味があったのは間違いない。
また、その状態になる為の方法も、松井達が考えてくれているようだし、任せていいだろう。
ただ、その状態になったからと言って、俺が生き返れる保証はまだ何も無いのだが。




