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VRファントム  作者: BrokenWing
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試合直前

          開始直前



 その後、会場を指定され、松井とライトが部屋を出ていくと、入れ替わりにカオリンとローズが入って来た。

 カオリンは、例の魅力的なチアリーダーのアバだ。

 しかし、今はそれどころではない!


「ローズ! 大丈夫か?!」


 俺はローズに駆け寄る!

 ローズも俺に抱きついて来た!


「もう大丈夫です。落ち着きました。裸を見られるくらいは、もう慣れています。だから、本当に嫌だったのは、『アラタさんに』私の身体を見られてしまった事です! 本当に私でいいんですか?! あんなミイラみたいな身体の私で!」


 俺はローズを柔らかく抱きしめ返してやる。


「ああ、構わない。俺は泉希と一緒に居られるだけでいい。」

「本当ですね! 絶対ですね! 私、信じていいんですね?!」

「うん、だから泉希、早く元気になって欲しい。そして、俺に抱きしめさせてくれ。って、あ、その前に俺が先だよな。今のままでは、リアルじゃ何もできないな。」

「えへへ。そうですよね。だから、シンさんも早く生き返って下さい! そして、リアルの私にキスして下さい!」


 ローズが顔を寄せてきたので、俺はキスしてやる。


「え~っと、シン、ローズちゃん。あたしも居るんだけど? それで、何があったの? 詳しく聞かせて!」

「う~ん、カオリン、俺が何を見たか、何があったかはローズに聞いてくれ。流石に俺の口からは。」


 うん、ローズはもう大丈夫だろう。

 俺は、ほっとしてソファーに腰掛ける。

 すると、カオリンとローズも俺の両脇に腰掛ける。


 ローズは俺越しに、カオリンに何があったのかを説明する。

 カオリンは眉間に皺を寄せ、不快感を顕わにする。

 そして、話を聞き終わると、立ち上がって大声で叫ぶ!


「シン! 今回のPVP、絶対に勝つのよ! 負けたら承知しないわよ!」

「当然だ! 俺にはそれくらいしか出来ないからな!」

「ほな、気合も入ったところで、そろそろ行こか~。」

「そうですわね。後、シンさん、これが言われていた装備ですわ。」


 ぶはっ!

 いつの間にか、サモンとクリスさんが扉のところに居た。

 聞かれてはいないと思うが、まあ、この人達なら聞かれていたとしても問題無いだろう。


 俺はクリスさんとカオリン、そしてローズから、今回の為の武器と防具を受け取る。


「うん、これで準備は万全だ!」


 俺達は颯爽と部屋を出た。



 俺達は『江戸』の転移装置を降りて、闘技場の立ち並ぶ区画に向かう。


「え~っと、第三闘技場だったな。会場前で最後の打ち合わせ、賭けるものの提示だ。それで、ローズ、いいのか?」


 そう、これから会うのはあのライトだ。

 アバターとは言え、中身はローズに悪戯をした比良坂。それは彼女も既に知っているはずだ。


「確かにあいつにはもう関わりたくないっす。でも、これからシンさんが凹り倒してくれると思うと、わくわくするっす!」


 ローズの口元が吊り上がる。

 うわ、いくら俺のストライクとは言え、この表情はちょっと引くな。

 まあ、奴を凹り倒したいのは俺も同じか。



「やっと来ましたね! 宮本武蔵気取りですか? この僕を待たせるとはいい度胸です!」

「う~ん、時間ぴったりなんだけどな。しかし、お前、取り巻きが減ったな。以前はもっと居たと思ったのだが?」


 会場前に居たのは、例の茶髪ジャージアバが二人だけ。

 片方がライトなので、奴の同志とやらは、一人だけだ。

 まあ、この時間と言う事もあるだろうが、それにしても。

 俺達の読みでは、奴の同志とやらは最低でも9人居るはずだ。


「そ、そんな事は貴方には関係無い事です! それより、賭ける物を決めましたか? 僕が求める物は、以前にも言いましたよね。そう、貴方の正体です。僕も色々と憶測は出来るのですが、貴方とこのNGMLの繋がりは謎だらけです。それで、貴方は何を僕に乞うんですか? もはやこの世界において、僕に手に入らない物なんてないですからね。物によっては、今あげてもいいんですよ?」

「ああ、決まったよ。俺が望むのは、お前のIDの再登録だ。聞いたぞ。イカサマステの奴が居るって。」


 そう、これが奴に対する報復の第二弾だ。

 レベルなんかは、仲間さえ居ればすぐに上がるが、奴の仲間は、奴の特殊性に惹かれて集まっていると見ていい。

 俺の目的は、奴を只の人に戻す事だ。

 もっとも、メイガスというだけで引く手は数多だろうが、所詮は人工メイガス。今回の実験が終われば、元に戻されるだろう。


 そして、このIDの再登録には、実はもう一つ意味がある。

 それは、ライトのギルド、『VR真理会』の解体だ。

 オーナーの居ないギルドは存続できないので、自動的に消滅する。

 もっとも、奴が事前に引継ぎをしていれば別だが、あの性格ではそんな事はしていないだろう。


 すると、奴が返答するよりも前に、後ろから声がした。


「は~い、じゃあ、アラ・・、シン君の望みはライトニングサークル君のIDの再登録。それで、ライトニングサークル君の望みは、シン君の正体。それで決まりね~? あ、言い遅れたわね。私が今回の勝負の立会人、トリエステよ。アンダスタ~ン?」


 ぶはっ!

 いつの間にか背後に、もはや見慣れてしまった三頭身美少女が居た!


「え? トリエステさん? あ~、松井さんが何か言っていましたね。NGMLの職員ですね。まあ、流石にこの僕が出るんです。注目されて当然と言うところですか。ええ、僕はそれで構いませんよ。僕が負けるなんて事はありえませんからね。」


 ライトよ、お前のその思考回路は本当に羨ましく思えるな。

そしてこれは、単に見張られているだけだと思うぞ?

 しかし、奴が同意してくれて良かった。

 奴も俺と同じように、IDの再登録とか言い出したら、流石に受ける事が出来ない。


「ああ、俺もそれでいい。それで、ルールもさっきの消費アイテム禁止、だけでいいんだな?」

「勿論です。じゃあ、君は先に観覧席に行きなさい。そこで、選ばれた僕の力を再確認するといいでしょう。」

「はい! ライト様!」


 ライトは、隣に居る同志とやらを促す。

 しかし、ここでまた姉貴の声だ。


「え~っと、貴方、ベトレーさんは入れないわね。ライニングサークルさんに聞いていると思うけど、今回は関係者だけなのよ。ごめんなさいね。じゃあ、始めるわよ~。」


 ふむ、ライトの同志は、隠密玉でIDを隠しているのだが、既に調べはついているようだ。

 うん、俺もこれ以上の人には関わって欲しくない。

 さっさとライトに愛想を尽かして、普通に遊んで欲しいところだ。



 俺は赤コーナーの転移装置へ。

 ライトは青コーナーへと分かれた。


 衝立の中で俺は装備をする。

 武器はクリスさんが持ってきてくれた弓。これは普通の弓とは少し違う効果だ。『フェイルノート・改:攻撃力+200 効果:物理防御半減』

 効果を自由に選べる、『三好左文字』の弓版と言えばいいだろう。


 防具は少し迷ったが、昨日の作戦通り、魔法防御を優先した。

 そして、アクセサリーはもはや固定と言える、『真・八尺瓊勾玉』と、『天叢雲剣』、そして『ファントムカース』だ。


 更にアイテムフォルダーに予備の武器を入れる。

 先ずは盾。これは、ローズから借りた、『隼人の盾』という、防御力が240も上がる一品だ。

 次に剣。これは説明するまでもなかろう。カオリンに借りた、貫通効果のある、『義元左文字・改』だ。

 そして、これもローズから借りた『金時の鉞』と、普段装備している『ラインの杖』を入れる。

 後は、物理防御特化仕様の防具セットを放り込む。


 称号は攻撃力を重視して、『水龍を屈服させし者』。


 うん、これで準備は出来た。

 俺は大きく深呼吸をする。

 すると、考えてもいなかった台詞が勝手にこぼれた。


「さあ、俺と泉希の贄になって貰おうか。」




「ほんで、姐さん、わいらは入ってOKなんや。まあ、わいらにはもう隠す必要が無いってこっちゃろな。」

「そうですわね。だから、サモンちゃん、この試合を見るには覚悟が必要ですわ。」

「ほんなもん、最初にシンさんに関わった時点でとっくに出来とる!」

「ええ、多分この試合は、NGMLにとって何か重要な実験みたいね。あたしも少し緊張してきたわ。」

「あたいはシンさんを応援するだけっす! ライトを凹れっす!」


「この試合の意味をどう取るかは、各自にお任せするわね。但し、当然この試合での事は口外禁止よ。それだけは約束してね。アンダスタ~ン?」

「了解や!」

「承知しましたわ。」

「分かってるわ!」

「はいっす!」


 5人は観覧席へのゲートをくぐる。




 足元にスタートラインを見下ろしながら、俺は考える。


 とにかく相手のデータが少ない。松井の話で、俺とほぼ同じスキルを取っているという事だけ。しかし、俺のデータはライトに筒抜けのようだ。


 もっとも、俺はまだ『八岐大蛇』クエストからのスキルポイントを殆ど使っていないので、まだ15000P程残っている。

 これは、昨夜皆と相談したのだが、試合中に決めたほうがいいという結論に達したからだ。

 なので、ライトからしても、俺のデータは完璧では無いと言えるのだが。


 正面を見ると、反対側のスタートラインの奥で、奴も下を向いて何か考えているようだ。前回はすぐに突っ込んで来たので、少し意外だ。

 しかし、すぐに顔を上げ、嫌味な笑いを浮かべる。


 ふむ、奴の装備も弓か。

 まあ、これは当然だろう。メイガスに弓を持たせると、はっきり言って反則級の強さになる。

 通常ならば連射が効かない弓なのだが、メイガスだとそれが可能になるからだ。

 殆ど、マシンガン装備と考えていいだろう。



 ふと、観覧席に目をやると、カオリンが俺に手を振っている。

 うん、今回も魅力的だぞ!

 ローズは立ち上がって、心配そうに俺を見ている。

 サモンとクリスさんは腕を組んで、どっかりと腰を下ろしている。

 姉貴は座って上を向いているところを見ると、コールしているのだろう。



 俺とライトは、ほぼ同時にスタートラインを踏み出した!


『FIGHT!』


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