不審者
不審者
ドローンの扱いは何とかマスターできたようだ。
此処と、泉希の部屋だけしか立ち入りは許可されなかったが、充分リアルに戻れた気分になれたので、それ以上は望まない。
また、現状についての話も聞くが、新庄も桧山さんも、医療に関しては専門では無いと、あまり有益な情報は得られなかった。
「ところで、俺の遺体というか、身体を見せて欲しいのですが? 何でも、冷凍保存されているって聞いているけど?」
今更という気もしたが、確認しておきたかった。
新庄と桧山さんが、姉貴を見る。
「う~ん、アラちゃんの身体がある部屋は、医者でないと入れないのよ。」
「え? 本人でもダメって?」
「なんか、雑菌とか何とかで厳しいみたいよ?」
少し不審に思って、質問を変えてみる。
「じゃあ、姉貴は見たのか?」
「勿論、あたしは最初に見せて貰ったわよ~。あれなら大丈夫そうね。そんな事より、そろそろ泉希ちゃん達も話が済んだ頃ね。戻るわよ。」
ふむ、何か隠していると見た方が良さそうだ。
まあ、NGMLが俺に見せる気が無いのなら、これ以上ごねても無理だろう。
そして、姉貴が居る以上、滅多な事は無い筈だ。
姉貴と一緒にまた泉希の部屋に戻る。
「お帰りなさい、アラタさん。」
「只今、泉希。あれ? 香は?」
「あ、カオリンはもう帰りました。後でシンさんの応援に行くからって、張り切っていましたよ。」
ふむ、香の家からNGMLまでは1時間くらいか?
現在は10時前。試合までに色々と済ませておきたい事もあるのだろう。
ここ最近、彼女は俺のせいで、勉強とか、自分の時間を大幅に削られているはずだ。
そこへナースが入って来た。
「あ、もうそんな時間ね。アラちゃん、これから泉希ちゃんの検査があるから。残念だけど時間切れね。」
どうやら、俺達の為に、いつもの検査の時間をずらしてくれていたようだ。
「うん、泉希とは此処でなくても何時でも話せるしな。俺も、今日は泉希の顔が見られただけで充分だ。じゃあ、泉希、俺はここで落ちるよ。姉貴、ドローンの電源を切ってくれ。」
「あ、ドローンの電源はそっちから切れるわよ。え~っと、真ん中のボタンだったかしら? じゃあ、ドローンはシステム・・・、いえ、ここに置いておくわね。泉希ちゃんもその方がいいでしょ?」
「はい! 私もそのドローンがあると、何か安心します。じゃあ、アラタさん、また後でそっちに行きますね。」
俺がコントローラーの真ん中のボタンを押すと、モニターが真っ黒になった。
俺がTVをつけながら、ぼんやりと余韻に浸っていると、ローズが来た。
「お帰り、ローズ。」
「アラタさん、いや、ここではシンさんっすね。只今っす!」
ふむ、そう言えば、俺は呼び方の切り替えがすぐにできる。
これもデータ人間だからだろうか?
「ところで、ローズ。BAはいつもどうやって着けているんだ?」
「あ、BAはナースに着けて貰うっす。あたいは頻繁に着脱しないから、呼んだら喜んでやってくれるっす。今も、検査が済んですぐにやって貰ったっす。」
ふむ、あの右手のタブレットでナースコールが出来るのだろう。
「なるほど。それなら安心だな。それで、今日の試合・・・」
「ん? 何かむずむずするっす? え? 何かおかしいっす! ちょっと落ちるっす!」
ローズは一瞬で消えた。
何かあったのだろうか?
俺も心配になって、ドローンの電源を入れてみる。
うん、ローズの部屋に置いて貰って正解だったな。
しかし、モニターには、奇妙な映像が映し出された。
新庄以上のぼさぼさ頭で、白衣姿の小柄な男が、泉希の隣に立っている。
顔は見えないが、身体つきとかでも男と分かる。
そこまではいい。
なんと、泉希の胸が曝け出されている!
この男、聴診器も着けていないので、とても医者とは思えない!
声が入った!
「ふ~ん、BAのIDはローズバトラーか。これは僕もびっくりですよ。こんなところに素戔嗚の知り合いがいるなんてね。しっかし、貧相な胸ですね~。どれ、下はどうなっているのかな? あ、先にお顔を拝見したいな。」
その男はローズのBAに手をかける。
「馬鹿、何してる! お前、誰だ!」
俺は咄嗟に大声を上げる!
これは向こうにも届いているはずだ!
「へ? この部屋見られているんだ。じゃあ、邪魔が来ないうちにっと。」
男は泉希のBAを外す。
泉希の顔が曝される!
彼女の口元がぷるぷると震え、目から涙が零れた!
ヤバい! これは不味い! 何とかしないと!
俺は、俺の知っているNGMLの人、全員に纏めてコールする!
後で思ったが、これはメイガスにしか出来ないだろう。
「泉希がヤバい! すぐに泉希の部屋に行ってくれ!」
「アラちゃん! 何があったの!」
「姉貴か! ローズの部屋に不審者だ!」
「すぐ行く! アラちゃんも出来る限りの事を!」
「分かった!」
姉貴に続いて、桧山さんからも返事があったので、同様に伝える。
松井と新庄は離席中なのか、返事は無かった。
モニターを見ると、もう一刻の猶予も無い!
泉希の右手には、既にタブレットは無い。
おそらく、こいつが真っ先に取り上げたのだろう。
男の手が泉希の下半身に伸びる!
「馬鹿! やめろ!」
俺は怒鳴りながら、ドローンを操作する!
躊躇わずに、その男の頭に突進させる!
モニターの画像が一瞬乱れて、床が映し出された。
「痛っ! 何だ? ん、おもちゃか。ふん、邪魔だね。」
激しい音がして、モニターが真っ黒になった!
チッ!カメラが壊されたか!
「誰か~! すぐに来てくれ! 不審者だ!」
スピーカーも壊れている可能性があるが、そんな事はどうでもいい!
「誰か~! 早く!」
「せっかくこれからなのに、五月蠅いですね!」
よし! カメラは死んだが、まだスピーカーもマイクも生きている!
しかし、再び、ガッ、ガッ、バキッと音がする!
大方踏み潰しているのだろう。
俺は再び大声で叫ぶ!
「誰か~!」
「あんた! 何してるの!」
しめた! 姉貴の声だ!
「こいつが泉希に悪戯を! 姉貴! 頼む!」
「あ~、済みません。僕は迷ったんですよ。偶々この部屋に入ったら、この人が居ただけですね。うん、僕は何もしていませんよ。彼女は最初からこの格好でしたね。」
こいつ! いけしゃあしゃあと!
そこで俺は気付いた。
こんな詭弁を弄するのは奴しかいない!
間違いない!
こいつはライトだ!
また声が入る!
「生田さん、大丈夫ですか?! ん? 貴方は・・・? あ! 比良坂さん! とにかくここから出て下さい! 敦子さん、生田さんをお願いします!」
「ええ! 泉希ちゃん、もう大丈夫よ~。それで、桧山ちゃん! このアホタレをお願いね!」
「はい! さあ、比良坂さん、自室に戻って下さい!」
「仕方無いですね~。はい、僕は何もしていませんし、何もしませんよ。じゃあ、僕の部屋まで案内して下さい。」
更に複数の足音と、男性の怒声が飛び込む。
「比良坂! 大人しくついて来い!」
ふむ、かろうじて最悪はま逃れたか?
「姉貴! 泉希は?! 泉希は大丈夫か?!」
「あ、アラちゃん、まだ繋がっているようね。ええ、ちょっと、いえ、かなり危なかったけど。とにかくお手柄よ! あのままじゃ・・・、あ、一旦ドローンを切りなさい!」
「わ、分かった。」
俺はドローンの電源を切った。
ふむ、男の俺には聞かせられない事もあるのだろう。
しかし、あの部屋にドローンがあって助かった。
声の出せない泉希では、何をされたか分かったものじゃない!
改めて姉貴の勘の良さには畏れ入る。
そして、激しい怒りがこみ上げる!
「ライト! いや、比良坂か? 絶対に許さない!」




